第2話 僕は石ころの役回り
「それにしても、どうしてこのようなところで焚火を?」
これを聞くとき、モーセはきびしい顔をした。
僕たちは、まずは謝るところから彼に応じるべきだろうか。
頭を下げた。
「すいません。下の集落で聞いたんです。モーセという人はぶらりと羊と出て行って、いつ帰ってくるかわからないと。でもこの山が見えるところにはいるだろうって」
「では、私を呼び寄せるために、ここで火を炊いていたと言われますか」
「はい」
僕は、焚火を囲むように座った。
火の番をしていたナギは僕に場所を譲ってくれたが、それはモーセに対しても同じだ。
「ここに座ったらどうだ。寒いんじゃないか?」
ナギはそんなふうに声をかけるが、
モーセはやんわりと断った。
「もうここに住んで四〇年になります。この山一帯は、私の家も同然なればお気遣いは無用」
「立ち話もなんですし」
と僕が声を掛けなおしたところで、モーセは僕たちには興味もなさそうだった。
モーセからすれば、さっさと用事を済ませたかっただろう。
「病気が蔓延していると先ほど、お話がありましたが。それはどちらの国のことでしょうな」
要点を催促されているような気がして、
僕は次の話をする。
「ザッハダエルの城塞をご存じでしょうか。カナンのほうにいろいろと国があるんですけど」
「目と鼻の先にあるのです、知らないはずがありません。とは言っても、私はずっとこの地に籠もっているばかり。私にあるのは四〇年前の知識ですが」
モーセは僕を見てはいなかった。四〇年の間、モーセはいろんな国の商人たちと出会ってきただろう。いろんな国の商人たちが偶然ここを通りかかったし、迷い込んできた。当然ながらザッハダエルにどのような民族が住み着いているかをモーセは知っている。
「あの周辺で流行病があるんです」
「最近大嵐があったのではありませんか。向こう側の空が暗くなっているのを見ました。天候と何か関係が?」
「嵐はありました。そうなんですけど、天気とは関係なくて、実は最近まであっちで戦争をやっていたんです。今でも死体があちこちに転がっています」
「戦争とはまた物騒なことです。カデシュの戦いのようなことがまた起こったというのでしょうか」
モーセは眉間に皺をよせた。戦争の内容によっては、この話は断らなければならないとでも言いたげだ。
「戦争に荷担してもらうわけではないんです。戦争は終わったと思います。一応ですけどね」
「終わった? 今度はどちらの国が勝ったのでしょう」
「カデシュの時のような大国同士が争う戦争ではないんです。カデシュの戦いはミツライムとヒルデダイト帝国。いえあの時はまだ王国でしたね。今回のはそんな話じゃなくて、集落の間で戦争が起きたって言うか、そんな感じなんです」
「では、ザッハダエルは今どちらの国が支配しているのでしょうな? ヒルデダイトか、あるいは——」
「一応はヒルデダイトの属国ということですが、もうそこに国はありません。住んでいるのは病人ばかりです。それで僕たちが病気を治せる人を探しているんです」
「国がない?」
「国がなくても人はいます」
「なるほど」
モーセは頷いた。納得してくれただろうか。
ちなみにここで赤ずきんの賢者が、
「ミツライム?」とふいに呟いたのは何の悪戯だったか。
「え? 何です?」
僕はふいにリッリが何を聞き間違えたのか推測する。「ミツライムじゃなくて、流行病で困っているのはザッハダエルのことですよね?」
「いんや、なんかミツライムという単語が出なくて安堵してり。そんな顔がモーセにあったりや?」
商人は相手の顔からも情報を盗み取るという。まさにそれだった。ミツライムの話などしていないのに、ミツライムという言葉が出なかったがゆえの安堵。そんな表情がモーセにあったと賢者は言う。
考えてみれば、さっきからモーセの興味は僕たちにはなかったと思う。彼が期待するのも怖れるものも、それは僕たちのような旅人ではない。村人たちが僕たちにモーセの存在すら教えてくれないのも、そこに原因があるのだろう。
だとしたら、彼が怖れる旅人とは誰のことだろう——。
「モーセとやら、それはミツライムに何の関わりがありや」
リッリの質問に彼は答えられなかった。
だから、
「ミツライムなんて関係ないのだから、いいじゃないですか」
と僕は言う。
「いや、そういわれりや、その通りなりゃが……」
「今はこっちの話が優先なんです」
僕はあくまで流行病を治療する算段を整えたいと思う。「戦争のせいで土地が荒れているのも病気の原因だと思います。今は戦争が終わって、病気の人がそこにいるだけです。僕たちは彼らを助けたいと思っているだけなんです」
モーセに伝えるのはこれだけで良かった。
長い沈黙があった。
たぶん、リッリの言葉が理由なのだろうと思う。「ミツライム」と聞いた瞬間にはモーセの顔はそれまでとは打って変わって険しかった。
僕たちが村でモーセのことを探していた時、村人は誰もモーセのことを語らなかった。だからこそ、リッリにも憤りがあったに違いない。
でも、それはそれ。
僕はどれくらいモーセが喋るのを待っただろうか。
やっぱり彼は医者なのだと思う。
助けられる人がいるのに、見てみないフリが出来ない人だ。
「病気で苦しんでいるのは、ザッハダエルの人たちなのか?」
モーセが重い口を開いたのは、しぶしぶだったかもしれない。だけど僕にとっては最後のチャンスかもしれなかった。
「はい。他にも周辺の集落の人たちもいますけど」
「あなた方はザッハダエルの人間ではないのでしょう? ザッハダエルの人間は、金色の髪などしていないし、赤い髪でもない。白い肌でもない。あなたたちは何者なのでしょうか?」
この問い。
「僕たちは通りかかっただけというか——」
僕は言葉を濁す。
「そこのヘルメスは間違いなく勇者だ」
とナギは僕を紹介してくれていた。
「勇者? そんな理由で、あなたたちは見ず知らずの人を助けようとするのでしょうか?」
モーセはあきれたかもしれない。
「はい、僕はもともと旅の商人でした。でも今は勇者みたいなことをやってます。なんて言うが、僕はいろんな国の言葉をしゃべれるので、頼られちゃって」
僕はまっすぐな顔で返事した。
続けて真摯な気持ちをぶつけてみる。
「ザッハダエルだからって言うわけじゃなくて、苦しんでいる人たちを見たら、放っておけないじゃないですか。医者や薬を探したりしたんです。でも流行病であの規模になると、もう手がつけられなくて。そんな時、あなたの噂を聞いたんです。そんな病の治療法を知る人がいるって……」
僕の言葉は届いただろうか。
やがて、
「どのような症状でしょう? 私の知っている対処法があれば教えましょう」
モーセは僕の気持ちに応えて唐突に口調を変えた。ここにいるのはもはや羊飼いではない。記憶の縁から知るうる知識を引き出す知者だった。
ザッハダエルの城塞があった場所周辺をカナンと呼ぶ。その場所で病人の面倒を診ていたのはリッリだった。
だからこそ、そこからはリッリが答えた。
「症状は様々よ。刻一刻と変わりる。ワレはワレにできることを過大評価せりぬ。ワレの診断が正しいとは言わりぬ。できうる限りの最善の策は、それを連れて行くことにありや」
エルフは焚火の前に座ったまま、モーセを見上げた。
病気の原因は複数あり、症状もいろいろだ。実際に知るべき人間が目にしなければ適切な対処などできはしない。僕はそれを何度リッリから聞かされたことか。
「難しい」
とモーセは首を振った。
リッリはモーセにそっぽを向かれて、また、むっとしただろう。
「人の口から出た言葉というのは、木の枝の先で広がる葉っぱのようなもの。一つの真実からあれやこれやと多種多様な葉っぱが茂りや。なればこそ医者ならば、他人から聞く症状で考えるのではなき、自分の目で確かな症状を確認する必要がありやら」
病気を治すなら実際にそれをアドバイスする人間が見たほうが確実だ。そう思えばこそ、モーセに噛みつくような態度になったのかもしれない。
さらに、ここにリッリからの提案があった。
「報酬は十分に用意できりや。金貨や銀貨で払うこともできりり、それの集落の助けになりや」
しかし、モーセは首を振る。
ならば、
「船や家畜が必要なら、用意したり」
とリッリは身を乗り出した。
これも駄目だとモーセは言った。
「報酬ではない」それがモーセの本心だ。
「ではなんやり? 病気とは言うが症状は人それぞれ。感じ方もそれぞれり。頭が痛いと言うり、それだけでそれに何がわかりん」
リッリは抱えた杖を揺らして焚火の炎を煽った。火の勢いが増したのは偶然だったか。
するとモーセの額に汗がにじんだ。口の端からも言葉が滲むように出る。それはこの火を沈めるために、モーセの身体が自動的に反応したかのようにさえ見えた。
「私ももうこの歳だ。旅に身体がついていくとは思えん」
それは本当の理由ではない。
そう指摘したげに、リッリは首を傾げていた。
「むう?」
対して、リッリを納得させるべくモーセは次のように言う。
「薪を集めるのに若い衆が出払っているもので、私が姪の面倒をみなければならん」と——。
リッリは動じない。
三度目に、モーセは目を泳がせた。上手い嘘とは、真実を混ぜて話すものだ。旅人を追い払うのに良い嘘とはどのようなものであろうか。そんなふうに悩む視線があった。
「この山で人を待っている。私がこの山を離れると待ち人が彷徨ってしまうだろう。そんなわけで私はシナイ山から離れることはない」
他人からすれば、こんな理由で山を離れたくないなどと言えばバカバカしいとさえ思う事だろう。
「四〇年も待ち続ける、その待ち人とは誰なりや」
リッリは一度目を閉じて、また開いた。
このとき、モーセは「しまった」と思ったに違いない。赤頭巾は、モーセの頭の中を見透かすように口元を歪めている。
「待ち人って?」
と僕もそのことについて考えてみる。
家族だと彼が答えれば、なぜ彷徨うことになるのかと問いたい。
昔の女だと彼が答えれば、四〇年も前の彼女をかと問いたい。
知らない人間だと言えば、なぜ待っているのか問いたい。
だからモーセは黙秘するのだろう。
いや、黙秘したのが答えになった。
「それはわかりやすい顔をせり。ミツライムか。ミツライムは歴史を壁画に残しておると聞いておりや。ワレが行けば、それの悩みの種などすぐにわかり」
つまり、モーセはミツライムが関わることには無口になる。待ち人はミツライムに居ると推測できた。
リッリは、「どうせばれることやり」と前置きをして言う。
「ここでワレに対する印象を悪くするのが得かどうかわかりぬそれでもあるまいり。話してみりょ」
どの道知られることならば、黙っていても仕方ないだろう。
「だが」
モーセは口ごもる。
なおもリッリは問う。
「それは王や司祭でもなく、ただの羊飼いであろ。羊飼いなどしているのは、まさに身分を隠すため。それを知られたら、どのような災いがふりかかるや見当もつかりぬと」
「そこまでわかっておるなら」
「それほど人に聞かれては困ることや?」
リッリは頬づえをして、しばらくは待つしかないという態度。こればかりはモーセの気持ち次第だった。四〇年も黙っていたことを口にするのは容易いことではない。
「困っていることがあるなら、僕たちが力になります」
僕にできることは寄り添うことだけ。彼の悩みが解決できない限り、彼がザッハダエルで流行っている病気を診ることもない。ただ、普通の旅人の言葉にどれくらいの意味があるのか。
その時、ふいに声をあげたのはナギだった。
「随分長い間苦しんで来たんだな」
同情するような呟きだったと思う。
リッリとモーセのやり取りを見れば、ある程度は状況が理解できただろう。そしてモーセはナギが口にするイザリースの言葉を少し聞き取ることができたらしい。
「あなたたちに何がわかるものか」
「分かるも何も、喋らないのでは誰にも伝わらない。そんな話ならイザリースの創造主にだって助けられない」
とは、ナギも少し口が悪い。
「創造主?」
「そこにいるヘルメスは、創造主の使いのようなものだ」
「創造主の使いとは?」
モーセからこれを問われれば、僕の出番だ。
それは僕のことなのだから。
「厳密に言えば、イザリースのウズメ姫から勇者として選ばれたというか。そんな感じでして。そのウズメ姫は創造主に仕える高位の巫女でして……」
「あなたは、どのようなお名前でしたかな?」
「ヘルメスと言います」
「いや、そちらの白い手の剣士様は? いえ白い杖を持っているのだから賢者様でしょうか?」
「彼は——」
僕は咄嗟に振り返っていた。
ナギ。
僕の護衛だけどそれは仮の姿。彼はイザリースではオーディンと呼ばれる剣士だった。彼が持つ白い杖のようなものが剣であることも、今は秘密のこと。
ゆえに、
「僕の友達」
そんなふうに僕は彼を紹介する。
するとナギのほうからも自己紹介があった。
「俺はあるべき時にあるべきようにあるだけだ。みんなで勇者ヘルメスチームだ」
思わず僕は照れ笑い。
でもモーセは僕たちのことをどこか疑っている目つき。
それは怪しくも見えるだろう。
「——僕ってそんなに勇者に見えません?」
「あたしとナギに挟まれていたら無理だろ。ヘルメスって実力的にはその辺の石ころみたいなもんだろ。ああ、石ころに失礼だな。石ころは結構役に立つ」
とは赤髪の女子。
「シェズさん? 悪気がないのはわかりますけど、そこまで言います?」
「勇者、あたしと交代してもいいぜ?」
「シェズさん、僕たちがシェズさんを匿っているのを忘れてません? ヒルデダイトで問題起こして逃げていることも忘れてますよね? シェズさんが目立ってどうするんですか」
「そんな昔の話すんなよ。だいたいこんな遠くまで、あいつら来ないって」
「あの——」
僕は手を大きく振ってみた。
シェズがでしゃばる度に、僕たちはどんどん怪しい集団になっていくようで、
それを見るモーセの目つきもさらに険しくなるようで——。
ここは落ち着きたい。
そんな時、
「ヘルメスが石なら俺はその辺の草でいいや」
風をまくような声があった。
ナギがいうには、「シェズはその辺に落ちている野菜」だ。
これが何かと言えば、
「ふお?」
喋るなと言われたようで、シェズが黙り込む不思議。
こうなれば、リッリも座り込んでいた。
「ワレは木にでもなってりや。そうなるとここには最初から誰もおりゃんせ。誰も居ないのだから、モーセよ。たまには思うところを吐き出してみりゃれ」だ。
すると、どうだろう。
僕たちが石や草、野菜や木であれば、
焚火の前でモーセだけが、頭を抱える状況だった。
「誰もいないと申されるか」
モーセは周囲を見渡した。
そこには、石や草があるばかり。
「考えてみれば、長い旅をしていたような気がしております」
それが老人の吐露だった。
モーセが思い出すのは幼少の頃のこと。
「私の父親はミツライムで祭司の職にありました。四〇年も昔の話です。そして当時のファラオは父に病人の世話をさせていたそうです。父はミツライム人が嫌がる難病の患者や伝染病の患者を診るようになりました。病人が次から次にくれば、知識も手伝う人間も増えていきます。伝染病を診るわけですからまともなミツライム人は父が住む街には近づきません。父がミツライム全土に名医として知れ渡る頃には、その街はある意味、ミツライムの中で孤島のようになっていました」
モーセは風を遮るように身体の向きを変えた。
続けて喋る内容はその後の展開だ。
「父は誰からも慕われていました。誰もがファラオ以上に父を慕いました。一族の誰もが父を誇りに思っていたはずです。ですがこれを快く思わない者がおりました。ファラオやその側近の者たちです。彼らからすれば国が奪われたように感じたのかもしれません」
モーセは続いて、焚火を見た。
どんなに美しい花も火に晒されれば、パチパチと音を立てて炭へと変わるもの。
「父と私はファラオの命令により、ミツライムから追放されたのです。追放とはいいますが、父を慕っていた民の目の前で父を殺すわけにもいかず、見えない場所で殺そうというだけのことです。その際に、我々が無事にミツライムから出られるようにと多くのミツマの民がミツライムに残りました。我々を見守ってくれていました。彼らもその後でまた我々を追ってミツライムを抜け出してくるという約束だったのです。我らミツマの一族はこの山を見定め、いつか皆でここに集まる約束をしていたのです」
これがモーセの理由だった。
村の若者たちが僕たちにモーセのことを話さなかったのも、モーセがシナイ山から離れないのも全てに理由があった。
「四〇年も、それはその約束が果たされる日を待ってりや?」
リッリは目を丸くした。
「父はもう他界してしまいましたが、それでも待たなければなりません。父を慕い私たちを信頼してくれていた人、彼らが苦難を乗り越えてここにやってきたとき、私がここで迎えなければそのことに意味がなくなってしまうのです」
モーセは付け加える。
「私の命もそう長くはない。待てるのも後少しです」と——。
「四〇年続けたことを、今やめろというのはワレが礼を欠いておりや」
リッリが頭を下げた。
その時、風が走っただろうか。
白いローブが揺れたと思えば、ナギが立っていた。
「そういうことなら、俺がミツライムに行って、あんたの一族がどうしているか、なぜここに来ないのかを聞いてくる。ミツマの一族だったか。あんたはカナンに行って、病人を診てくる。これでお互いに得をするはずだが、それでどうだ?」
「それができたら」
モーセは思うだろう。
追放されたからこそ、ミツライムに戻れず。
ミツライムのファラオの周囲に居る者の卑劣さを知るからこそ、彼らが心変わりして暗殺しにくることを恐れる。ミツライムが、国を裏切るものを生かしておいたためしはない。となれば、自分たちの存在を不要に誰かに教えれば、それを辿ってミツライムの軍隊がいつか自分たちを殺害するために来るかもしれない。
モーセは今までは沈黙してただ待つことしかできないでいた。
しかし、
ここに来て風が吹いた。これはそよ風か、はたまた暴風の走りだったか。
「これが最初で最後のチャンスかもしれないぞ」
ナギは焚火を見ていたのだと思う。
モーセも同じように見ていただろう。
もうすぐモーセは人間の寿命を迎えるだろう。それが明日であることもあるし、一年後になることもある。四〇年来ないものが、一〇年後に来る可能性は低い。せめて待ち人が今どういう暮らしをしているかだけでも知ることができれば、彼はこれまでの人生に納得することができるかもしれない。
間を置いて、
「あなたの言う通りです」
モーセの頬は焚火に中てられて、少し赤くなっていた。
人間の寿命は短い。
その人生で彼が他人にここまで話したことがあっただろうか。すでに話したのだから、後に引くべき時も場所もそこにはない。
僕はこの話をまとめることにした。
「じゃあ、僕たちはミツライムに行ってモーセさんの兄弟がどうしているのか見てきます。モーセさんはカナンに行って、流行病の病人を診てくるってことでいいですか?」
その時、
初めてモーセは僕を見てくれた気がする。
「あなたたちを勇者様と見込んで——」
彼の瞳には僕が映っていた。
「勇者——」
僕はまだ石ころの役回りだっただろうか。
違う。
モーセは勇者となるべき人間を探している。
この出会いに人生の残りを託してみようという気概だ。
この時、僕はちゃんと勇者らしい顔が出来ただろうか。
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