4.激闘(5)

「ほぅ…。あの姫サマ神官、どうやら本当に戦えないようですね」と、家臣が呟く。


その声音には嬉しさがジットリと滲んでいるようだった。


「どうやら、そのようね……」と、私は言葉を返す。


神官さまはしゃがみ込んだままであって、先程に見せた光の術を発動させる素振りなど全く見受けられなかった。

不死者たちを次々と喚び起こしては勇者一味に向けて間断無く攻め寄せさせてはいるものの、迎え撃っているのは神官を除いた三人のままだった。

三人とも傷を負うことも無いままに不死者たちを次々と退け続けてはいるものの、相当に疲弊しつつあるようにも見える。

もしも神官さまが健在ならば、寄せ来る不死者の群れなどは一挙に片付けることが出来ようし、勇者たちがこんなに苦闘することも無いのだろう。


そして。

おそらくだが、あのお姫さまの神官は勇者と愛し合っているのだろう。

戦いの最中、他の二人に気取られぬように手を繋ぎ合っている様が見えてしまったのだ。

私は思わず神官さまの心中を想像してしまう。

自分が戦えなくなってしまい、その所為で愛する男が目の前にて息を切らしながら必死になって戦う様を目の当りにし続けることはどんな思いなのだろう、と。


私は頭を振り、同情と呼ぶには随分と希薄な思いを追い出そうとする。

そして、意を決して家臣にこう命じる。


「馬車を移動させる準備をなさい!

勇者一味の傍へと近づき、一気に勝負を付けましょう」と。


神官が戦いに参加出来ぬ今ならば、まだ夜が訪れない状況であっても勝機があるかもしれない。

私はそう思いつつあった。


「承知しました! 

姫サマ神官が復活する前に片を付けちゃいましょう!」と答えを返した家臣は、嬉々とした様にて岩陰に隠してある馬車へと駆け寄って行った。

下僕たちもいそいそと移動の準備に取り掛かった。


小さく溜息を吐いた私は馬車に向けて歩みを進める。

ふと、空を見上げる。

宵闇が寄せ来る空には一番星が微かに瞬いていた。

それは、私の心中にうずくまる不安めいた思いを密やかに刺激するように感じられてしまった。

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