第2話 共生

 外を歩くフラバス。ここは城下町らしい。

 それは何故か。――アスペルギルス家は、家が豪邸で城と呼ばれているからだ。



 彼女の目には、建物が密集した都会が満遍なく広がる。


 (細菌の世界って言われるとやっぱり汚いイメージだけど、こんなにも豪華で綺麗なのねー。漫画で見たときよりも何倍も美しい、ああ、凄く美しい!!)



 フラバスは町の美しさに酔いしれていた。

 (そういえば私の他にも貴族がいたような……)


 すると同じくドレスを見に纏った女婦人が目に入る。


 (あ!あれは!貴族として噂されているラクトコッカス家の【ラクチス・ラクトコッカス】じゃん!凄い美しい……)



「や……」



(いや待った、私は『貴族』よ。貴族がこんなにも子どもみたいに「ヤッホー!」って挨拶するのはおかしいよね……?一応私は貴族だし、ここはお嬢様らしくいこう)



「こ、こんにちは」


「あら。フラバスさん。こんにちは。今日も天候に恵まれたこと。嬉しい気分ですわ」

(うわー!付いていけねぇ……)

「は、はい。そうですわね」

(こんな感じでいいのかな!?)


「そういえば、フラバスさん、聞いて欲しいですわ」

「はぁ」


「この前自社からいただいた最高級のヨーグルトを食べましたの。ヨーグルトって食べたら無くなってしまいますよね?」

「そ、そうですね」

「そこで、私は思い付きましたの!」

「はあ……?」

「牛乳にヨーグルトを加えて冷蔵保存すると……なんと!ヨーグルト無限増殖ができてしまうのですわ!!」


(えー!この人ヨーグルト大好きお嬢様なのに今さら気づいたのー!?私でも知ってるよ〜?!)


「これでヨーグルト、たくさん買わなくて済みますわね。コストも抑えられて一石二鳥ですわ。今までヨーグルトに何千万円使ったことか……」

(それは使いすぎだわ)


「そ、そうなのですね……。ヨーグルト、美味しいですわよね……」


 その言葉にラクチスは目を輝かせる。


「そうなのですわ!!乳製品、特にヨーグルト以外に美味しいものなどございません」※個人の感想です。

「あは〜、私はこれで失礼いたします」

「はい、もしよろしければ、是非ともあそこの『ラクトミール』の乳製品買ってくださいまし!私の会社ですのよ!」


(目的は宣伝だったんかい!)


「はい。もちろんですわ。それでは失礼しますわ」


 フラバス早急に去る。





 ◇◇◇

 (疲れた!!なんて貴族と話すのは疲れるんだ!絶対いつか『ですわ』を入れるの忘れそう)


 するとフラバスはふと向こうの広場が喧騒と感じた。


 (ん?あれは何の騒ぎだろう)

 すると群衆が押し寄せて広場に向かう。見知らぬ人間が発した一言によって、彼女の中の歯車が動き出すのだった。



「おい!あそこでドラマの撮影やってるぞ!!」



(……ん?ドラマの撮影?あ、この世界でもドラマの撮影あったっけな)



 するとフラバスは『ドラマの撮影』と聞いてあることを思い出す。



(……ん?ちょっと待てよ。ドラマの撮影のシーンってこの漫画で言ったらあの人しかあり得ない。いや、まさかね。漫画の話がここで起こるわけ……)


 しかし、フラバスの心には不安が募っていった。


(やっぱり嫌な予感がする!!まずい!これが本当なら……!)

 フラバスは急いで撮影現場に向かう。




「「「わーわー!!」」」



 なんとその場所は全住民が一箇所に集まったかのような群衆が形成されていた。

(まさか!本当に!?)

「はいはい!皆さん!お静かに!今から撮影するのでご協力よろしくお願いしますー!」


 それでも鳴り止まない歓声。

(おお、人に押し潰される~!!耳が死にそうー!)

 すると、



 「「「きゃーー!!!!」」」



 鼓膜を破壊するような凄まじい歓声が!


(なに!?)


 それと同時に群衆は前に移動を始めた。その姿は正気の沙汰じゃなかった。

(押されるー!うわー!ドレスがー!)


 更に、目の前にフラバスが見覚えのある俳優が現れる!!

(!?!?)


 そして尋常じゃない嫌な予感に押し潰されそうになる。


(やっぱり、……嘘なんかじゃない……!だ!!登場の仕方も!俳優も!そして!台詞も!!)



「みんな。これから撮影しなくてはいけないんだ。だから、静かにして欲しいな♡」(静かにして欲しいな♡)



 「「「きゃーーーー!!!!!」」」



 矛盾している態度に流石の俳優も呆気にとられる。

(もしかすると、『漫画の通りにストーリーが進んでいる』?このシーンはかなり序盤の方だ。でも私はこの漫画のシーンにはいなかったな。このシーンに出てきては行けないのかな?というかそもそも出て行けるのかな?)


「それでは!よーい、アクション!」



「ねぇ!この前の言ってたこと、本当なの?」

「ん?ああ、バレーの全国大会に優勝したら付き合うっていうことか?」


「う、うん」


 女性に近寄り、目を見て彼の美しい紫の目を光らせながら話す。

「なんだ?そんな弱気で優勝できるのか?」


「……ぜ、絶対に優勝するに決まってるでしょ!」


「ふふっ、優勝できるといいな」

「私の優勝するところ見ててよね!!」



「……でもさ、俺は、君のバレーを頑張っている最高の笑顔が一番見たいんだ」



「はい!カット!」




「「「きゃーーーーー!!!!」」」




 歓声が思いっきり上がった。それと反比例し、フラバスは顔を真っ青にする。


(……どうしよう。この世界は本当に。だとしたら、このシーンの次は……!!)


 フラバスは顔を更に真っ青にし、動悸が走る。

(このシーンには私は出てこなかったけど、このままでは……!)


 フラバスが人をかき退けて俳優の前へと進む。



(あいつは、あの俳優はおとなしそうな顔に見えて凶悪だ!)


 (あいつの名前は、【パーフリンジェンス・クロストリジウム】!!愛称リジェンス!私の世界では『ウェルシュ菌』と呼ばれる害悪菌だ!あいつは後にこの世界の破壊に導く凶悪な人間だ!そして……この後……!全ての元凶が始まってしまう……!止めなくちゃ!止めなくちゃ!!)


 フラバスは無我夢中で人をかきのけて、ただ阻止に間に合うことだけを祈って進んだ。


「きゃー!!リジェンスー!♡サインしてー!!」「ん?サイン。勿論。私でいいのかい?」

 彼の目元が暗くなり怪しい笑みを浮かべる。



「危ない!!」



 フラバスが思いっきり叫び、パーフリンジェンスを押し倒す!パーフリンジェンスは尻もちをつき、瞬時に状況を把握する。


 「「「きゃーーーー!!」」」


 色々な意味のきゃーが交差する。


「はあはあ……ちょっと!あんた!リジェンス様を押し倒すとか一体何事?」

「あんた!何様か知らないけど人を押し倒すってどうなの?倫理欠けてるわけ?」

「リジェンス様が怪我したらどうするのよ!」

「折角サインしてもらおうとしたのに!!」



 フラバスはみんなからブーイングを受ける。ただ、フラバスは、はあはあと息を切らしていて何も答えない。

 するとパーフリンジェンスが立つ。 


「まぁまぁ。こんなに人がたくさんいたんだし、人を押し退けすぎて私にぶつかったのだろう。私は大丈夫だ。そんなこと日常茶飯事だ。そうだろう。そこのお嬢さん……」


「!!」


 フラバスはパーフリンジェンスに睨まれている気がした。


「は、はあ。そうですわ」


 フラバスの口調を聞いて蔑まされた眼差しで見られる。

「は?こいつ貴族っぽい格好してるけど貴族なの?」

「貴族がなにしてんの?ウケるんだけど」

「キモすぎ」


「まあまあみんな。彼女はわざとじゃないんだ。そんなに責めないであげてくれ」


「リジェンス様が言うならー♡」

「もう悪いことしません♡」

「そうか」


「パーフリンジェンス様!そろそろ次の現場に行く時間です」

「ああ。ではみんなごきげんよう」

 手を静かに振る。



 「「「きゃーー!!」」」



 彼が車に乗る瞬間、フラバスは再度、彼に睨まれた気がした。


 「!!」

(今、あいつに睨まれた!?)



 車が走り去っていく。


(はあ、良かった。彼はこのシーンで、人が近づいた隙に自身の凶悪な魔法を含めたカプセル――『芽胞』を撒き散らそうとしていた!この芽胞が割れて彼の魔法が発動する。そしてこのシーンが『世界最初の脅威』になるんだ。ここから世界が狂い始めて最終的には人類が滅亡して世界が破壊されてしまう!……といったところかな。最終巻読んでないけど)


 彼女お得意の考察をした。


(でも世界破壊の原因を免れることができて良かった)


 彼女は安堵した数秒の間、確信した事があった。


 「私はこの世界のストーリーを『変えることができる』んだ!!」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 こんにちは。琥珀こはくまなです。


 ついに、物語が始まってきた気がします!ここまで読んでくださった読者のみなさま、本当にありがとうございます。



 この話が「面白い!」や「応援したい!」と思ってくださったら、お手数お掛けしますが、アドバイス、☆、感想をよろしくお願いします。

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