第15話 御神木

「僕たちも見回りに行くか」僕はミラとサラを見やる。

「はいです」「ですー」元気な返事をする二人。

「あ、アタシも行きますよ」エレナも勢いよく手を挙げる。

「わ、わたしも」とアリス。

「それじゃ、案内役をしようか」とイルダ。

「それなら、みんなで行こうか」

 僕たちは、一緒に見回りに向かうことにした。

 美少女たちと一緒に散歩、いや見回りに向かうとは。両手に花である。

 まあ、実際に手を繋いでいるのは、ミラとサラの二人なのだけれど。


 散歩気分で見回りに行く。長閑な木漏れ日、小鳥のさえずり。

 この森の外では、魔王軍とかが跋扈しているとはにわかには信じがたい。

「魔王軍は、この森で何をするつもりなのだろう」

「御神木に蓄えられたマナを回収んじゃないかな?」とイルダ。

「御神木にマナ?」確か長老がそんなことを言っていたっけ。

「村の北にそびえ立つ大樹、それが御神木。その大樹には莫大な量のマナが蓄えられているのさ」


 マナは魔力の元だ。魔道具にも使われる。

 自分の魔力を使わなくても魔道具が使えてとても便利なんだ。

「へえ、どれ位有るんだろう?」

「そうだね」小首を傾げるイルダ。

「アタシたちが住むレムの街。あの街の住人全員の魔力所持量。

それが、束になっても敵わない量を蓄えてあると言われているよ」


「それほどまでに。魔王軍は一体何に使うんだろう? 

 やっぱり魔道具の為かな?」

「そうだろうね。それに魔族ならば、アタシたちが見当もつかない使い道があるのかも知れないね」

「……そうか。何ごとも無ければいいのだけれど」

 血生臭いことはご免だ。痛いのも痛いことをするのは嫌なのだ。



 そうこうしているうちに、大きな樹が見えてきた。

「あれが御神木か」左隣のアリスに訊く。彼女は静かに頷いてみせた。

 間近に寄ると、更に大きさを感じる。

以前写真で見た、屋久杉と同じくらい。いや、それ以上の大きさだ。

「壮観だなあ」僕はボソリと呟くと、エレナも同じように頷く。

「ええ、流石は御神木ですね」


 御神木は村の北側にそびえ立っている。

 この大樹を崇めるためにこの村は出来たのだろうか。凄く神聖なチカラを感じる。 

 僕はスッと目を細める。と、幹の辺りに透明な子供が見えた。

「あ」

 僕は声をかけようとするが、子供ははにかむような会釈をして、姿を消した。


「何か見えましたか?」とアリス。

「子供が見えたような気がしたんだ。透き通っていて……。

 幽霊には見えなかったな」

 邪悪な雰囲気ではなかった。むしろ爽やかな気配を感じたのだ。

「まあ。恐らくこの御神木に宿る精霊様ではないでしょうか」

「精霊か」

「マナを集めて、この森全体に祝福を与える存在です。リョウタ様は幸運ですね」

「へえ」

 相当な樹齢の大樹だ。苔むした幹は大人が何人いれば回れるのだろう。

 青々と生い茂る葉。そして光る花。

 花びらは宝石のように輝いている。

「これは?」

「マナの花ですね」とアリス。

 なるほど、花は確かに凄い力を秘めているようだ。僕でも魔力が膨大だとみて分かるのだから。


「どれ位のマナが蓄えられているのかな?」

「レムの街の住人全てと同等だと聞いています」

「じゃあ、教会でも守ってくれないのかい?」

「御神木の結界を張ったのが、街の司祭様です。容易く破れるような結界では無いとのことですが……」

「魔族の強い連中が相手では厳しいと?」

「はい」アリスは険しい顔をする。

「ただの噂話だと良いのに」


「それにしても、綺麗な花だね」

 神々しい輝きを放つ透き通った花。匠が作ったような彫刻を思わせる。

「そうですね」ウットリ顔のエレナ。

「この御神木の下で、コンサートを開こうか」

「素敵ですね」

「ああ」

 ホビットたちと親睦を深めるために、予め楽器は用意している。

 ピアノは無理だからアコーディオンとタンバリンだけだけれど、エレナの歌声ならば、十分に彼らを魅了出来ると思う。


「そうと決まれば、森の安全を確認しないとな」

 僕はイルダを見やる。

「そうだね。楽しいコンサートを開くには、必要だよ」

 イルダも強く頷いた。村の北側の安全は確認出来た。

「マーティたちと合流して、情報のすり合わせをしないとな」

「彼らの居場所は……」

 イルダは懐中時計を取り出した。ガラス面が変わり、点灯する光。

「マーティたちは……。おっと……」

 イルダは魔道具を取り出して、マーティと連絡を取る。

 簡易なスマホ、トランシーバーみたいなものだ。

 この世界の文明は魔道具のお陰で、中世然としているが見かけ以上に発展していて意外と侮れないのだ。

「今、東側だね」

「分かった」

僕たちは、マーティたちが居る東側へと向かった。


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