ターゲット広告

大学生の佐藤和也は、ある日を境にスマホで表示される広告に違和感を覚え始めた。最初はよくあることだと流していたが、次第にその広告が彼の生活に異様なほど寄り添っていることに気づき始める。


ある朝、和也は目覚まし代わりにスマホを手に取り、ニュースアプリを開いた。画面の下に表示された広告には「寝起きが悪いあなたに最適なサプリ!」と書かれていた。


「最近ちょっと寝不足だったし、よくあるターゲティング広告か」と、彼は特に気にせずスクロールした。朝食を済ませ、大学へ向かう電車の中でSNSを眺めていると、また広告が目に入った。今度は「電車での疲れを癒すイヤホン特集」とある。


「まぁ、これくらいは普通か……」と、心の中で呟きながら画面を閉じた。


翌日、和也は友人とカフェで勉強していた。すると、スマホの画面に「カフェでリラックスしながら勉強できるアイテム特集」という広告が表示された。場所が特定されているように感じて少しゾッとしたが、「Wi-Fiを使っているからだろう」と自分を納得させた。


しかし、その日を境に広告はさらに具体的になっていった。スマホを開くたびに「今日の授業で発表が不安なあなたに最適な話し方講座」や「今夜はコンビニ弁当よりもこの店のランチがおすすめ」など、和也の行動や気持ちを読んでいるような内容ばかりになった。


「なんだこれ……」


不気味に思った和也は、スマホのプライバシー設定を見直し、広告追跡機能をオフにした。しかし、その直後から広告の内容はさらに異様になった。


ある晩、部屋で課題に集中していると、YouTubeで流れる広告が「一人暮らしの孤独を埋めるインテリア特集」と表示された。その後も、「帰り道が怖いあなたに防犯グッズを」といった広告が立て続けに現れた。


「帰り道が怖い……?どうしてそんなことを……」


その瞬間、和也のスマホ画面が真っ暗になり、次に映し出されたのは部屋の中の映像だった。しかもそれは、彼が座っている椅子の後ろを映している。


「何だこれ……!?誰かいるのか!?」


恐る恐る振り返ったが、背後には誰もいない。スマホを握りしめた和也は、画面の録画アプリを確認したが、そのようなアプリは入れていなかった。にもかかわらず、広告はこう続けた。


「振り返っても無駄だよ、和也くん。広告はあなたの“内面”をもっと知りたがっている。」


恐怖で手が震え、スマホを放り出そうとしたその瞬間、画面に「最後の広告」と書かれた文字が映る。そして、その下には和也の顔写真が表示されていた。その顔は血の気が引き、目はどこか虚ろだ。


翌日、和也は友人たちに昨夜の出来事を話した。しかし誰も信じてくれない。それどころか、和也のスマホには広告が一切表示されなくなっていた。不思議に思い調べたところ、広告配信元の会社が「存在しない」ことが判明した。


「じゃあ、あの広告は一体……」


和也は自分のスマホを調べるのをやめ、電源を切ることにした。しかし、鏡に映った彼の顔は、広告で見た顔とそっくりだった。


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