第一章

プロローグ

 ――温かい


 彼女は、自身の腹部から生温かいものが流れ落ちるのを感じた。それが地面をつたり、水たまりを形成した。

 その水たまりの大きさは、まるで地平線の彼方のようだ。深紅に染まった液体と鉄の匂いが鼻を刺激する。それと自身の透明の雨が深紅の液体に吸い込まれていく。


 頭を上げると一人の背の高い男性が立っていた。辺りは殺風景?――いや、『真っ赤な浅瀬』だった。彼女の身体は赤く染まっていた。しかし、目の前の男性は、何色にも塗られていなかった。


 尋常ではない液体の量があるにも関わらず、綺麗な色を保っており、更に黒く漆黒の闇のような瞳はまるでしている。


 彼の口が開いた。その刹那、凍てつく刃に襲われる。


「君は――結末をな」


 彼女は心臓を貫かれた衝撃に陥る

 その言葉を最後に、彼女の視界の光は闇へと葬り去られた。




 ◇◇◇

 今日も絵に描いたような原色の青空に、太陽の白い光が今日も地面を照らす。

 光が照らす建物の先は、何の変哲もない高校だ。そして、ごくありふれた休み時間と他愛ない学校生活を送っている生徒たちがいる。


 普通の女子高生【太田 柑奈おおた かんな】は今日も本……いや、漫画を読んでいる。

 しかし、この学校は漫画禁止みたいだ。それなのに当然のように漫画を開いて読んでいるこの女子高生は、尋常ではない気がする。


 (あー!もう!この学校漫画禁止のせいで誰にも語れないじゃん!みんな校則しっかり守る偉い子ぶってるんですか?!私は悪い子ちゃんだから守らないけどね。うーん。誰も聞いてくれないからイマジナリーフレンドにでも話すか)


 これは異常事態な気がする。

 彼女は、自信げに架空の友達に漫画について語り始める。


 (この漫画、気になっちゃうよね!?うんうん。あっ、やっぱりそうだよね!?もう仕方ないなぁ。教えてあげよう。)


(この漫画タイトルは【Rulers】!今、世界中で大人気の漫画なんです!この漫画は主にちょっと珍しいファンタジー漫画なの!しかも、擬人化した菌たちの能力は、それぞれ違って面白いしストーリーもちょっと普通の漫画とは違う。)


(それに、菌や医療のことについて知れて勉強にもなるし、理系は最高万歳なんです!だから理系の私は、この漫画のオタクになっちゃいました!)


 彼女は架空の友達に永遠に話を続ける。


 (実は、この漫画の話の細部まで知りつくしていて、質問されたら作者並みに答えられる自信がある!実際に、作者と偶然出会でくわしたとき、漫画について永遠に語って、作者ですら困らせた経験がある猛者だよ~。)


(あ、でもちなみに今、金欠過ぎて最終巻をまだ買ってないし内容も知らない!だからいつもよりも多めにバイト入れてるよ!何より大人気漫画だから語れる友達もたくさんいるし、あー!もー!幸せ!!)



 すると、突然後ろから声が聞こえた。

「おはよー!あ、その漫画知ってる~!今世界で大人気だよね!……ってか漫画ダメじゃね?」

「そこはいいのー」


 (この子は、親友の【坂井 佐梨さかい さな】だ。最近転校してきた女の子なんだけど、趣味が合いすぎてすっかり親友になっちゃった!)


「この漫画、菌の冒険みたいな物語だよね。何か菌が擬人化しているのが魅力的だよね」

「分かるわー!面白いよね」

「でも結局最後は、最強の毒素を持った細菌の【ボツリヌス】に世界を破壊されてしまうバットエンドなんだけどね」


 (えっ……)



「普通はハッピーエンドのところバットエンドにしたところが、この話の一番の見所かな!あっ、でもねそのあと……」


 佐梨は何を感じたのか、柑奈の怒りの沸点が限度に達したことに気づいた。


「何してくれてんだー!!まだそこまで見てねぇわ!!ネタバレしやがって!!許さん!!」

「ごめんごめん、つい誰かに話したくなっちゃってさ」

「うわー……ないわー……」


 柑奈は突然のネタバレに、頭が真っ白になり、酷いショックに打ちひしがれる。


「……まじでごめん。今日の購買奢ってあげるからさ!」

「……はぁ……まあいいか。1番高いやつ買ってよね!」

「はいはい。もちろんもちろん」


 彼女は漫画を机の上に置いて教室を出た。




 ◇◇◇

「早く続きが読みたい!」

「もー、『Rulers』好きやなぁ。そんなに漫画とか好きなら他の漫画も買わないの?」

「『この本は』面白いの!」

「あね、なるほど」


 すると、佐梨が何かを思い出したようにふっと口を開かせた。


「あ!そういえば柑奈の漫画の最推し【オリゼ・アスペルギルス】のグッツ今日届くんじゃない?!」


 それを聞いた柑奈の目が輝き始めた。

「そうだった!!今日グッツ届くんだった!!楽しみー!!」

「だからさ、急いで帰ったら?」

「そうだね!!今日は爆速で帰るぞー!!」

 柑奈からすごく幸せそうなオーラが漂っていた。

「もう、柑奈は推し活楽しんでるなぁ~」


 しかしこの瞬間、佐奈は俯いて何かこみ上げるものを堪えるかのような表情を見せた。



 ◇◇◇

 放課後の帰り道。

 柑奈は佐梨に別れの挨拶をし、すぐさま走り出した。


 (今日は最推しのオリゼのグッツが届く!楽しみー!!)


 しかし、柑奈は不思議に思った点が一つあった。


 (あれ?でも佐梨、んだろう?私言ったっけなぁー?)


 思い返してみれば、おかしかった。

 佐梨はネタバレをするような薄情な人間ではない。それに加え何故か


(うーん、たまたまだよね……)


 その時一瞬、柑奈は何かしらの不安が脳裏によぎった。その不安は、的中してしまった。


 柑奈の行く先に、建設工事をしている場所があったのだ。次の瞬間、バランスを崩したのか、大量の鉄骨がゆらゆらと揺れ始め、柑奈めがけて落下して来たのだ。


 しかし、柑奈は気づかなかった。その様子に工事現場の人が真っ青な顔で大声でを叫ぶ。



 「危ないっ!!!」



 その刹那、柑奈はやっと事を理解した。上を見上げると大きい鉄骨が自分めがけて大量に落下してきたからだ。

 突然の出来事に頭が追い付かず、恐怖で綱で縛られたかのように体がその場に硬直した。


 その僅かな時間に、走馬灯を見た気がした。彼女は目の前の電柱の人型の影を見つめた。

 その人影は何かを口ずさんでいた。柑奈は、その言葉を読み解く時間は与えられなく、0.1秒単位で視界が徐々に暗くなっていった。

 錆びた匂いが人生の最後の体験だと悟った。


 ガシャーン!!


 「キャーッ!!」


 悲鳴が瞬く間に広がる。そして、近くで事故を目撃した人が急いで助けを呼んだ。

 「事故だ!人が下敷きになったぞ!救急車を呼べ!」

 柑奈の流れた血液が持っていた漫画に染みていった。


 それが全ての始まりだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 こんにちは。琥珀こはくまなです。


 この度は、私の初投稿作品「B.know~異世界転生した物語はバッドエンドだったが、漫画の知識で無双し回避してみせる!~」を読んでくださり、ありがとうございます。


 まだ初心者ということもあって分からないことがたくさんあります。

 なのでお手数をおかけしますが、アドバイスや☆、♡、感想をいただけると本当に嬉しいです。


 これからも毎日精進していきますので、よろしくお願いします。

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