5,少女との再会3

 そして、昼休み。チャイムがり午前の授業がわった瞬間、いたたまれなくなったのだろう、しおりが教室からそそくさと出ていった。同時に、僕が木場さんを代表としたクラスメイトたちにかこまれた。

 げられないよう僕の周囲しゅういをずらりと取りかこみ、そのまま、質問攻めに入るクラスメイトたち。僕はそんなみんなの質問しつもんを受け流していき、受け流していったんだけども、結局しばらく逃げることもできずに十分くらいは時間をってしまった。ちくしょう。

 全員、きらきらとしたで僕を見ながら質問攻しつもんぜめをしてくる。本当に、どうしてこうなってしまったのだろうか?いやまあ、僕自身のせいだけど。僕のせいだけど、理解はできても納得なっとくだけはできなかった。

 くそっ、本当にしくじったな。

 どうしよう、これ。まあ、でもすべて僕の責任せきにんだしな。仕方しかたがないんだけど。僕のせいだと理解しているからこそ、責任からのがれることができないんだけど。

 ああもう、結局余計な時間を食ったな。

 そして、ようやくクラスからけ出すことに成功した。えっと、栞はいったいどこに行ったのだろうか?すこし、さがしてみよう。

 結果、そう時間もかからずに見つけることができた。できたのだけど……

「えっと、あの。こまります。私は……」

「いいじゃん少しくらい。ちょっとだけ、な。俺と一緒にあそぼうぜ?あ、俺の名前は芦屋あしや道徳どうとくって言うんだ。気軽に道徳どうとくって呼んでよ、よろしくね♪」

「えっと、本当に迷惑めいわくですので。あの……」

 うん、どう見てもナンパ野郎ですねわかります。しかも、かなり迷惑めいわくなタイプに見えるけど。人の話をかないタイプだ。栞は、かなりこまっているようだった。

 場所は比較的人通りの少ない通路。そのすみっこだった。栞はげられないよう、隅っこの壁ぎわにい込まれている。いわゆる、壁ドンという奴か。あれ、普通にこわいんじゃないかなと僕は思うけど。教師のたすけを呼んでいる暇なんてなさそうだ。それに、僕自身だって栞があんな風に無理やりせまられている姿を見てもやっとしないわけでもないし。

 なので、僕は栞のほうへあるいていった。

「あー、そこまでにしようか?えっと、道徳どうとくくんって言ったかな?」

「あ?なんだよお前。お前には関係かんけいないだろ?あっち行ってろよ」

「関係ないことはないさ。栞がこまっているだろ?彼女カノジョは僕にとって、とても大切な人でね」

晴斗はるくん……」

「へぇ?君、栞って名前なんだ。かわいいじゃん」

「「……………………」」

 また、ナンパを続行ぞっこうしてきた。どこまでも空気をまない彼の姿に、僕たちは深くため息をついた。もう、一種の病気びょうきなのかもしれない。しょうがない、少しばかり強めの荒療治あらりょうじをしようかな。そう思い、僕はポケットからスマートフォンをり出した。

 スマホの操作そうさをする僕に、道徳くんは怪訝けげんな表情をする。というか、栞もきょとんとした表情をして僕を見ている。

「お前、何をしているんだ?教師センコーでも呼ぼうってか?」

「いやいや、そんなことはしないぞ?知ってるか?道徳どうとくくん。この学術都市では、早退をするのも欠席をするのも許可の申請しんせいをするのに少しばかり面倒な手続きが必要なんだぞ?」

「いや、それくらいっているけど。つまり、何が言いたいんだよ」

「まあ、要するにだ。その手続きを手短にするために少し裏技うらわざを使っている」

「う、裏技うらわざあ⁉」

 どうやら、さすがの道徳くんもこの方法ほうほうについてはらなかったようだ。まあ、僕自身本当は使いたくない、正真正銘の裏技うらわざなんだけど。

 ちなみに、やっていることはただメールをばしているだけだ。ただ、相手はこの学術都市の理事長りじちょうだけど。

 わけあって、僕はこの学術都市の理事長としたしいのである。なんでかって?以前、理事長の愛娘まなむすめを不良グループからたすけたからだよ。確か、その時もナンパ被害だったっけかな?その後、退学処分になりそうだった不良のケアも一緒にしたことでその当人からも感謝かんしゃされていたのは内緒だけど。

 そして、しばらくスマホを操作そうさした後。早退の手続き申請しんせいをクリアした僕は、そのまま栞と道徳くんを引きれて高校を早退した。というか、まあ道徳くんに関しては無理やり引きっていったというほうが正しいけど。それは別に良いか、道徳どうとくくんだしな。

 ・・・ ・・・ ・・・

 人工島を出て、少し歩いた場所にある喫茶店きっさてん。そこで、僕たちは軽食を済ませているところだった。だ、道徳くんは憮然ぶぜんとした表情で僕を見ている。まあ、言いたいことは理解できる。彼自身からすれば、いきなり僕に拉致らちされた形になるだろうしな。

 でも、それでも僕はめないしあやまらない。正直、道徳くんに関しては少しばかり荒療治あらりょうじが必要になっただけだし。謝らないよ、絶対に。

「なあ、正直だけどよ、俺ここに居る意味いみがあるのか?というか、なんで俺はここにれてこられたんだ?」

「うん?まあ別に良いんじゃないか?今はとりあえず昼食でもべなよ」

 バンッ、とテーブルが力強くたたかれる。どうやら、僕の一言におこったようだ。

 その音に、おくに居る店員さんが一瞬だけ目をひからせた。まあ、苦笑を少しだけ向ける。すると、仕方しかたがないですねと、そういわんばかりに軽いため息をついて業務ぎょうむに戻っていった。

「ふざけるな!俺は、ただ学校がっこうにいたのにお前に引きれらてきたんだぞ!しかも早退扱いにされてだ!」

 道徳くんの言い分に、僕はわざとらしくため息をついた。いや、実際にわざとため息をついたんだけどさ。

 正直、ここまでひどいとは思っていなかったな。そう、心の中で愚痴ぐちを呟いた。まあとりあえず、ここははっきりと言っておこう。

 少し、強めの視線しせんを道徳くんにける。すると、少しだけ怖気おじけづいたかのように彼はわずかに引いた。けど、めないよ?

「あのな、道徳くん。きみの言いたいこともかるけどさ。それでも君だけが言えることじゃないだろそれ。栞だって、ただ学校に普通にかよっていただけだ。普通に通っていて、普通に勉学べんがくして、そして普通に昼食を食べようとしていただけだろ?それを君が、ナンパで全部台無しにしたんじゃないのか?」

「っ、け、けどよ……」

「けど、なんだ?栞だって、普通に勉強べんきょうするために学校にかよっていたはずだろ?少なくとも、君にナンパされるために学校にていたわけじゃないはずだ。ちがうか?」

「…………」

 ついに、だまり込んで何も言えなくなる道徳くん。何も言いかえせないのか、もごもごと何か言おうとしては唇をんでいる。

 しばらく待っても、やはり何も言い返してはこない。このまま黙っていても、もう何も返ってはこないだろう。そう判断はんだんし、僕は。

「はぁ、まあ良いや。昼食もとりあえず済ませたことだし、後は場所をえてゆっくり話そう」

「は、はぁ?」

安高やすたかさーん!」

 とりあえず、僕は店員をび出す。呼び出した店員は、がっしりと引きまった体にラフなシャツとジーンズ、エプロンを着込きこんでさわやかな笑顔をした30代くらいのお兄さんだった。名前は安高やすたか昭文あきふみ。当然、僕の知り合いだ。

「はい、何でしょうか?」

会計かいけいを。ああ、それから後でこの二人をれて親分おやぶんさんのところへ行くから。親分さんには連絡れんらくしてくれないかな?」

「はい、かしこまりました‼」

 そう言って、僕は店員さんを相手に会計かいけいませたのだった。占めて、2千5百円なり。うん、そこそこリーズナブルな値段ねだんになったな。まあ、仕方がないか。

 この店は、かなり良心的りょうしんてきな店なのである。

 それにしても、どうしてだろうか?何故なぜか、二人ともぽかんと口をけて呆然ぼうぜんとしているような気がする。

 まあ、当然僕のせいだろうけど。それも、当然謝らない。

 再び、僕は二人と一緒に店をた。当然、道徳くんを引きってだ。

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