あの日を境に③




「いや、おかしい!! 絶対にここにはトンネルがあったはずだ!!」


天汰は慌てて車から降りトンネルがあった場所を触る。 だがそこは硬いコンクリートで埋め尽くされていて跡すら残っていなかった。


「今の一瞬で一体何が・・・。 こんなことって有り得るのか・・・?」


困惑していると二人も車から降りてきた。


「・・・オカルト現象に巻き込まれたのかもしれない」


圭地は言いながらどこか楽しそうに思えた。


「は・・・!? オカルトってそんな非現実的なこと・・・」

「それが今実際に起きている。 僕たちは異世界に迷い込んでしまったのかもしれない」

「異世界って・・・」


―――・・・俺が一人じゃなくてまだよかったと言うべきか。


「キャハッ! 誰もいない世界に閉じ込められちゃった感じ? それはそれで面白そうじゃん!!」


能天気な美空はそれを聞き楽しそうに笑った。 一人はこういう人もいていいのかもしれない。


「・・・とりあえずここにいても何も起きない。 下へ降りてみよう」


圭地の提案で三人は車に乗り込みこの街を見てみることにした。 やはりどこを通っても人の姿は見えない。 大通りですら信号は動いているのに車一台見当たらない。


「人がいないのに電気は通っているのか・・・?」


ビルに付いている大きな液晶テレビからは映像が流れている。 人の声はないがBGMもどこかから流れている。


「お店の中も電気がついているから明るいねー! ねぇ、もしかしてどこのお店もタダなのかな?」

「まぁ、店員がいないしな・・・」

「そろそろお腹が空いちゃったよぉ。 どこかでご飯にしない?」

「どこか、って言われてもレストランへ行っても人がいないから料理は出てこないぞ」

「じゃあ出来合いのものでも調達しよう」

「本当にいいのかなぁ・・・」


天汰は良心が痛んだが、結局空腹に負けてしまいショッピングモールへとやってきた。


「飲み物とか注ぎ放題じゃん! ラッキー」

「とりあえずいつ俺たちは帰れるのか分からない。 持っていける食糧や使えそうなものを手分けして探そう。 もし人が戻ってきたらその時にお金を払えばいいさ。 30分後にまたここで集合な」


そうして一度解散となった。


「店員さんはいない。 かといってタダで物をもらうのも気が引ける・・・。 お金をそのままレジへ置いておくわけにもいかないしなぁ」


心苦しくなりながらも背に腹は代えられないと調達。 もし圭地の言うように自分の知らない世界へと迷い込んでいたのだとしたら悠長なことも言っていられないかもしれないのだ。


―――ただ映画とかで逆に盗んだりしたら帰れなくなるパターンとかもあるよな・・・。


不安はあったが適当に食料や役に立ちそうなものを調達し一足先に待ち合わせ場所へと戻った。


「そう言えばガソリンも考えておかないとなー」


そのようなことを考えていると圭地が戻ってきた。 袋の中に何かが大量に入っている。


「凄い量だな。 何を買ってきたんだ?」

「これ」


袋を開けて見せてきた。 そこには数え切れない程のフィギュアが詰め込まれていた。


「って、食糧と全然関係ないじゃんッ!!」

「でも普段はこんなにも買えないから・・・」

「無限に買えるよりも限られたお金の中で得る方が幸せだと思うぞ?」

「ほしいものが得られるならその手段は気にしない」

「・・・」


話していると美空も戻ってきた。


「お待たせー! お菓子持ってきたよー」


そう言って見せてくるが明らかに袋が小さい。 もう片方の手には重そうな大きな袋を持っている。


「そっちの袋は?」

「あぁ、これ? コスメ」


言われてみれば美空のメイクが少し変わっているように見える。


「ちょっとメイクをし直してみたんだー! 普段買えない高級なものとか使ってさー。 ねぇ、どうかな?」

「どう、って言われても・・・。 だから戻りが遅かったのか」


先程の美空という程変化がない。


「でもねー、やっぱり何か物足りないんだよねー。 好きな服も買ってきたけどいまいち気分が上がらないっていうか。 見てくれる人がいないからかな?

 限られた中で着飾ったりするのが結局一番楽しいのかなー」


先程圭地としたような会話。 それを聞いた圭地が言った。


「コスメや服なんてそんな似たようなものたくさんいらない」

「いや、圭地が何を言ってんの? そんなこと言える立場じゃないよね? 食糧とか調達した?」

「アニメが出しているお菓子や麺類なら買った」

「麺類なんて買ってどうするのさ!」

「食糧の量で言うと美空とほとんど変わらないじゃないか!」


二人がヒートアップしていく。 それに天汰は割って入った。


「あぁ、分かった分かった! 今は争っている場合じゃないんだから落ち着けって!!」


止めに入った瞬間だった。 大きな音がすると同時に地面が激しく揺れる。


「何これ、地震!?」

「早く逃げないと」

「ちょ、ちょっと待て! むやみに行動したら危ないって!!」


周囲を冷静に見渡す。 そこで違和感に気付いた。


「・・・あれ? モノが何かおかしくないか?」


こんなにも揺れているというのに周囲の物は一切動いていない。 フードコートのテーブルや椅子は床にくっついたように動いていなかった。


「地震のようで本当の地震じゃない・・・?」


考えていると足元がふらつき床が真っ二つに割れ始める。


「は、嘘ッ、マジかよ!? うわああぁぁぁぁぁ!!」


天汰は地割れに巻き込まれ二人へ向かって手を伸ばした。


「お願いだ、助けてくれッ!!」


だが二人は落ちていく天汰を見下ろしているだけで手を差し伸べようとしなかった。


「おい、どうし・・・ッ」

「そうしたら僕たちも落ちちゃうし」

「そんなッ・・・!」


揺れは激しくなり力も尽きた天汰は地割れへと飲み込まれてしまった。



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