4話 刺殺
高野さんは、自分は大丈夫だと信じていたんだと思う。
大勢が自殺した晩に、会社の廊下を笑いながら歩いていた。
あんな嘘のメールを出して自殺しちゃうなんて、本当に迷惑だと言って。
ポタ、ポタ
水の垂れる音が聞こえる。
水浸しの髪が顔に垂れ、顔がみえない音羽が、高野さんに近づいてくる。
そして、手を高野さんの肩にかけた。どうして気づかないの?
バシ
壁を叩く大きな音が廊下に響き渡った。
そして、音羽は、高野さんの前に立って、歩くのを遮り、また、耳元でささやき始めた。
「あなたが別の女と婚約していたなんて知らなかったわ。あなたの子供を妊娠して、邪魔になった私を、ミスの責任を擦り付けて自殺に追い込むなんて許せない。あなたは、父親と婚約者をナイフで殺して、その後に自分の目を刺して死になさい。」
その後、高野さんの顔からは表情が消えた。
そして、横にいた同僚と、警備員に何か囁いて、自宅に帰っていった。
自宅では、お父様が、お笑い番組で大笑いしながら、ウィスキーが入ったグラスを傾けていた。
「おお、隆、帰ってきたか。一緒に飲もう。ちょうど、面白いお笑いをやってるぞ。」
高野さんは、お父様の後ろから無言で近づいていった。
お父様は、まだ笑い声を部屋に響かせている。
そんな声にはそぐわない光を放つナイフをお父様の後ろから振り上げ、背中を切りつけた。
「なんで、そんなことを。」
それだけ言って、振り返ったお父様は、ソファーから崩れ落ちたの。
もう気絶して、それ以上動くことができず、なにも言えないみたい。
多分、出血多量で生き残れることはないと思う。
高野さんは、階段をのぼり、すでに同居を始めていた婚約者の部屋に向かった。
ぎー、ぎー
やや古くなった階段は、登るたびに静かな音をあげる。
お風呂上がりで、肌の手入れをしていた婚約者に後ろから高野さんは近づいた。
「遅かったのね、隆。そういえば、この前、あなたの会社で若い女性が自殺したでしょう。あなたは、あの会社では重役に上り詰めるひとなんだから、そんなバカな女性のせいで責任とかとらされないでね。まあ、そんなくだらないことは良くて、今夜もシャンパンで楽しみましょう。顔、暗いわよ。まあ、休んで。」
高野さんは、婚約者を抱きしめると、婚約者のお腹に、背中に隠していたナイフを刺した。
そして、心臓に向けてナイフで切り上げた。
婚約者は床に倒れ、血しぶきは壁一面に飛び散り、その後も、床は血で溢れた。
それを見た高野さんは、床にあふれた血を手ですくっていた。
まるで子供が雨上がりの道端で、どろんこの水たまりで遊ぶように。
大笑いをしながら、その場で、窓から見える月を見ていた。
そして、5分ぐらいたったころかしら。
婚約者の血を頬に塗ってから、床におとしたナイフを手にとったの。
そのナイフで、自分の目を突き刺して倒れた。
一方、この囁きで亡くなった社員たちは、それぞれ2人ずつ、あの世に連れていった。
ある人は、車に轢かれ、ある人は家が火事になり、この世を去っていった。
気づくと、この2日間ぐらいで、私のオフィスにいる人は、私以外、もう誰もこの世にはいない。
この勢いで、私の会社の人は次々と自殺していった。
1週間が経つ頃には、もう私以外の人は全て亡くなっていた。
もう、この流れは止まらない。
日本全体に広がっていくのかもしれない。
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