あの日を境に⑥
圭地の発言に美空は目を見開いた。
「はぁッ!? それが本当なら尚更ここで暮らせないじゃん!!」
美空をスルーし圭地が言う。
「ちょっと付いてきてくれる?」
圭地の向かう先は百合だった。
「あの、すみません」
「はい? どうかしました?」
「今日が何月何日なのかお聞きしたいのですが」
「○月○日ですよ」
「すみません、ありがとうございます」
圭地のやり取りは先程の繰り返しで天汰も美空も頭にハテナを浮かべていた。 しかも今度は丁寧なやり取りだ。
「やっぱり記憶は一瞬でも目を離すと消えるようだね」
「まさかそれを試すためだけに・・・?」
―――本当に変わった奴だな。
「あれだけ印象を悪くさせたのにもうそのことすら憶えていなかった」
「ちょっと! アタシの友達で変なことを試さないでよ!」
「その友達はアンタのことを憶えていないようだったけど?」
「そ、それはッ・・・」
「だから問題ない。 でもこれはこれで面白いな」
「面白がっている場合じゃ!」
圭地と美空の言い争いに天汰が割って入る。
「まぁ、二人共落ち着け。 それよりもこれからのことを考えないと」
「・・・そうだな。 どこか泊まる場所を確保してもすぐに客として忘れ去られてしまうかもしれないし」
「一生友達ができない! ずっと一人ぼっち!! こんな世界アタシは耐えられない!!」
―――まぁ、女性一人は確かにキツいだろうな・・・。
しばらくすると圭地が考えてから言った。
「さっきは冗談で『神になった』とか言ったけど、もしかしたら僕たちは既に死んでいるのかもしれない」
「・・・ちょっと冗談言わないでよ! ほら、つねってみたら痛みだってあるよ!?」
「痛みなんてただの電気信号だし、夢だから痛みがないだなんて絶対とは言い切れないでしょ。 よくドラマや映画であるだろ? 不思議な現象が起きているオチって大抵が」
「あぁもう、それ以上は言わないで!! 希望を失いたくないの!」
「・・・」
圭地は再び考えるかのように黙り込んだ。
―――既に死んでいるって、もしそれが本当なら俺たちはどこで死んだんだ?
―――あのトンネルへ入る前か?
―――でもトンネルまでの道のりで特に大きな衝撃とか受けた憶えは・・・。
突然圭地が思い出したかのように言った。
「・・・あ、そう言えば僕やりたいことがあるんだった」
そう言ってフラッとこの場を離れようとする。
「お、おい待てって!!」
自由な行動に咄嗟に圭地の手首を掴んだ。
「どこへ行くんだよ!?」
「ちょっと野暮用を思い出した」
「野暮用? こんな時にか?」
「こんな時だからこそだよ。 放してくれる?」
「駄目だって! 今の状況がよく分かっていない以上勝手に行動するのは危険だ!」
「今が絶好のタイミングなんだ」
そんな二人の間に美空が割って入った。
「絶好のタイミングって何!? こんな状況なんて最悪なことしかないじゃない!!」
「僕の事情を何も知らないで好き勝手に物を言うな」
「好き勝手なのはどっちなのよ!? 全く協調性が本ッ当にないんだから!!」
その言葉は圭地に刺さったようだ。
「・・・協調性がなくて何が悪い? 周りの人と合わせることがそんなに大事? そうしたくてもな、どうしてもできない奴っているんだよ!!」
「ちょッ、何よそれ・・・! できなくても意思表示くらいはできるでしょ!?」
誰も人がいない場面でも見たことがある二人が言い合う光景。
「あぁもう、だから二人共落ち着けって!! 互いにまだよく分かっていない状態なんだから理解できなくても当然ッ・・・」
「今度は何!?」
そしてまたもや天汰が止めに入ったのを合図にしたかのように地震が起きた。
「きゃあぁぁッ!!」
「パニックになるな! 直に収まるのを待て!!」
この揺れを感じているのは天汰たちだけではないらしい。
「周りの人も反応している・・・。 ということは本物の地震?」
「・・・いや、本物じゃない」
周囲を見るとあの時と同じだった。 物は微動だにしていないのだ。 だがやはり自分自身は揺れを感じているとなると何だか気味が悪い。
「あの時と同じ地震っていうことは・・・!」
美空がハッとしたその時だった。
「え、はッ、またぁぁぁぁ!?」
あの時と同様天汰の真下で地割れが起きた。 そこに飲み込まれるのも同じで咄嗟に助けを求めるよう手を伸ばした。
―――でもこれって・・・。
また見捨てられるのが怖かった。 駄目元で助けを求める言葉を口にしようとした途端美空が手を差し伸べてくれた。
「天汰!!」
美空の後ろでは圭地が助けようか迷っている姿が見えた。 あの時は助ける素振りもなかった二人だったが、この三人の間で確かな友情が芽生えたのを感じた。
―――・・・でも結局結末は一緒なんだな。
美空が手を差し伸べてくれたが一瞬触れるだけで掴むことができず天汰はそのまま奈落の底へと引きずり込まれていった。
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