詩の部屋 12


  ○ 34


最後に残ったレタスがうっとりとした目で

私の顔をずっと見ている

恥ずかしくなって器に残ったドレッシングを

その顔へとかけるともっと美しくなって

更になまめかしく私を見る

ここにいるものは皆、自己主張が強い

そう思いながら急いでレタスを口に運ぶ


  ○ 35


詩の部屋にあるソファに座ると

言葉が何も浮かんでこない

陽が傾いてきてカラスが何羽も

鳴きながら家の上を飛んでいく

古い場面やもう会えない人の顔が見えても

それを語るにはあまりにぼやけていて

私は足元に散らばった言葉を何となく見ている


  ○ 36


詩の部屋のキッチンにある冷蔵庫を開く

中にビニールと紙に包まれた肉の塊

取り出して何枚か薄く切るたびに違う景色が浮かぶ

花の散るところ、雨が降っている川、

そして、雪の積もっている町

肉を焼くとき風景に合わせて

一枚ずつ異なる味付けにする

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