第4話
「いや、別に、そういうわけでは。今日はたまたま通りかかっただけで…」
うわ、また妙に固苦しい喋りになっちゃった。やっぱりキモい奴だと思われるかも。下手な愛想笑いを浮かべつつ、内心ではひたすら焦る私に、恵理は屈託のない笑顔を向ける。
「そうだよね、花、キレイだよね。私も暇な時よくここに来るよ。去年の秋くらいから雑草だけになっちゃったけど」
「え……」
ばれている。一生懸命ごまかそうとしたのにばれている。女の子って怖い。自分も一応「女子」というくくりに入っている人間なのにこんなことを言うのは少しおかしな気もするが、やはり同年代女子の「察する力」なるものは恐ろしい。何も言わなくても表情やその場の空気感でいろいろなことがばれてしまうのだから。つくづく女の子って怖いなと思う。できれば深い関わりは持ちたくない。特に目の前にいる島村恵理とは。
一方恵理はこちらの動揺など気にも留めない様子で、無邪気な顔のまま他愛のない世間話を続けている。歴史の先生の冗談が面白くないとか、勉強をサボっていたら親の説教が長くて困るとか、フライドチキンがおいしくてなかなかダイエットがはかどらないとか、散々どうでもいい話をした後、急に深刻な表情になって私にこんなことを漏らした。
「最近、友だちとうまくいってなくてさ…クラスに行ってもあまり面白くないんだ。山下はどう? 学校楽しい?」
今どき、学校嫌いであることはそれほど珍しいことではないし、第一それほど恥ずかしいことでもない。隠してもどうせすぐにばれるだろうから、彼女には正直な答えを言おうと思っていた。それなのに、いつもと同じように体は心にもなく頷いてしまい、私はまた本音を言い損ねてしまった。
親や先生の前だけでなく、クラスメイトの前でもすぐ良い子ぶりたがる、「優等生」の悲しい性だろうか。いつまで経っても本音が言えず、仲良くなっても建前ばかり。だから親友ができないのだなと寂しく思った。とは言っても、別に、恵理と仲良くなるつもりはないので、今だけはその「建前モード」でも全く問題はないのだけど。
「そっか…楽しいならいいけどね」
意味ありげな言葉に、少し驚いて視線を左に向けると、そこには恵理の寂しそうな横顔が見えた。やっぱり私の先程の適当なリアクションがよくなかったのだ、と思ったが、特別大切な相手でもないし、言うことが何も思いつかないので、黙っていることにした。あまり自分の失言のフォローをするのは得意な方ではなかったし、もし本当に私のせいで傷ついているなら、なおさら余計なことはいえない。下手なことを言って相手の気分をさらに害してしまったら元も子もないだろう。見るからに怖そうな子だし。
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