あの日を境に④
何か証拠があるわけではないが、自分の存在が消えてしまったかのような状況は地割れに飲み込まれたあの日に関係があると確信していた。 とはいえあまりにも脈絡がなさ過ぎて意味が分からない。
そもそも何故あの時都会のような場所へ行ってしまったのか。
「オカルトに巻き込まれているとか圭地は言っていたっけ・・・」
―――時系列がよく分からない。
―――今日はあの旅行から後日なのか?
―――それとも前?
スマートフォンで日にちを確認すると旅行日当日だった。 ただあの日だったとするならメッセージアプリのやり取りがもっと盛んに行われていたはず。
服装や髪形など顔を知らない間柄で時間と場所だけで集まるのは確実とは言えなかったためだ。
―――今日があの旅行日!?
―――圭地と美空から連絡が一切ない。
―――アイツらもきっと俺のことを忘れてんだろうな・・・。
途方に暮れ歩いていると美空を発見した。 大きな声を出しながら走り回っているためすぐに気付くことができた。
「美空ッ・・・」
思わず呼び止めそうになったが声が止まった。 どうも様子がおかしく美空は誰かに追われているようだった。
―――相手は男?
―――ストーカーか?
もう知らない間柄ではないため見逃すわけにはいかず天汰は美空を助けようとした。 だが一歩踏み出したところであの時の記憶が過る。
―――・・・地割れに巻き込まれて手を伸ばした時美空は俺を助けようとしなかった。
―――俺たちの関係はゼロからのスタートだったけどそうだとしても冷た過ぎないか?
葛藤していると美空の声が聞こえてきた。
「もうアンタしつこいよ!! アタシが悪かったって言ってんじゃん!!」
「それでも俺たちは付き合ってんだろ!?」
「だからそれは勘違いだって! アタシたちは初対面なのー!!」
―――・・・彼氏、なのか・・・?
会話がよく分からず呆然としていると美空が天汰に気付いた。
「あ、天汰!!」
その目線はハッキリと自分へ向いていて同姓同名の別人に呼び掛けているわけではなさそうだ。
「・・・え、俺のことが分かんの?」
「お願い、助けて!! この人を止めて!!」
助ける気はまだなかったが美空だけは自分のことを知っていた。 そのことに少しだけ救われ天汰は追っていた男との間に割って入った。
「ッ、誰だお前!」
「彼女が嫌がっているんで帰ってください。 これ以上追いかけ回すようなら警察を呼びます」
「俺はコイツの彼氏なんだぞ!?」
「だからそれは違うって言ってんじゃん!!」
“どういうこと?”といった目で美空を見つめるも目を合わすだけで何も言わないため深い事情があるのだと察した。
スマートフォンを取り出すと相手もたじろぎ、その後説得し何とか男を帰らせることができた。
「何があったんだ? そもそも俺のことが本当に分かるのか?」
「天汰こそアタシのことが分かるの・・・?」
「それどういう意味だ? でも俺の名前が合っている時点で本当なんだろうな」
気まずい空気が流れる。 地割れの時に助ける助けないの話は互いに頭にあるだろうが口にはしなかった。
「・・・さっきの人はアタシの彼氏なの」
「それは事実なのか?」
「そうよ」
「でもさっきあの男の人に『違う』って」
「彼氏はアタシのことを憶えていなかったのよ。 ・・・彼氏に限った話じゃないけど」
「・・・!」
「彼氏にアタシの記憶がないって言われたの。 それでも必死に思い出してもらうようアタシのことを話していたら急変した。
目の色を変えて『記憶になくても気に入った、一緒にいよう』って言われて怖くなって逃げていたんだ」
よく見ると美空の手首には激しく掴まれたような跡があった。
「えっと・・・」
ただ天汰はどう返したらいいのか分からなかった。
「あぁ、いいよ。 同情してくれなくて」
そう言って小さく笑う美空。
―――でも記憶がある時は美空の彼氏なのには変わりない。
―――だから変質者とかではないだろうな。
「それで? 天汰はどうなの?」
「・・・あぁ、俺も実は周りが俺のことを憶えていないんだ」
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