第8話 出会う

「なんで…?」


私が踏みとどまった理由は、さっきまであった私のカバンとキャンバスがなくなっていることに気が付いたから。


地震でうずくまっている間に盗まれた?とも考えたが、あり得ない。


しゃがみ込みたくなるほど揺れていたし、そもそもそんなに長い時間でもなかった。


時間で思い出したが、あのチャイムも不自然だった。


私が美術部に来たのが多分16時過ぎ、下校時間のチャイムが鳴るのは17時50分。


いくら私がぼーっとしていたからって、そんなに長い時間下書きを描いていたはずがない。


冷静に思い返せば、あのチャイムの音はいつものチャイムと違った気もする。


混乱する私に、見知らぬ男子は言った。


「ここは○○県の××市、△△高校です。僕の名前は月島つきしまです。二年一組です。」


彼は親切で、私にできる限りの情報をくれたのだろう。


だが、彼の言葉はより私を混乱させた。


確かに間違いなく、ここは私の通う高校だ。でも。


「二年一組の月島…?」


同じクラスにそんなやつはいない。


「…色々あってあんまり教室にはいってないですが、二年一組です。」


と、混乱する私に補足説明を付け加えた。


自分のクラスに不登校の生徒がいるなんて話は聞いたことがなかった。


とりあえず、いったん“何か事情があって、不登校の生徒がいることを先生たちが隠していた”ということで、自分を納得させた。


「教えてくれてありがとう。私、同じクラスの日高ひだか。地震とかでパニックになっちゃって、きつく当たってごめんね。」


私はこれまでの自分の態度を謝った。




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