第12話
エンデンの町が襲われてから二週間以上が経った。
キャスニーとフィンは住人の
事後処理を行い分かったことが二つあった。
一つは、ボウに連れられて魔法国家ベルの首都クラウソラスに避難した住民は無事だったということ。これはクラウソラスから冒険者たちがエンデンに訪れたことですぐに判明した。
避難民たちはクラウソラスに着くとすぐに、国に報告する人と冒険者ギルドに依頼を出す人に分かれた。
そして依頼を受けた冒険者がエンデンにやってきたというわけだ。
正規の軍も動いているようなのだが、いかんせん手続きに時間を要しており、しばらくここへは来ないだろうというのが大方の予想だ。
二つに、アマンダが守っていた人たちの行方だ。
どうやらアマンダだけではどうにもならなかったようで、ダニエルたちの残骸が町を出る寸前で転がっていた。
アマンダが守れなかったのか、もしくは他に優先して守りたい人がいたのかは分からない。
キャスニーはアマンダの性格上アタリはついているが、あえて口にすることはない。
「そろそろ終わるね、フィン」
「ああ、そうだな」
事後処理期間にこの二人の関係も変化した。
師匠と弟子。
この関係の変化はキャスニーが望んだものであった。
なぜなら、フィンはガナージーノを文字通り倒したあと、耐え難い激痛が全身を襲い四日も昏倒してしまったのだ。
ようやく目が覚めたフィンに話を聞くと、剣を握った時に体が自然とあの超然とした動きをしていたのだという。
キャスは、あの剣、レーヴァテインには戦闘経験が蓄積されており、使用者がどんな人であれ、剣を握れば一騎当千の活躍ができるという仮説を立てた。
代わりに所有者の限界以上の力を引き出すと、その差の分だけ当人が激痛に襲われるのではないかと。
その対策として、通常の修行を重ね基礎力を上げていく方法を提案し、フィンがそれを受け入れた、というのがことの経緯だった。
フィンは最後に残していた二つの土饅頭を丁寧に丁寧に形作っている。
ある程度完成するとそこには綺麗な花を添えた。
その花はフィンが水汲み場として使っていた林に群生しているもので、珍しいものではない。
ある地方では、その花を感謝の意を込めて贈る習慣があるらしい。
「キミがそれだけ思ってくれるなんて、ヘルマンとアマンダはよほどできた人物になったようだね」
「……今更だけどよ、師匠は町長とおばさんとどんな関係だったんだ? 見る限り町長たちの方が年上だけど、親しくしてたってことは師匠も実はかなり……?」
「……アタシがそんな年上に見える?」
「いや……そういうわけじゃねーけど」
「はぁ……。まぁすぐに分かることだからいいかな。あの二人はアタシの部下だったんだよね」
「部下?」
「そう。アタシたちは自由解放組織
「あーだから町長は俺にあんな話をしたのか……。確か、四民平等を実現するのが目標なんだよな?」
「アタシたちの一番大事な行動原理がそれだね」
「じゃあ、仮にその目標が実現したらアンタらはどうすんだよ?」
「……キミは嫌なことを考える子どもだね」
現在の体制を変える。
変えるということは、変化を進める中心となる人々がいるということだ。
では変化が成った後、それは今の状況と何が違う?
支配する側が入れ替わるだけじゃないのか?
「正直、アタシにはそこまでのことはわからないかな……。だけど、目の前に困っている人がいる。それを放っておけないんだよね……」
「……なるほどな。師匠もとびきりのお人好しってわけか」
「まったく……」
キャスはため息をつくとフィンの頭をグシャグシャする。
「まずはキミは自分が強くなることを考えなよ」
「言われなくてもな」
そうこうすると陽が落ち夜が更けていく。
「なぁ、キャス」
「なんだい?」
「……もうここでできることはねーよな?」
「そうだね、むしろこれ以上いると正規軍が到着して、探られたくない腹を探られちゃうね」
どうやって生き残ったのか?
その辺りを聞かれると、
「だよな。−−提案なんだけどよ、ボレアスに行ってみねーか?」
「ボレアスに?」
「ああ、キャスがこの町に来る前にボレアスから落ち延びてきた貴族みたいな奴がいたんだ。そいつはボレアスを襲った魔物がエンデンに押し寄せてくるって警告をしてくれていたんだよな。……もしあの狂人の目的がこの剣だったなら、なんで最初にボレアスを襲ったんだ?」
ガナージーノはユリウスを従属させたことでレーヴァテインの場所を知っていた。
それならば最初からエンデンを襲えば良かったはず。
ストランド卿の援軍を恐れた?
いやしかし、あの老人に『恐れ』なんて感情はあるのだろうか。
「なるほど……。行ってみる価値はあるかもね」
少なくとも考えなしで目的を決めるよりも何倍もいいだろう。
こうして二人はボレアスに行くことを決めた。
ナインテイルズ 鈴木満 @cat-warmer
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