4.激闘(3)

「あれ?

あの連中、何だか様子が変じゃありませんか?」と、勇者一味の様子を見遣っていた執事兼参謀である家臣が声を漏らす。

記録を取っている下僕達も戸惑いの色を漂わせていた。

困惑めいた思いは、私も抱きつつあった。


勇者一味の力を試すべく、少しずつながら攻めの手を強めつつあった。

炎翼竜を差し向けた時、おそらく単独では退けられないだろうと考えていた。

どう対処するものかと思いつつ見遣っていたけれども、勇者と賢者が上手い具合に連携して切り抜けたようだ。

死霊騎士の群れを向かわせた時は、神官が光の雨を降らせて動きを鈍らせた上で、素早く駆け寄った戦士が大剣にて一刀両断に仕留めていた。

特に言葉を交す素振りも無いないままに息の合った連携を見せているのだから、そこには何か秘密でもあるのかもしれない。


そう思いつつあった私だったが、勇者一味の様子が変わりつつあることには戸惑いも抱きつつあった。


「あのお姫さま神官、何やら具合が悪そうですね?」と、家臣はさも楽しそうな口調にて状況を伝えて来る。

その神官は、力無い様にて地面へとしゃがみ込んでいた。

他の面々から話し掛けられても、その首を左右に振るばかりのように見えた。

一体どうしたのだろう? 

魔力が尽きたのだろうか、それともこれまでの戦いで実は傷を負いでもしていたのだろうか? 

訝しく思った私は、勇者一味の近くに潜ませていたジャンゴ蟲を彼等の間近へと進ませようと試みる。

ジャンゴ蟲の目と耳を通じ、彼らの様を探ろうと思ったのだ。

けれども、ジャンゴ蟲からの反応は途絶えていた。

先程に神官が降らせた光の雨を浴びたために力尽きてしまったのかもしれない。

そう考えてはみたけれども、何とはなく不穏な予感がした。


「シェルフィドーラ様……。

今のうちなら勇者一味を仕留められないですかね?」と、家臣が囁き掛けて来る。

その顔に邪な笑みを浮かべながら。


「この場所だと遠いですから、シェルフィドーラ様がコントロール出来る死霊の数も限られているかと存じます。

けれども、もう少し近寄れば一気に攻め寄せることが出来ますよ!」と、上擦った声にて提案してくる。


内心にてやや気色ばむ私。

わざわざ進言されずとも、そんなことはとっくに考えているのだ。

『死霊使い』の影響力は、その距離が遠くなると著しく減じてしまうという特徴あがる。

この距離からだと普通の死霊ならば三百体くらいを同時に操るのが精々だし、炎翼竜のような強力な死霊だと三体くらいが関の山だ。

その程度なら、あの勇者一味ならば退けることが出来てしまうだろう。

彼等の顔をはっきり見ることの出来る距離まで近付けば、その五倍程度の死霊を操ることは可能だろう。


「今なら神官も調子悪そうですし、近寄ってから一気に攻め寄せればいけますよ!」と家臣が急いたような調子で語り掛けて来る。


家臣が言う通り、神官さまが戦いに参加出来ぬ今は絶好の機会ではあるのだ。

彼女が操る神聖魔法は、死霊達にとって頗る分が悪い。

多くの不死者達に四方八方から攻め寄せさせようとも、半端な強さならば一挙に殲滅されてしまうのだ。

先程は百体ほどの不死者を呼び起こして攻めさせたものの、光の波のような魔法によって一網打尽にされてしまった。

けれども、彼女が戦いに加われぬ状況ならば……。

迷う私の胸中に、樹隗候じゅかいこうさまの言葉が蘇る。


『ジメジメちゃ~ん、無理しちゃ駄目だからね!』との言葉が。


けれども……。


あれこれと悩んだ末、意を決した私はこう告げる。


「今一度、あの神官の様を確かめましょう。

彼女が本当に戦いに加われないのでしたら、近寄ってから一気に攻め寄せましょう」と。


家臣は嬉しげに頷いた。

私は勇者一味の周りにて眠りに就く死霊達を喚び起こし、そして語り掛ける。

これまでには無いほどに集中力を込めながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る