歩き続けて、白神社の近くに来たころかしら。

石のうえに座ってるおじさんが、厳しい目で話しかけてきた。

これ以上は行ってはダメだと。

これまで、皆の顔が微笑んでいたのでびっくりしたわ。

でも、周りを見ると、みんなが私を怖い顔で見つめている。

どうしてか、周りに人は全て私を避難するように厳しい目で見ている。

なにか、私が粗相をした？

いえ、特になにもせずに、歩いていただけだったよね。

さっきまで、みんな微笑んでいたじゃない。

だから、そんな目線を気にせずに先に進もうとした。

すると、今度は、若い男性から腕をきつく握られて引き止められたの。

だめだとクビを振っている。

もう先に進むなということなのね。

みんなが先に進んでいくのに。

私は、諦め、今来た道を引き返すことにした。

少し戻ると、さっきのように、周りの人たちは笑顔で溢れていた。

なにか地元の取り決めとかあるのだろうなと思ったの。

そろそろ帰らないと明日の出勤にもひびくしと思って帰ることにしたわ。

不思議なことに気づいた。

みんな、太田川の方向に歩いて、逆に歩いているのは私だけ。

しかも、私のことはだれも気づかないみたい。

みんなは、さっきより急いで進んでるみたい。

楽しそうなのは変わらないけど、子供とかを急かしている。

遊んでばかりいないで、早く行きなさいなんて。

そして、みんな同じ方向に進んでいく。

そういえば、ここに来るときも、逆に進んでいる人は見なかったような気がする。

私だけが、皆に逆らって、私の部屋の方に戻っていった。

本当は歩く人とぶつかると思うのだけど、不思議とぶつからない。

というより、抵抗感がなく通り抜けている感じ。

でも、どうしてなのかしら。みんな、太田川の方に引き寄せられていくみたい。

私だけ、逆らって進んでいいのかしら。

でも、さっきのおじさんは、これ以上進むなと睨んでいたし。

私は、間違っていないのかと動揺していたわ。

でも、なんとか、さっき見た京橋川の辺りまでたどりついた。

え、私がいたはずのマンションが見えない。

酔っ払ったわけでもないのに、その辺をぐるぐると歩いてしまった。

いまさらだけど、そういえば、この辺には高いビルなんて見えない。

そして、自分が浴衣を着ていることに気づいたの。

家をでるときには、Tシャツに、ジーンズだったのに。

周りは、相変わらず、楽しそうな人たちが通り過ぎていく。

でも、だんだん人が減っていることに気づいた。

気が動転してしまい、横にいる女性に大声で聞いていた。

この辺にオリエンタルホテルがあるはずだけど、どこか知っているかと。

そんなホテルなんて、この辺にはないと言われたの。

そんなはずはない。たしかに、この辺にあるはずなのに。

私は、ただ行って帰ってきだけなんだから、道を間違うはずがない。

でも、周りの人に聞いても、同じ返事しかなかった。

京橋川の横の田中町なんですけどと言うと、たしかにここらしい。

どうしちゃったんだろう。

ドクン、ドクン　

私の鼓動は高まっていった。

もう、帰れないんじゃないかと焦ってしまったの。

せっかく明るい未来が見え始めたところだったのに。

私は、夜２時を過ぎたころも、その辺を走りながら彷徨っていた。

どうしよう。もう疲れて歩けない。

その頃になると、周りの人たちはだんだん少なくなってきた。

街灯も消え始めていている。

周りの暖かい雰囲気も消えていき、私１人だけになっていた。

私は、疲れ果てていた。

音もなく、薄っすらと月の光だけが照らす緑地のベンチに座って。

もしかしたら、みんなと一緒に太田川の方に行けばよかったのかしら。

でも、もう動けない。そして、多分、もう遅い。

だって、周りにはもう誰もいないもの。

そして、朝５時ごろ、周りが少しづつ明るくなってきた。

それと同時に、私の体は少しづつ、影が薄くなっていくのに気づいた。

まただ。幽霊になってしまう。

その30分後、私の部屋では、窓から朝日が照らし始めた。

キャリーバックだけが寂しく玄関に置かれたまま。