第7話 長篠城址迷宮 3
迷宮はだいたい、10階層に分かれる。
下り階段の前で立って、魔力を掌の上で練り、その球を床に落とす。
ポーンと言う音と共にこの階層の地図が分かる。
「次、左」
「ほう!便利じゃん!」
「はいはい」
徳川家康(仮)を無視して先に進むとスコーピオン、サイクロプスがこちらを見ている。
「う、うわ!サイクロプス!!」
身長は4m超。戦鎚をもつ巨大な一つ目のサイクロプスはS級の迷宮にいる魔物だ。
こちらの戦闘スタイルを見て、その場で武器を生成できる鍛冶(作成)能力がつよすぎるのだ。
案の定、銃を持っているこちらを見てライフルを構え、ぶっ放す。
一瞬で軽くバリアを張っただけだがかなりの威力。ひび割れたバリアをぱっと消し、振り返る。
「俺が行くもんで、待っとりん」
「待ちん」
「あ‶?」
徳川家康煩いぞ!!
「なんだん」
「僕に任せりん。一番槍、憧れとってね」
へへへと笑う顔がイケメン過ぎてイラっとした。
「じゃ、いきん。頑張れー」
刀を抜いて突進。ここからあそこまで100m。何度も銃声が響くがやがて金属音がする。
「お、相敵」
負けるかなーと気軽に見ていたらサイクロプスの巨大な頭がずりっとずれて落ちる、とスコーピオンがなます切りされた。
おい。スコーピオンは銃弾すら弾くんだが?
「うわ……まじか」
血まみれの家康は刀を振るい、血を払うと納刀してこちらに走ってくる。
「できたにー」
「うわっ汚なっ」
「ひどっ」
ショックを受けた様子で仰け反る家康を見つつ、先に進むと一歩踏み出したそのままの恰好で首根っこを掴まれ家康に後ろに引かれる。
「なんだん!?」
「英霊と魔術師がおるに」
「なんかいかんだかん」
此方を見下ろす家康は苦い顔を見せる。
「英霊は一部の上位魔術師が扱えるいわば、“武器”。それを連れとるってことは、攻撃意思があるってこと」
「ああ、じゃあ、敵かん」
「そうだに」
銃を構えていると銃弾が飛んでくる。
バリアを張ってきんと音が響くが、敵の姿は見えない。
ぼそっと呪文を唱えて敵の位置を探る。
「角待ちしとる。そっからうってきよる」
「僕が行く、任せりん」
「おう、がっかりさせるな」
「ははは」
爆音を上げて家康が敵に突進するとぎゃんと凄まじい金属音が響きわたった。
「なんだん」
「兄上様!!」
「竹千代!!」
「……なんだん」
P90を構えたまま近づくと長い藍色の髪の向こう側におれとおなじくらいの身長の華奢な少年が立っていた。
「あれが、おみゃーの主だかん」
「はい、兄上様」
「あっちのがよさそうだね。じゃ、おみゃーはいらん」
「はっ!?言うことを聞け!!ただの使い魔ごときが!!」
金髪のエルフが叫ぶがごつい装飾の施された火縄銃がその額にあてられる。
重そうだが、その細腕でよく持てるな。
「あっちのが上だにゃ。おみゃーはいらんが」
がんと火縄銃がひとりでに撃たれて、エルフの青年は倒れ伏し、“兄上様”とやらはこちらを見た。
「契約してくれるかにゃ」
「で、誰だお前」
「兄上様には丁寧に話んね」
「どちら様でしょうか」
「おみゃーの前に居るは第六天魔王、織田信長ぞ」
「ほえー」
「なんだんその声」
「有名人だにー」
「僕も有名人だに」
「そうかん」
織田信長はこちらに手を差し出す。戦いを知らなそうな白い細い手。
それを握り返すと、手の甲が灼けつくように痛む。
手をぱっと離して手袋を脱いで手の甲を見ると先ほどの印に縦線が入っている。
「……これは、一人増える度に一つ増えるだかん」
「そうだに」
使い魔とか英霊とか知らん用語だわ。
いや、使い魔と言う概念はある。ただ、相手は基本ただの動物である。
つまりこれは異常事態。戻ったほうがいいかとは考えるが瞬時に破棄する。
速くこの迷宮を閉めるほうがいい。
「んじゃ、急ぐに。長篠城址は街中なんだわ」
「なんだん。ここ、長篠だかん」
「ええ、そうですよ」
「ええて、ええて。砕けて喋りゃー」
「そうかん。んじゃそうさせてもらうわ。ここは長篠城址の下なんだわ。で、俺たちはその迷宮を閉めるのに先行しとる」
「そうかん」
「そうだったかん」
「そうだに」
歩きながら状況を説明した。
岡田がすすすと寄って来て話始める。
「図らずとも、長篠城での戦いの関係者ですね」
「へーそうだかん」
「ああ、ありゃ武田の勝頼との戦いだった」
「火縄銃が画期的にもちいられた蹂躙戦でした」
「後世ではそうつたわっとるだかん」
「え?はい」
家康は苦い顔を見せる。信長は無表情だった。
「……あん戦。鳥居強右衛門。あいつがおりゃにゃーおわっとった」
「え?」
無表情の信長の代わりに家康が言葉を続ける。
「徳川軍の援軍を要請しに岡崎城に来とった。援軍の決定と即動かして、さきに鳥居強右衛門が長篠城に帰ったんだわ。でも、途中で武田軍に捕まったんだわ」
つまらなそうに途中の石を蹴って先に進みながら言葉を続ける。
「あやつは、武田の拷問に耐えられず、援軍の情報を吐いた。でも、長篠城の前に連れてかれて磔にされて、「援軍は来ないと言え」と言われて、その時に命を込めて叫んだ」
ぴたっと止まり、信長はこちらを見た。
「あいつは、徳川の援軍が来るから、絶対に守れと叫んだんだにゃー……自分が痛くとも、ちっとも感じさせんように何度も何度も。刺されるたびに叫んだ。絶対に助かるからってにゃ。儂らを信じとった。約束は守った。三河の東端、長篠、設楽で戦った儂らは、絶対に負けられなかったんだにゃ」
言いたいことはよく分かる。
「その覚悟があるかって?」
信長に問うと、彼は頷いた。
「家臣は裏切る。儂は何度も許した。おみゃーはどうだん」
「任せろよ。裏切らねえから」
「そうかん」
美しい中性的な相貌に無表情を乗せて信長は前を向いた。
現実世界が迷宮に飲み込まれまして 津崎獅洸 @red_green_red
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