第17話 決着

「うおっ……!?」

 私の体が光に包まれ、大男が目を細める。そしてその光が収まったとき、私の姿は一変していた。……魔法少女として身に纏う衣装、そのデザインそのものは以前と同じ。だけど、色合いが大きく変わっていた。白を基調としてリボンなどが茶色だったさっきまでとは違い、服全体が茶色になって、リボンなどの装飾品が白くなっていた。つまり、色が反転していたのだ。そして、ステッキも剣から盾へと形を変えている。これこそがエボリューションフォーム―――魔法少女としての新たな、というよりは本来の力。ステッキから新しく流れてくる情報が、この力の使い方を教えてくれた。

「行くわよ……反転!」

 盾を構えると、巨大化して、床に下部が当たる程の大きさになった。そして、盾の中心から白い光が広がっていく。さっきのような視界を潰す眩い光ではなく、優しく包み込むような、半透明な光だ。

「ぐおぉっ……!」

 この光が大男に触れると、大男は苦しみだした。……この光は反転。BEMに由来する負のエネルギーを浄化して、正のエネルギーに変換する。それは、ボスクラスのBEMにとっても大ダメージを与えられる、私の唯一の攻撃手段。でも、それはあくまでおまけでしかなかった。

「こ、これは……?」

 後ろから、兄貴の困惑した声が聞こえてきた。そして、兄貴が立ち上がる気配がする。……この反転は、BEM由来のダメージも反転させて、回復させる。BEMの攻撃で受けたダメージを治して、元に戻す。ゲームで言うところのヒーラーのような能力だった。そしてそれは、人だけじゃない。大男が壊した床や椅子、ステージなども、光に包まれた途端に元の形へと戻っていく。ボスクラスのBEMが壊した物も、この反転が全て直す。

「っ……!」

 広場全体が光を覆って、戦闘の余波が跡形もなく消え去ったところで、私は反転を止めた。……まだ体得したばかりの力だから、長時間の制御はしきれなかった。

「ぐっ……クソがぁ……!」

 そして、大男はまだ立っていた。ボスクラスというだけあって、今の私の反転では浄化しきれなかったのだ。でも、さっきまでの勢いはない。エボリューションフォーム自体はまだ維持出来ているし、このままなら何とでも出来るはずだ。

「ブラウン……!」

「ピンク、みんな……!」

 すると、広場に誰かがやって来て、私のことを呼んできた。……由美だ。奈美と一美もいる。由美のパパさんがいないけど、他の三人は駆けつけてくれたみたいだ。

「って、その衣装どうしたの……!?」

「説明は後で……! それよりあいつを―――」

「これはこれは……困りましたね」

 私の姿に驚く由美たちに、ボスクラスのほうへ注意を促そうとしたのと、その声が聞こえたのはほぼ同時だった。

「……え?」

 気づけば、近くにいたはずの大男がいない。そして広場の中央には、別の人影が、それも複数あった。

「全く……一人で先走らないようにあれほど言い含めたのですが。やはり、粗忽者が味方にいると苦労しますね」

 一人は、燕尾服の青年だった。黒髪だけど顔立ちは西洋風で、モノクルを着用している。まるで海外の紳士のようだった。

「ねぇ、もう帰っていい? こいつ重いんだけど……」

 一人は、黒いパーカーとジーンズの、多分男の人だ。フードを被っているせいで、顔はよく見えない。脇にはさっきの大男を抱えている。身長は高いとはいえ大男よりは細そうなのに、どういう腕力なのか。

「わざわざ私まで来る必要、あったかしら?」

 そして最後の一人は、見覚えがあった。金髪碧眼に黒のゴシックドレスを身に纏った、お人形のような外見の女の子。前に、下校途中で声を掛けてきた子だ。

「いいではありませんか。宿敵である魔法少女の皆さんに宣戦布告をするというのも、ある意味様式美というものです」

 燕尾服の青年がそう言うと、私たちに視線を向けて、こう言い放った。

「お初にお目に掛かります。わたくしはセプテン。こちらはペンタとプリメラ。ペンタに抱えられているのはアル。……わたくしたち全員、皆さんがBEM、特にボスクラスと呼んでいる者です」

「ボスクラスって……!」

「これが……!」

 青年の言葉に、由美たちが驚きの言葉を漏らす。私だって驚きだ。あんなに強かったボスクラスのBEMが、一度に三人も増えたんだから。由美たちが来てくれたとはいえ、これはさすがにヤバいかもしれない……。

「とはいえ、今日は挨拶に伺っただけですがね。……この粗忽者を回収するついでですが」

 そう言うと、燕尾服の青年も、他の二人も、私たちに背を向ける。

「それでは、ご機嫌よう。また出会える日を楽しみにしています」

 そう言い残して、ボスクラスたちの姿が消える。まるで、今まで見ていたのが幻のようだった。

「由美ー! 大丈夫かー!」

 その直後、広場に由美のパパさんがやって来る。どうやら遅れていただけらしい。……狐につままれたような気分だった私は、その声のお陰で正気に戻れるのだった。

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