2.命令(6)
「あの……、怖れながら申し上げます。
実は……、私めが
生前は世に大いなる災厄をもたらした邪竜であったと伝えられる
私は言葉を続ける。
「実はここ最近、
日を追う毎に痩せ細りつつあり、それに加えて骨艶も褪せつつあるのです。
それのみならず纏う鬼火の数も減りつつあるばかり。
今の有様では戦場に伴わせることなど儘なりません。
金魂絶鋼侯は表情を変えずに私の言葉に耳を傾けている。
もう一押しとばかりに私は言葉を続ける。
「それに……、
私めが
率いる手下達の士気にも関わりましょう。
『威力偵察』の件については承ります。
ご申し付け頂いた通りに趣きます。
然れど、
そこまで一息に語る私。
先程に
私が直ぐに行けないと分かったならば、他の四魔侯の誰かに任務が託されるかもしれない。
けれども、私のそんな淡い希望はすぐに打ち砕かれてしまった。
私の話が終わるや否や、
その声音は実に冷ややかだった。
「
今、貴侯が申されたことは実に納得し難いのだ。
肉も無ければ毛皮も無いのであろう?
それなのに、『痩せ細る』とは如何なることぞ?
そして『骨艶』とは何ぞ?
『肌の艶』や『毛の艶』などは良く耳にするものの、『骨艶』など初めて聞く言葉ぞ。
仰ることの意味が分からぬのだ。
そもそもだが、
つまりは既に命無き存在。
にも関わらず、
私は思わず言葉に詰まる。
反駁など微塵たりとも許さぬが如き、冷たく重々しき声音にて。
「代々の
然れど、貴侯の御家には立派な八頭立ての骨馬車もあるではないか?
あれで趣かれば宜しかろう?」
『骨馬車』とは、その名の通り『骨馬』に牽かせる馬車のことだ。
牽かせる馬の数は家格によって定められている。
庶民であったら一頭立て、地方の有力者であれは二頭立て、普通の貴族となると四頭立てが許されるのが通例だ。
そして、魔界の名門貴族たる我が
「
それ故、貴侯の配下の者共においても鼻高々であろうし士気も高揚するであろう。
侯が気にされることなど何も無いのだ」
そこまで告げた
「然れば、『威力偵察』の件、宜しくお頼み申す」と、厳然たる口調にて告げながら。
その巨体からは仄かながらも怒りの気配が漂い出ているようにも思えてしまった。
雰囲気に気圧されて、抗弁する気力を完全に失ってしまった私は、「はい、承りました……」と、まさに血沼蚊の鳴くような声で言葉を返すほか無かった。
そして、ふらついた足取りにて踵を返し、
見上げるように高くてズシリと重い扉を何とか押し開けて部屋から出ようとした私の背中へと、
「もしもだ、もしも首尾良くお務めを果たせたのならば、魔王様から恩賞が与えられるとのこと。努々励まれよ」と。
そこで私はようやく理解した。
私は心中にて魔王様へと毒突く。
あぁ、何と言うご無体なご采配であろう、と。
どうして炛驕候さまや潮囁候さまで無く、この私なのだろうと。
いや、もしかすると私の余りの陰気臭さに魔王様は嫌気が差してしまったのかもしれない。
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