西口コンビニA店のお化けの話②

■S公園のイオちゃんのこと 


 今日もイオちゃんはいつもの公園にいた。

 木曜日の夕方になると、必ずここの公園で遊んでいて、優しくてとてもきれいなお母さんと一緒だ。

 僕がイオちゃんに声を掛けると、お母さんは「お兄ちゃんに遊んでもらっておいで」と言って、イオちゃんは嬉しそうに僕のところに駆けてくる。

ブランコを押してあげたり、一緒に滑り台を滑ってあげたりすると、きゃっきゃと楽しそうに喜んでくれる。

 僕には兄弟がいないから、弟が出来たような感覚で、イオちゃんと遊んでいると僕も楽しい。


 イオちゃんのお母さんは、イオちゃんが僕と遊んでいる間はベンチに座って見守っていて、17:00になると「もう帰ろうね」とイオちゃんの手を引いて帰る。

 イオちゃんは「にいちゃんとあそぶ!」と、

まだ帰りたくないってぐずるけど、お母さんが「帰りにコンビニでお菓子買って帰ろうね。」って宥めると、「うん!」ってイオちゃんはお母さんの言うことを聞いて、僕にバイバイして帰っていくので、僕もウチに帰るんだ。


 そう、毎週木曜日はいつもイオちゃんとS公園で遊んでいるんだ。

 5年生の終わり頃にイオちゃんと出会ってからだから、そろそろ1年が経つ頃だね。

 

 でも、イオちゃんは初めて会った時と同じ3歳のままだけどね。


■僕のお母さんのこと


 僕のお母さんはいわゆる霊感のある人らしい。

 お墓の前は通りたがらないし、この前、家族旅行で行った旅館では「この部屋だけはダメ!」って、お部屋に入った途端に部屋を変えてもらうように旅館の人に頼んで、せっかくお部屋にお風呂のあるお部屋だったのに、普通のお部屋に変えてもらったんだ。

 何が見えるとか、何がいるとかは僕を怖がらせてしまうから言わないけど、お母さんはそういうものを感じたり、見たりしちゃうらしい。


 特にあの事故以来は、本当にひどくなったって、お父さんがこの前言ってた。

 5年前の西口の交差点のあの事故以来、お母さんは誰かにずっと謝っている。

 

 そう、僕を助けてくれたあの人に5年間ずっと謝っているんだ。

 最近は少し減ったけどね。



◾️事故のこと


 僕は7歳の時に、大きな交通事故に遭っている。

 ううん、『遭ったらしい』というのが正解。

 僕はその事故のことを覚えていない。

 “解離性健忘”というみたいで、心に強いショックを受けて、そのことを受け入れられずに記憶が失われてしまうものらしい。

 僕が覚えているのは、女の人が「生きて!」と叫んで、僕を突き飛ばしてくれた、その一瞬だけ。

 で、その前後のことは全く覚えていないんだ。

 

 僕の記憶が再開したのは、事故から1週間後。

 お母さんがビスコを食べさせてくれた時に、パチパチ!って頭に電気が走ったような感じがして、目が覚めた感じがしたんだ。

 その時、僕は「ママ!」って大きな声で叫んだらしく、お母さんも一緒にいた看護師さんもびっくりしたって言ってた。

 僕は5歳の頃には「ママ」は卒業して、「おかあさん」って呼んでたのに、事故のショックで数日間、ちゃんとしゃべれてなかったみたいだったから、幼児退行しちゃったのかもな、なんて陽二郎おじさんは言ってた。

 

 ただ、僕はあの日のビスコの味が忘れられないんだ。

 ビスコなんて、どこにでも売っているでしょう?

 でも、あれから何個もビスコを食べたけど、あの日のビスコとは違うんだ。

 

 “ママにもらったビスコ”じゃないんだ。


 

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