4.激闘(2)

不死者たちの攻撃は間断も無く、際限も無く続いていた。

そして、その激しさは次第に増しつつあった。


【上だ!】と、勇者さまの念話が響く。

咄嗟に上空へ視線を向けると、大柄な炎翼竜がぐんぐんと迫り来つつあった。

まるで空を圧するかのようにして。

巨体の所々に炎を纏い、そのくちばしからは炎の息を轟々と吐き出しながら。

これでは先程のように賢者さまの炎の矢は効かないだろう。

こうも大柄だと、勇者さまの風の刃であっても一撃で退けることは難しいだろう。

【僕が足止めする! その間に仕留めて!】と、賢者さまが勇者さまへと叫び掛ける。

【頼む!】と短く言葉を返した勇者さまは、その目を閉じ、下段に構えた剣へ力を込め始める。

勇者さまの体を輝くようなオーラが薄らと覆い、辺りの空気が陽炎のように揺らぎ始める。

賢者さまはその杖先を炎翼竜へ向け、素早く詠唱を済ませる。

杖の先から青白い光が迸り、まっすぐに炎翼竜へと延びて行く。

光は狙い違わず炎翼竜へと命中し、瞬時のうちにその巨体を凍て付かせ、ピタリと静止させる。

けれども炎翼竜の動きが止まったのは、ほんの一瞬に過ぎなかった。

耳障りな叫びを響かせた炎翼竜の全身から赤紫の炎が迸り出る。

全身を隈無く覆った氷をすぐさまに砕き溶かした炎翼竜は、再び妾たち目掛けて迫り来る。

耳障りな、嘲笑うかのような叫びを響かせながら。

けれども、その一瞬は勇者さまにとって十分過ぎる時間だったのだ。

勇者さまは青白いオーラを十分に蓄えた剣を青眼に構える。

裂帛の叫びと共に、迫りつつある巨体に向けて剣先を一挙に突き出す。

目にも止まらぬ迅さにて突き出された剣先から、青白いオーラが矢のようにして撃ち出される。

危機を察した炎翼竜はその口から炎を噴き出して、迫り来るオーラを迎え撃とうとする。

その熱が地表から見上げる妾たちまでジリジリと伝わり来るかのような轟然たる炎だった。

けれども、勇者さまが放った青白いオーラは噴き出された炎を難無く掻き消してしまう。

そして、狼狽えた様の炎翼竜へ見事に直撃する。

哀しげな絶叫を響かせつつ、炎翼竜はその体をバラバラと四散させる。


軽やかで規則正しい地響きが伝わり来る。

その響きは妾たちを包み込むようにして迫りつつあった。

妾は周囲を見遣る。

赤茶けた地平の彼方から、何匹もの骨馬が砂埃を立てながら駆け来る様が目に入る。

迫り来る骨馬には骸骨の騎士が跨がっていた。

その手に赤黒く長大な馬上槍を携えて。

骨馬たちは妾たち目掛けて猛然と駆け寄りつつも、その針路を小刻みに変えていた。

やや左に駆けていたかと思うと、途端に右へとその針路を変え、次の瞬間には真っ直ぐに駆け寄るなどしつつ妾たちへと殺到しつつあった。

「チッ!」と舌打ちが聞こえる。

【厄介だな、これ。こう小刻みに方向を変えられたら狙いも付けられないよ…】と、賢者さまのぼやきが響く。

【このまま近寄られたら、ちょいと厄介だな】と、戦士さまが呟く。

焦りに駆られながら考えを巡らせる。

そして、皆へと問いを投げ掛ける。

【少しでも速度を落とすことが出来たら、何とかなります?】と。

【おぅ、何とかするぜ!】と叫ぶようにして応える戦士さま。

頷いた妾は、目を閉じてから祝詞を唱え始める。

心の中にてキラキラと輝く光の雨を思い浮かべながら。

手早く詠唱を終えた妾は、左手に持った聖杖を天に向けて高々と掲げる。

杖の先から眩い光条が立ち昇る。

立ち昇った光条はぐんぐんと天へと伸び、そして緩やかに拡がりつつあった。

それは遠くから眺めたならば、光の噴水のように見えたのかもしれない。

空に拡がった光の光条は光の粒へとその姿を変え、地表に向けて緩やかに落ちつつあった。

それはまるで光の雨のようにして。

光の雨は、妾たちの周りに遍く降り注ぎつつあった。

すぐ間近まで迫りつつあった骨馬たちは、光の雨を浴びた途端に駆ける速さを減じさせ、ふらつくような足取りとなった。

【今だ!】と叫んだ戦士さまは、骨馬たちの間近へ駆け寄っては、跨がった騎士もろとも、一刀の下に次々と斬り伏せて行った。

上手く行ったことに安堵の吐息を漏らす妾。

その妾の右の肩が「ポン!」と柔らかに叩かれる。

右を見遣ると勇者さまの微笑みが目に飛び込んで来る。

妾の胸の中に暖かな思いがじわりと拡がり行く。

【ほらほらっ、二人の世界に入らない!】と、賢者さまのからかうような念話が響く。

【うるせぇよ!】と、笑い混じりに答えを返す勇者さま。

今は我慢しなきゃ、と妾は自分に言い聞かせる。

赤らみつつある顔を皆から逸らしながら。




【ところでさ……】と、賢者さまが語り掛けて来る。

それは、何や思惑を含んでいるかのような言い振りだった。

【いい加減、こちらから仕掛けようかってことか?】と、水を向ける勇者さま。

お二人の掛け合いは、まさしく阿吽の呼吸といった具合であって何とも頼もしく思えてしまう。

【うん。それでさ、提案があるんだけどさ……】と、答えた賢者さまは、策について説明を始める。

妾たちは頷きつつ、賢者さまの策に耳を傾ける。

こんな時、念話の宝具はつくづく便利だなと思いつつ。

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