第2話

 私は引き戸から手を離し、そっとその場を後にした。今話されていたことがにわかには信じられなかった。確かに、私は「暗くて」人とうまく話せない。実際、話しかけたくても、なかなか話しかけることができず、相手のことを無言で見つめていたこともあった。でも、だからといって何もあんなことを言わなくたって…。


 ショックでぼんやりとした頭のまま、今来た道を引き返し、昇降口の方へと戻っていく。行くあてなど、どこにもなかったが、とにかく教室の前で惨めたらしく立ち止まっているのだけは避けたかった。少なくとももう学校にはどこにも居場所がないのだから、いっそ家に帰ってしまおうかとも思った。昇降口で上履きを持ち帰って、もう当分行かないという意思表示をしたうえで。


 気がつけば、またいつもの花壇に来ていた。あまり訪れる人もなく、皆から忘れ去られている、体育館裏の小さな花壇。去年の夏あたりまでは、ビオラやクロッカス、マリーゴールドなど、様々な色をした観賞用の花がたくさん植えられていたが、花好きの副校長が急な体調不良で仕事を休みはじめたこともあって、その年の秋以降、花壇は荒れ放題のまま放っておかれている。

 今はかつての華やかな頃の面影はなく、ただ枯れかけたススキのような草と、芝生に使えそうな青々とした雑草とが、互いに混ざり合った状態で、わさわさと生い茂っているだけである。実に寂しい光景だ。


 それでも私はこの花壇が好きだった。体育館とフェンス沿いの植え込みに隠されているこの花壇は、校舎からも外からも見えない絶好の「隠れ家」で、一人になりたいときにはもってこいの場所だった。クラス対抗の全員リレーの練習でルール違反を責められたときも、数学の中間テストでひどい点を取ったときも、休み時間か放課後にこの場所を訪れて気持ちを切り替えたうえで、クラスや家に帰っていった。

 でも、あんなことを言われてしまった今日ばかりは、この花壇も私の心を癒やしてはくれない。私は花壇の前のベンチに腰を下ろした。深呼吸をして一生懸命落ち着こうとしても、涙があふれてきて、どうにも感情を抑えることができない。涙でにじむ緑の草たちを眺めながら、大げさだけど自分はもう生きていけないなと思った。いっそのこと、消えてしまいたい。しばらくめそめそしていると、ふいに後ろから声がした。あまり聞き慣れない声だった。

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