第6話 長篠城址迷宮 2


生き残りを軍人達が守り、長篠城址から出てくる魔物を討伐していく。


「このまま、ですか?」

「ああ、うん?迷宮の構造しらんだかん」

「詳しくは、知らないですね」


長篠城址の前の資料館。

立っている位置は迷宮の入り口は盛り上がっていて、洞窟のようになっている。もとの長篠城址にはそんなものなかったが。

そこを指さして言う。


「あれが出入り口。中は異界。外に出てくる魔物を無くすには、誰かが踏破する必要があるんだわ」

「でもここ、S判定ですよね?」

「判定なんてしらんわ。判定が何であれ近くの軍人が行くのが一般的なんだわ」

「えっえっ」


ここは頑丈な外骨格を持つ怪力のスコーピオンが出るからA判定は確実。

冒険者なら6以上のランクの者が行く迷宮である。

しかしながら軍人であれば危険を顧みず、ひた走るしかない。

だが、魔力ランクが高い俺には危険はない。


「岡田中尉、クゼンヴァゴ大尉。ついてきて来るかん」

「お供します!」


クゼンヴァゴ大尉は即答したが岡田は躊躇していた。

ちらりともみもせず口を開く。

 

「なんだん」

「え、あ、お供します」

「殺しゃしんわ、なんだん。なにが怖いだん」

「純粋に実力が……」


溜息を吐き岡田の背を叩く。


「スコーピオンは殺せるら?」

「はい」

「じゃ、上等。頑張りん」

「はい」


小隊長たちを集めて指示を出す。

指示を出し終えると、振り返って迷宮の入り口を見る。


「迷宮の中は異界。入り口は一緒でも、中は違うんだわ」

「えっ」

「他のチームに会うことはにゃー。皆無。つまり助けが来ることもにゃいんだわ」

「えっ、俺っ無理じゃないですか?」

「大丈夫、大丈夫、俺がいるでね」


宥めすかしながら入り口に向かい薄い膜を3人で割るとそこには火縄銃を構えたオークが並んでおり、一斉掃射したので、バリアをはって事なきを得た。

此方から銃を乱射してオークの群れを斃すと死体を踏みのけながら先に進む。


「迷宮って迷宮ですよね」

「迷路って意味だかん」

「はい。迷路ですよね?どうやって進むんですか?しらみつぶし?」

「ははは。面白いこと言いよる」


辺りに敵がいないか確認してから手のひらを上に向け魔力を練り、それを下に向ける。

その球が跳ねるとぽーんと音がして消え失せる。


「次右」

「えっえっ」

「なんだん」

「なんでわかるんですか!?」

「音」

「生き物の音ってことですか?」

「いや、うーん。何ていうだかねー。最短ルートが分かるんだわ」

「え?」


そう。迷宮は石系の素材でできた迷路である。

勿論行き止まりもあるし、近道もある。が、それを俯瞰で見ることはできない。天井があるからだ。

そこでどうするか。簡単なことだ。


「ソナー」

「あ!そうか!!」

「さすがスキップしただけはあるじゃん。分かるかん」

「音を発して返って来た音で距離を測る手法ですよね」

「そのとおり。よくできましたー」


よしよしと肩を叩き先に進む。

生命反応はないが、迷宮内ではそれは役に立たない。

魔物は迷宮内で“発生”するのだ。

今はいなくても数秒後に発生する可能性がある。

だから、銃を3人とも構えつつ慎重に先に進む。

角を曲がる前に少しだけ頭を出し、安全を確認した後、先を進むが向こう側の角から何かが飛んできた。


超音波を発してその飛んできたものを走査した。

答えはヒト。


銃を乱射するがどれも当たらずその人物は銃弾を刀で弾きながら高速で近づいて俺を殴り飛ばそうとしたが、それを阻止。逆に手を掴む。


「貴殿の人権は認められる。これ以上、攻撃はしないように」

「……なに?」

「人権が分からないか?」


そう問うと彼は口の端をひくつかせる。


「それは分かる。何故、言葉が通じるのだ。異界だろ」

「それは、迷宮が発生し始めてからの命題だな。異界と通じてから言葉の壁が無くなって、“苦労”してるよ」


彼はこちらをまじまじと見て、納刀し背筋を伸ばした。背が高いな。

腰まである藍色の髪、金色の葵の紋章が胸にある、短い黒い色の上着にハイブーツ。

ハイカラな格好だな。


「あれ」

「ん。なんだん」


何かに気付いた様子で岡田が口を開ける。


「徳川家の家紋では」

「はあ、それがどうしただん」


焦った様子で俺の肩を掴みひそひそと声をかける。


「徳川家の家紋はひとりひとり違うんですよ!」

「はあ、それがどうしただん」

「だから!あの家紋は徳川家康の家紋なんですってば!!」

「ふーん?」


分からん。


「お前、僕の事を知っているのか?」

「歴史上では、知っています」

「後世ではなんと伝えられている?」


徳川家康は知っている。が、どんな人物だったかは知らん。


「非常にその、賢い人物だったと聞いております」


それを聞いた彼は大笑いして、膝を叩いた。

俺が聞いた限りでは、徳川家康という人物はとんだ狸だったという評価である。


「あっはっはっは!!そうかん!そうかん!なんだん!いつの世も、変わらんねえ!」

「先に進んでも?」

「え、迷宮で他者に会うのはイレギュラーでは?」

「ん?ああ、異界人に会うのはイレギュラーじゃない。でも、こいつ、生命反応がない代わりに魔力反応が高い」

「ああ!そりゃそうだに!僕は英霊として呼ばれてここに立っとるんだわ!こっちで言う、そちら異界こそが、どうやら地球らしいじゃん」

「地球、ですけども」

「そうだら?だもんで、僕は徳川家康。あっちじゃ通用せんかった。剣術は兄上様には遠く及ばんでね、えらいわ」


どういうことだ?

何を言っているんだ?


「と、徳川家康……?」

「ん、そうだに」

「英霊ってなんでしょう」

「使い魔だと考えてくれりゃいいに」

「え、あ、はあ。死んだ人間が成れる者なんですか」

「ん?そうだに。神話からくる奴もおりゃあ、僕みたいに死んだ後にくる奴もおるんだわ」

「んへー」


何?何の話してるんだ?こいつは徳川家康本人?だって、絵と違うんだが。


「外見が……その日本人とは思えないのですが」

「あーだって後世の者のイメージで、できとるもんで、そうなるら」


???

俺は藍色の長髪の徳川家康をイメージしたことはないが。


「そんな事より、お前、魔力高いじゃん!僕の主になりん!」

「……それってデメリットありますか」

「メリットしかないに!前の契約者は僕より弱いもんで、殺した。僕を従えたければ強くなくては!」

「じゃ、契約しましょうか」


はい、と徳川家康?は右手を差し出してきた。それを握り返すと右手に痛みが走る。

焦って手を離し、手袋を外すと手の甲を見る。

一本横線が走っている。

擦ってみても振ってみてもそこにある。


「なぁにこれぇ」

「ああ、契約印だに」

「ええ……」

「あと敬語はいいでね。ほら、そこの赤髪に話してたみたーに砕けた調子でいいに!」

「あ、はい、じゃあそれでいくわ……名前は?」

「徳川家康って言っとるじゃん!!!」


本当ぉお?と疑いながら先に進んだ。


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