31、更新される約束4

 そうして、僕は昴さんに電話でんわを掛ける。どうやら、いまはみんなで高橋家に集まって僕たちを待っているらしい。もう、いろいろと準備じゅんびは出来ているとのこと。

 準備じゅんびって、なんの?そうは思うけど、うまくはぐらかされた。

 はぐらかされた件に関しては、納得なっとくしかねるけど。それでも僕たちのことを深く信頼してっていてくれたことに関しては、やはり安心あんしんした。

 結局けっきょく、そのまま僕と栞。そして仁兄さんと花姉さんは高橋家に向かうことになったのだった。みんなそろって、高橋家にまでもどる。

 何故なぜか、仁兄さんと花姉さんがわらいを必死にこらえているのが気になったけど。

 まあ、それはべつに良いか。

 僕たちは高橋家に帰る。その道中どうちゅうでのこと。仁兄さんがいきなり僕と肩をむように力強く引き寄せる。何だ何だ?そう思った瞬間しゅんかん、仁兄さんはにかっと満面の笑みを浮かべて僕の耳元に口をせていてきた。

「なあ、晴斗はるが栞ちゃん?と出会ったれ初めを聞きたいんだがよ。ほら、俺ってその手の話をいてなかったじゃないか?」

 耳元に口をせる必要ってあったのか?そう、思わず思ってしまうほどに大きい声で聞いてきた。そばいていた栞が、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 そんな栞を見て、今度は花姉さんが顔を真っ赤にして憤慨ふんがいした。同じ顔を真っ赤にしたと言っても、やはりこうも印象いんしょうちがうものなのか。そう、思わず僕は視線をらしながら思った。

「もう、だから無粋ぶすいだって言ってるでしょ!これだから馬鹿ばかヤクザは!」

いじゃねえか。お前だってになってはいるだろ?2人のれ初めは」

「うっ、でも……」

「ほれほれ、自分に素直すなおになっちまえよ。お前だってりたいんだろ?聞きたいと思っているんだろ?素直にゲロっちまえよ」

「う、うぅ……」

「ほら、素直にゲロっちまえよ。お前の本心ほんしん此処ここ解放かいほうしてゲロっちまえ。本当はもうかっているんだろ?お前自身の本心なんてよお!」

「いや、実はなかが良いだろ2人とも」

 本当ほんとうに、もう。こんな時だけいきぴったりでさ。どうなっているんだよ、この2人の関係性は。

 そうは思うものの、もうすでに僕から話を雰囲気ふんいきになっている2人。僕は深く深くため息をいてしまう。

 ちらりと、栞の方をた。この話をするのに、栞の意見いけんもきちんと聞いておく必要があるからだ。流石に、栞の許可きょかが無いとこの話をするわけにもいかない。

 そう思って見てみたのだけど。どうやら栞もかまわないらしい。顔を真っ赤にしながらも僕の意図いとんでくれて小さくうなずいた。

「良いよ、別に。晴斗はるくんがこの2人を信頼しんらいしているなら。私もこの2人を信頼することにするよ」

「ああ、栞がそう言うなら。でも、もしいやなら素直に言ってくれても」

いって言ってるでしょ?この2人を信頼しんらいしているんじゃないの。晴斗はるくんが信頼している2人を信頼するの。この言葉の意味いみを考えて」

「あ、ああ……」

 栞の許可がりたのは別に良い。でも、そんな僕たちのことをそばで見ながらこそこそと話している2人が。仁兄さんと花姉さんがいや目立めだっている。

いた聞いた?聞きましたか?晴斗はるが信頼している2人を信頼するってよ」

「聞いたわよ。晴斗はるくん、随分ずいぶんと深く信頼しんらいされているわね。むふふ」

「……………………」

 やっぱり、本当はなかが良いだろ?2人とも。

 ああ、話が全くすすまない。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そうして、しばらく帰路きろにつく道中。栞とのれ初めを仁兄さんと花姉さん相手に話した。ところどころ、僕のらない部分を栞が補足ほそくしてくれたけど。それでもおおむねは僕のっている感じだった。

 病院びょういんで目をましたあの日の昼、深く傷心しょうしんしていた僕が近所の児童公園で栞と出会であったこと。そんな僕を深く心配しんぱいしてくれた栞が、僕をなぐさめてくれたこと。栞に救われた僕が、栞と次の日もあそぶ約束をしたこと。

 きっと、あの日から僕は栞のことをきになっていたのだろうこと。

 僕がらなかったのは、しおり視点してんの話だった。どうやら、栞はあの時僕のことを放っておいたら何処どこかに勝手かってに飛んでいってしまいそうな風に見えたらしい。どこかに勝手に飛んでいって、勝手にえていく。そんなあやうさを感じたのだとか。

 だから、栞はあの日僕にはなしかけたのだとか。話し掛けなければいけないような気がしたから。だからこそ、僕に話しかけたのだと。あの日、栞は栞で必死に僕に話しかけていたようだ。

 結果けっかとして、それが成功以上に大成功だいせいこうだったようだけど。

 あの日、栞が僕に話し掛けたからこそ僕はすくわれたし。そして、僕は栞に対して恋心をいだいたのだろう。

 そして、僕とわかれたその日の夜。栞は父の書斎しょさいで隠し部屋の扉を見つけたんだとそう言った。その扉は、地下室ちかしつつながっており。そのまま栞は好奇心にけて入っていったんだとか。

 そこで見たのが、父が密かに研究けんきゅうしていた資料しりょうと。一緒に机にあった。血の付着した僕の父親の研究資料。

 それを見て、栞はふかく傷ついたのだという。今までしんじていた父親に、裏切うらぎられたような気分になったのだと。そうった。

 まあ、確かにそう思うのも無理むりはないだろう。事実、次の日に僕が見た栞はどこか別人のような。消沈しょうちんした気配を漂わせていたから。

 そして、そこからあの日の話につながるのだろう。深く傷つき消沈しょうちんした栞を、今度は僕が慰めて。そして、その言葉で栞は再起さいきしたのだろう。

 そして、栞曰くあの日僕からなぐさめられたことで栞自身も僕を深く意識いしきするようになったのだと言っていた。その正体が、恋心こいごころだと知ったのはもっと後らしいけど。

 ただ、その後栞は帰宅きたくした後に父を殺害さつがいしたのだろう。いや、事実としては死んでいなかったようだけど。それでも、栞の父はきていた。

 やはり、そこは僕も栞もらないなにかがあったのだろう。そう思う。

 ……そして、僕と栞の話を聞いた後。仁兄さんと花姉さんの反応はんのうだが。

「イイハナシダナー」

「ソウネ、トッテモイイハナシダワ」

「2人とも、何で片言かたことなんだ?」

 2人は目から滂沱ぼうだなみだを流しながら、片言かたことでうなずいていた。いや、本当になんで片言かたことなんだよ?

 2人とも、まるで僕たちの真の理解者りかいしゃのような表情ひょうじょうで腕を組みながら深々と頷くのはやめろよ。いや、本当にめてくださいお願いします。

 全く、もう。どうしてこうも、2人はへんなところでばかり息ぴったりなんだとそう思わずなげいてしまう。

「でもよ、晴斗はる。本当に良い話だと俺は思うぜ?あの日、晴斗はるがどれほど悩んでいたのかは俺たちだって理解りかいしている。だから、そんな晴斗はるが心から救われてくれて俺たちは心からうれしかったんだよ。本当によ」

「そうよ、晴斗はるくんがあの日どこかちがっていたのは、私たちだって知っていた話だったから。あの日の晴斗はるくんは、いつもの心優こころやさしくて笑顔にあふれていた顔とは違っていたから。私たち、ずっと不安ふあんだったんだからね?」

「まあ、2人に心配しんぱいを掛けていたことはあやまるよ。ごめんなさい」

 深々ふかぶかと、僕は仁兄さんと花姉さんに頭をげる。そんな僕に、やはりにかっと仁兄さんは満面のみを向けた。

「良いよ、べつに。俺たちが気にするような話じゃねえしな。むしろ、俺たちが心配していたのは晴斗おまえのことだし」

「僕の、こと?」

「ああ、俺たちからすればお前は可愛かわいい弟分なんだよ。そんな弟分が、暗く沈んでいるようなら俺たちはなんとかしたいと思うのが当然とうぜんだろ?ま、確かにお前の兄を助けられなかった後悔こうかいもあるっちゃあるがな」

「それは、」

「でも、それとこれとは話はべつだ。空にとって、お前が可愛い弟だったように俺たちにとってもお前は可愛い弟分なんだよ」

「……ありがとう」

 やはり、僕はそう深々ふかぶかと頭をげるだけだった。どこまでも、2人にはかなわないとそう感じた瞬間だ。

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