第18話 新たなる力について



  ◇



「とりあえず、輝美が無事で良かった……」

 あれから、私たちはモールを出て近くの喫茶店に移動していた。というのも、ボスクラスのBEMが暴れたせいでかなりの騒ぎになりそうだったので、面倒なことになる前に撤収したのだ。この喫茶店は魔法少女局の息が掛かっているらしく、今は他にお客さんもいなくて、話がしやすい。

「いやでも、死ぬかと思ったけどね……」

 輝美は、そう言いながらテーブルに突っ伏した。彼女は私たちが来るまで一人で戦い続けていた。というか、私たちが来た途端に戦闘が終わったから、実際には輝美だけが戦っていたことになる。となれば、こうなるのも当然だった。

「ボスクラスとの初戦闘、ご苦労様だワン。今回は収穫も反省点も多かったニャン」

 テーブルの中心にヌコワンが立って、輝美を労っていた。今日はたまたま輝美と一緒だったらしい。

「えーと……とりあえず、僕はお暇したほうがいいのかな?」

 遠慮がちにそう言ってきたのは、輝美のお兄さんだ。今日は輝美と一緒にモールに来ていて、そこでBEMとの戦いに巻き込まれたらしい。席が足らないので、今は隣のテーブルにパパと一緒に座っている。

「もうこの際だから、お兄さんにもちゃんと話したほうがいいワン。魔法少女の、本当の役割について、話さないわけにもいかないニャン」

「まあ、仕方ないか……」

 ヌコワンの言葉に、輝美が不承不承という風に頷いた。それを見て、ヌコワンが隣のテーブルに移って、お兄さんに色々説明を始める。BEMのこと、魔法少女のこと、色んなことを話していた。

「それにしても、輝美の衣装がいつもと違っていたけど、あれって何だったの?」

 その間、私たちは輝美の変化について話していた。私たち魔法少女の衣装は白を基調としつつ、リボンなどの装飾品は各々のイメージカラーになっている。でも、私たちが到着したときの輝美は、茶色の衣装に白のリボンという、いつもとは色合いが反転した衣装を身に纏っていた。あの変化は何だったんだろうか。

「あれはなんていうか……私もよく分かっていないんだけど、魔法少女としての本来の力、みたいな感じ?」

「あれはエボリューションフォームだワン」

 すると、ヌコワンが戻ってきてそう言った。エボリューションフォーム……?

「エボリューションフォームは、魔法少女の真骨頂、つまりは真の姿だニャン。……魔法少女は、各々の適性に合わせて機能が自動的にチューニングされるワン。でもそれと同時に、機能の大半は制限された状態になるのニャン。その制限が取り払われた状態こそがエボリューションフォームだワン」

 魔法少女としての真の姿……そう言われると、とても凄そうに思える。

「エボリューションフォームは、個人差はあるものの、どれも強力ニャン。その代わり、扱うには条件を満たす必要があるワン」

「条件って?」

「魔法少女としてのポテンシャルを最大限発揮できるようになることニャン。……魔法少女になるための条件は、強く愛されて育つことだワン。そして、そのことを認識すること、自分が如何に愛されていたかを自覚することで、エボリューションフォームは解放されるのニャン」

「愛されていたかを自覚する、か……」

 ヌコワンの言う条件―――自分が愛されて育ったという事実を認識するということがエボリューションフォームを使うために必要だというのなら、輝美はそれを満たしたことになる。でも、それって……。

「じゃあ、輝美。エボリューションフォームになったときのことを教えて頂戴」

「……へ?」

 一美に問われて、輝美が間抜けな声を出した。でも、一美の質問も当然だった。……ボスクラスという強力なBEMが登場した以上、私たちの戦力増強は急務だ。となれば必然、強力なエボリューションフォームの使い方を聞くのは当たり前の流れだった。

「だって、ヌコワンの言う通りなら、あなたは自覚したんでしょ? 自分が愛されて育ったって」

「あ、愛、って……えっと、その……」

 あくまで必要だからという理由で聞いてる一美に、輝美はこれでもかってくらい狼狽えてた。いやまあ、そうなる気持ちも分からなくはないけども……。自分が如何に愛されているか、自分の口から話すなんて惚気みたいなもんだし。

「というか、お兄さんと一緒にいたのよね? ということは……」

「あ、兄貴は関係ないわよ……!」

 一美が持ち前の頭の良さを発揮して推理すると、輝美は食い気味に否定してきた。さっきからチラチラとお兄さんのほうを見ていたし、もしかして―――

「ん? 僕がどうかしたかい?」

「兄貴は黙ってて……!」

 会話が聞こえたのか、隣のテーブルから輝美のお兄さんが声を掛けてくるけど、輝美は怒鳴るように返してしまう。ここまで露骨だと、あまりにも分かりやす過ぎた。

「ふーん。なるほどね」

「な、何よ……!?」

「輝美、これ以上は自爆にしかならないと思うよ」

「だから何がよ……!?」

 納得する一美と、狼狽する輝美。奈美が窘めるけど、全く効果がない。……輝美はお兄さんに愛されて育ったんだってことは、想像に難くない。輝美自身がそれに気づけたから、エボリューションフォームが使えるようになったんだろう。多分、お兄さんを守ろうとしたことで気づくことが出来たんじゃないかな?

「うぅ……」

 顔を真っ赤にする輝美は今までに見たことがなくて、私はとても新鮮な気持ちになった。けれど同時に、疑問が浮かんだ。……私だって、パパから愛されているってことは普段からこれでもかってくらい理解しているはずなのに、どうして私はエボリューションフォームが使えないんだろうか?

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