30、更新される約束3

 深いまどろみから目をます。気付けば、僕は栞に膝枕ひざまくらされたまま横になって寝ていた。ご丁寧に、頭をでられている。って、うん?

 え?んん?えっと、ええ?

 どうして、なんで僕は栞に膝枕ひざまくらされているんだ?いや、栞に膝枕ひざまくらされるのはいろいろと気持ちがいけどさ。じゃなくて‼

 思わず勢いよくき上がる。栞を相手に、何か妙なことでもしでかしていないだろうな?例えば、寝ぼけて妙なことを口走くちばしったりとか。

 流石に、こんな状況下でずかしいことを聞かれていたらいやだ。

 絶対に、断固としていやだ。

「えっと、あの。栞……?」

晴斗はるくん。さっきの電話、お父さんからだよね?」

「え?あ……」

 そうだ、さっき電話で御門みかど輪廻りんねと話したんだった。そして、その電話の最中にどうしてか変な眠気ねむけおそわれて。そして……

 僕は、あの時どうしてねむくなったんだ?思わず、首をかしげてしまう。今考えても明らかにおかしいだろう。あの、不自然なタイミングで眠気ねむけを感じたのは。

 けど、どうやらそれどころではないらしい。あわてて栞の方を見てみると、どうやら栞は泣いていたらしい。目にはなみだを流したあとがくっきりと浮かんでいた。どうやら僕を膝枕しながら、ずっと栞はいていたようだ。

晴斗はるくん、おこっていた。知らなかった。あんなに激しく怒っている晴斗はるくんの姿なんて、私はらなかったから……」

「えっと、あの……」

「ごめんなさい、私。晴斗はるくんの気持ちをかんがえているようで、ずっと晴斗はるくんの気持ちをないがしろにして。ごめんなさい……」

 そう言って、栞はまたなみだをぽろぽろとながし始めた。どうやら、栞なりにかなり堪えているらしい。もう、栞自身にもどうすればいのか分からないようだ。

 そんな栞を見て、僕はそっと息をいた。

「良いよ、べつに。それに、僕は栞にいて欲しかったわけじゃない。本当はまた栞と会いたかっただけなんだ。また栞と会って、一緒いっしょに居たかっただけだ」

晴斗はるくん……」

「ごめん、栞にばかり背負せおわせて。今度こんどから、僕も背負うから。栞が今まで背負ってきたものを、今度は僕も一緒いっしょに背負うから。だから、どうかこれからも僕とずっと一緒に居てください」

晴斗はるくん……。うん、私も晴斗はるくんと一緒に居たいよ。ずっとずっと、晴斗はるくんと一緒にたいよ」

 見詰みつめ合う、僕と栞。視線がまじわりあい、そのまま顔の距離が徐々に徐々にと近づいていき。そして……

 そのまま、僕と栞の距離きょりがゼロになりかけた。その時だった。

「おうおう、随分ずいぶんとまああついじゃねえか。俺たちの存在なんて、まあ気付いていないんだろうけどな」

「全く、そういうところが無粋ぶすいなのよ。ちょっとはだまっていなさいよ」

 僕たちのすぐそばで、きなれた声が聞こえてきた。どうやら、他にも人が居たらしいと今更ながら知った。というか、たんだ2人とも。

 思わず、だまり込んでしまう僕と栞。うん、やはりってはいたけど。こういう状況ってなんか、うん。思ったよりかなりずかしいな。

 ほおが、熱くなってゆくのが理解出来る。

「……………………」

「……………………」

 そんな僕たちなんて、文字通もじどおりおかまいなしとばかりに言い争う2人。その2人とはまあ、うん。言うまでもないだろうけどな。こんな状況下じょうきょうかで、おかまいなしに喧嘩をはじめるような2人組なんて。

 そう、桜木さくらぎじん霧崎きりさきはなの2人だった。2人は、僕と栞なんてそれこそお構いなしに喧嘩けんかを始めている。本当に、よく喧嘩をするな。

「何を?無粋ぶすいだって分かっていて、それでもじっとい入るように見ている方がよっぽど無粋だろ?」

「な、なによ。私の方が無粋だって言いたいの?」

ちがうのかよ⁉いや、むしろ違うと言いたいのかよ‼」

 ああ、もう。本当に2人はったらすぐに喧嘩けんかをするんだから。

「ああもう、2人とも喧嘩をしないで!そりゃ、僕たちも2人がるって気付かずにあんな空気くうきを作ってしまったのはわるかったけどさ。それでも、いちいち会うたびに喧嘩をするのはやめてよね!」

「「ごめんなさい」」

 異口同音いくどうおんあやまる2人。

 本当ほんとうに、もう。仲が悪いのか良いのか、全くからない2人だ。まあ、実際は仲が良いんだろうけどね。実際は良い喧嘩けんか友達ともだちというのが本当のところだろう。

 だろうけど、それでもだ。それでもだよ?

 けど、それにしたって時と場所はかんがえて欲しいと思う。まあ、2人が居ることに全く気付いていなかった僕もわるかったと言えるだろうけど。

 流石さすがに、少しばかりずかしくなってくる。いや、実際のところはかなり恥ずかしいんだけどさ。

 やっぱり、あんな場面ばめんを見られていたなんて。かなり恥ずかしいに決まってはいるかと、そう変な納得なっとくをする。まさか、こんなところでこんな変な納得をする羽目はめになるとは僕もおもっていなかった。

 いや、うん。かってはいるよ?僕よりも、栞のほうがずっと恥ずかしい思いをしているってことくらいは。うん、さっきからずっと、栞はうつむいてあうあうと変なうめき声をあげている。

 まあ、仕方しかたがないけどな。仕方しかたがないけどさ。

 でもさ、流石にこの状況で僕たちを放置ほうちして喧嘩けんかするのは止めて欲しい。流石に僕だってどうかとは思うよ?それは。

「で、なんで2人が此処ここに?」

「おう、そうだ。晴斗はるが初恋の女と喧嘩けんかをするって聞いてな。こりゃいけねえって思ってすっ飛んで来てよ。でも、どうやら仲直なかなおりをしたようで良かったよ」

「そうよ、2人とも仲直なかなおり出来て本当に良かったよ。晴斗はるくんには幸せになって欲しいとおもっていたんだから。初恋の人と喧嘩なんて、どうしても納得できなかったところだったのよ」

 え、ええ?

 それで、こんな場所ばしょにまですっ飛んで来たのか?気持きもちは大いに理解出来るけど流石に放っておいて欲しい。というか、人の恋路こいじにまで首を突っ込まないで欲しいと僕は思う。大いに思う。

「うん、まあ。2人の気持ちはかなりうれしいけどさ。でも、正直人の恋路こいじに首を突っ込むのは止めて欲しい、かな?いや、たのむから」

「はは、まあ良いじゃねえか!別にるものじゃねえだろ?」

「いや、るかどうかは置いておいてさ。僕自身がこまるんだよ」

「そうよ!デリカシーがいんじゃないの?このヤクザが!」

「なにおう?お前が人のことを言えた義理ぎりかよ!お前だって、この一件いっけんに関しては同罪だろうが!」

「なによ!この馬鹿ヤクザ!」

「何だよ!この馬鹿女!」

 はあ、もう……

 本当に、2人はよく喧嘩をするな。そう、僕は思わず天をあおぎたくなった。

 見ると、栞もぽかんとほうけたような表情で2人を見ている。うん、まあ栞が泣き止んだなら別にもう良いかな。

 すくなくとも、いているよりはずっと良いだろう。いや、ずっとマシだな。少なくとも泣き顔よりかは格段かくだんにマシだ。

 そう、僕は思いなおすことにした。まあ、要するにだ。

 もう、どにでもなれと。そういうことにしておこう。

 そっと、栞の手をぎゅっとにぎりしめる。それに気付いた栞が、僕の方を不思議ふしぎそうな目で見た。そんな彼女に、僕は満面のみを向ける。

 そして、栞にだけ聞こえるように小さな声で僕は言った。

大好だいすきだよ、栞。ずっとずっと、栞だけをあいしてる」

 はっと、目を大きく見開みひらいて栞は息をんだ。

 そして、そのままきそうになるのをこらえて。彼女も満面の笑みで、僕にだけ聞こえるように小さく返事へんじを返した。

「私も、大好だいすきだよ。ずっとずっと、晴斗はるくんだけをあいしてる」

 れた笑顔を向け合う僕たち。うん、すこし恥ずかしい。いや、実際はかなり恥ずかしいと思う。

 そうして、2人そろって喧嘩けんかをする仁兄さんと花姉さんをめてから、みんなの許へと帰ることにした。

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