西口コンビニA店のお化けの話①

 『駅西口の古くからあるコンビニA店(以下、A店と呼ぶ)では、夜になると小さな男の子のお化けが出るらしい』という噂を最近になって聞くようになった。

 どうやら、夜といってもそんなに遅くない時間帯の20:00〜21:00あたりに出るらしく、陽二郎おじさんも「それらしい小さな男の子が、A店のお菓子コーナーのところでビスコを指差してニコッと笑ったもんだから、そのビスコを取ってあげようと少し目を離した隙に消えてたんだよ。」と、お父さんとお酒を飲みながら話しているのを聞いた。

 (お母さんがお化けとかの話がきらいだから、お父さんは陽二郎おじさんに「そんなこと話すな!」と怒ってたけど。)


 陽二郎おじさんの他にも、学校の同じクラスの飯岡さんも大学生のお兄ちゃんがバイト帰りにA店でお酒を買って帰る時に、A店のスイーツコーナーでシュークリームを指差している3歳くらいの男の子を見たって言っていたし、豊川さんもパート帰りのお母さんが同様にA店で小さな男の子が1人でいるを見たらしいよ、とクラスのみんなに言ってた。


 ただ、A店は僕のウチからは駅を挟んで反対方向にあるので、“今は”基本的に行くことは無い。

 僕がまだ小学校に上がる頃までは、月1くらいで西口のファミレスに家族で(たまに陽二郎おじさんも)ご飯を食べに行くことがあって、その帰りに僕もA店でお菓子やジュースを買ってもらうこともあったけど、“あの事故”の以降は西口に行くことが無くなった。

 お母さんが絶対に連れて行ってくれないし、僕が駅の西口側に行くことは絶対に禁止になっている。

 あの事故の前までは、お母さんは西口の会社に勤めてたけど、今はその会社を辞めて、ウチで翻訳の仕事をしている。


 でもね、僕にとっては西口に行けないことなんて大した問題は無いんだ。

 西口側には友達はいないしね。(こっち側にもいないけど…)

 あのファミレスには行けなくなったことくらいかな。ちょっと残念なのは。

 大好きなケーキ屋さんのシュークリームは、昨日みたいに陽二郎おじさんが買ってきてくれるしね。


 そうだ、今日は木曜日。

 あの子、また公園にいるかなぁ?

 先週も先々週も見かけたあの男の子。

 陽二郎おじさんが買ってきてくれた、このおいしいチョコレートを持って行ってあげよっかな。


 「ねぇお母さん。ちょっと公園まで自転車乗って行っていい?」

 先週買ってもらった新しい自転車で、暗くなるまでウチの周りを走りたい。


 「今からぁ?ちゃんと5時までに帰ってくるって約束してよ。」

 「あと、あそこのスーパーで牛乳を買ってきてくれない?

 いつものやつよ。ちゃんと賞味期限が長いのを選んでね。」

 お母さんから300円をもらったから、お釣りで100円くらいは残る。

 残りはお駄賃でいいよ、だって。

 こういうとき、みんなはお菓子を買ったりするんだろうけど、僕はちゃんと貯金をするんだ。

 来月は買いたいマンガの新刊が出るからね。


 でもね、ほんとにうれしいのは、最近はお母さんの調子がいいことなんだ。


 だって、今週はまだお母さんが誰かに「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」って、夜中に謝っているのを見てないからね。


 


 

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