あの日を境に②




その日は入ったサークルで天汰が何度目かのイベントに参加した日。

そのサークルは特殊で代表以外のメンバーを一切知らされておらず、何人の人間がサークルに参加しているのかも知れないという謎の集まり。


「えーと、初めまして。 俺は天汰」

「はいはーい! アタシは美空(ミク)!」

「・・・僕は圭地(ケイチ)。 趣味は人間観察と人形観察」

「「・・・」」


あまりにもタイプが違う三人がレンタカー前に集まっている。 おそらく他のメンバーも各々時間も集合場所もバラバラで集まっているはずだ。


「・・・へ、へぇ、珍しい趣味だな。 えぇと、今日の行き先は美空さんが決めてくれたんだよね?」

「そう! ずっと前から行きたかったんだー! でもアタシは運転できないし交通手段がなくてさぁ。 この機会にと思って!」


圭地が運転席に、助手席には天汰が座り後ろには美空が座った。


「アタシがナビしてあげるからねー。 あとみんな呼び捨てにしない?」


スマートフォンを見ながら美空はルートを案内してくれる。 このメンバーで集まるのは初めてで会話どころか、直前までSNSアプリを通じて交流したことすらない。

当然顔合わせも初めてで美空は一目でギャルといった様相で化粧もバッチリ髪も金髪を巻いている。 細身に黒メインのスカートを着こなしていて丈もかなり短い。

圭地は見るからに陰キャといった具合でチェックの服にリュックを背負っていて逆にバッチリ決まっている。 とはいえ二人に悪感情は沸かず普段交流のない面子というところにテンションが上がっていた。

天汰は距離を縮めるために質問してみる。


「じゃあ早速。 美空はどうしてこのサークルに?」

「そりゃあもう映える写真を撮るためっしょー!」

「だったら美空のタイプ的に他のサークルに入った方がよかったんじゃない? このサークルは特殊だし」


この小旅行サークルの一番の目的は全く知らない者同士で旅をするというものだ。 互いを知らない状態で旅をしたらどうなるのかというのが面白く目的とされていた。


「確かに友達と行くのも楽しいんだけどー。 サークルくらい新鮮な気持ちを味わいたくなーい?」

「それは分かる」


サークルでの集まりは一切なく、活動場所すら決まっていない。 サークルのリーダーがくじで適当に小グループに分けてくれて旅行直前に知らされるというものだ。

同じサークルの者同士は旅行以外で交流してはいけないという決まりがあるがそもそも誰が所属しているのか分からないため交流なんてできなかった。


「じゃあ圭地はどうしてこのサークルに?」

「・・・同じことを誰かと共有してみたかったから」

「それは普通に友達とできることじゃ」

「普通? ・・・僕には友達がいないんだ」

「あー・・・」


地雷を踏んでしまった。


「な、なら俺と友達になろうぜ!」

「・・・旅行以外では仲よくしては駄目っていう決まりがあるから」

「あー、そっか・・・」

「気持ちはありがとう、受け取っておく」

「そういう天汰はどうしてこのサークルに?」


美空の質問に答えた。


「俺は人見知りがなくてさ。 親しくない人と一緒に行動を共にするのが意外と楽しくてハマっちゃって」


話していると長いトンネルが見えてきた。


「あ、あのトンネル! その先に目的地はあるみたいだよ!!」


ウキウキし出す美空。 だがそれを無視するかのように圭地がハンドルを切り突然コンビニへ寄った。


「え、何? トイレ?」

「ちょっとほしいものがあったから。 何か必要なものがあるなら買っておいた方がいいし、トイレも行っておいた方がいい」

「あー、そうね・・・」


そう言う美空の声は萎んでいた。 用を済ませ車の前で待っていると圭地はコンビニに売っている一番くじをラストワン賞まで買ってきたらしく大袋を抱えていた。 それを見た天汰と美空は固まる。


「・・・え、ほしいものってそれ?」

「そうだけど」

「いや、今買う必要はなかったよね!?」

「でも二人だって飲み物を買ったりトイレへ行ったりしたよね?」

「それは必要なことだから!」

「これは僕にとって必要なことだよ。 ならいいじゃん」

「・・・」


美空と圭地が気まずい雰囲気になりながらも運転を再開。 トンネルへ入る直前に並んでいる地蔵様を三つ発見しそれが妙に気になった。

何故気になったのか考えてみるがおそらくその表情が特殊だったためだ。


―――喜びの表情、怒りの表情、悲しみの表情・・・。

―――喜怒哀楽?

―――でも楽なんて・・・。


よく見れば4体目の地蔵も確かにあった。 ただそれは胴体だけで頭がなかったのだ。 そのようなことを考えているうちにゴリッと気持ち悪い感触がタイヤ越しに伝わった。


「うわ、何か轢いた・・・。 まさか人間じゃないよな」


圭地がハンドルを操作して路肩に止め確認する。


「なんだ、石ころか。 デカくて危ないな」


そう言って道路から蹴飛ばした。 天汰も生き物ではなかったことに安堵しそれ以上特に気に留めなかった。 車は改めて発車しトンネルへと向かう。 思えば先程から他の車を一台たりとも見ていない。

近くにコンビニがあったことを考えればそれなりに車の通行があってもいいとは思うのだが。 それはトンネルへ入ってからも同じで薄暗いトンネルを自分たち一台だけで走るのは少々不気味に感じた。

数十秒三人は黙り込む。


「・・・何かトンネル長くね?」

「この道で合っているんだよね?」


天汰と圭地の言葉に美空は忙しそうにスマートフォンを弄っている。


「合っているはずなんだけど・・・。 あれ、位置情報が動いてない・・・」

「トンネルだから電波が届いていないんじゃないか? あ、出口が見えてきた!!」


不安も光が見えると和らいだ。 トンネルを出ると一面に広がる都会の景色。


「何とか無事に出られた・・・」

「何、あの大きなタワー!! まるで東京へ来たみたい!!」


安堵する天汰にはしゃぐ美空。 だが本来三人は人里離れた大自然を求めて車を走らせていたはずなのだ。


「あー、もう! 写メも撮れないだなんてー!!」


それでも驚きの光景を前にし楽しそうにしながら未だにスマートフォンと格闘していた。 そこで天汰は安堵からある違和感に気付く。


「・・・何か静か過ぎやしないか?」


圭地は窓を開ける。 風の音が聞こえるばかりで確かに静かだ。


「・・・まだ道路だけだしそれは当たり前なんじゃない?」

「いや、そうじゃなくて」


一度車を止めてもらい三人は降りた。 上から都会を見下ろす。


「・・・やっぱり誰一人もいないよな」


大きな建物が多く確かに都会なのだが人が一人も見えない。


「本当にこの場所で合っているのか?」

「それがもうスマホが機能しなくて分からないんだよね・・・」

「・・・にしても不気味だ。 俺たちが目指していたのはこんな都会じゃないだろ?」

「映えスポット探して家で見ていた時は滝があったりしたんだけどー・・・」

「滝なんて影も形も見えないな。 いったんトンネルまで戻ろう。 そしてもう一度ナビを設定し直そう」


それに賛成し三人は車に乗り込んでUターンした。


「嘘だろ・・・!?」


だが来たはずのトンネルは何故かなくなっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る