(仮題)苦手なあの子

紫野晶子

第1話

 全てのきっかけとなったのは、些細なことだった。中学の体育大会が終わって間もない、6月のある朝、珍しく早起きした私は、いつになく張り切って朝の支度をしていた。わざわざ人様に報告することでもないが、この日は私の誕生日で、14歳になる私には1つ決心していることがあった。それは新しいクラスで、自分から誰かに話しかけて、新しい友達を作ることだった。


 残念なことに、中学2年生に上がるとき、1年生の時は一緒だった小学校からの友人たちとは違うクラスになってしまったため、このときのクラスには友人が一人もいなかった。だからここで新しい友達を作ろうと思っていたのだが、困ったことに私はひどく内気な性格であった。ただのクラスメイト、つまりあまり親しくない人に対しては、自分から話しかけるどころか、挨拶することさえできないでいるくらいに。友達を作るためにはまず挨拶から始めないといけない、とわかってはいても、なかなか挨拶できない。相手のしらけたリアクションが怖いのだ。自分で決めたくせに、教室に近づくにつれて心がどんどん憂鬱になっていく。本当に、突然私が声をかけても大丈夫だろうか。あまり仲が良いわけでもない私が急に近づいていって話しかけたりしても、皆嫌がらないだろうか。


 こう考えるのにはちゃんとしたわけがある。一部の女子は私とすれ違うたびにクスクス笑っているような気がするし、この前給食当番をやったときも、5、6人の男子と2、3人の女子は私が配るおかずを受け取ってくれなかった。単にそのおかずが人気のないメニューだっただけかもしれないが、あまり自分の好感度に自信がない私としては、何だか嫌われているような気がして不安になる。


――いや、もし嫌われているとしたら、こうやってネガティブなことをぐちゃぐちゃ考える、「暗い」ところが原因なのかもしれない。嫌がられることは心配せず、今日こそクラスの皆に元気よく挨拶してみよう。


 そう思って教室のドアに手をかけ、開けようとしたとき、中からこんな話が聞こえてきた。


山下やましたみのりってキモイよね」


「暗いし、全然しゃべらないし、何を考えているのかな。この前の学活の時も、何も言わずにずっとこっちを見てたけど、ウチらのこと好きとか?」


「やだ、気持ち悪い。事故にでも遭って死んでくれたらいいのにね。無言でガン見とか、ストーカーかよ」


「ホントそうだよね。山下みのり、マジいらない」


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