第2話 これが修羅場というもの
その声を聞いて、俺はドキッとした。
上手く気配を消せていたつもりだったが、どうやら気づかれてしまったようだ。
このままだと、バレるのは時間の問題だろう。そう思った俺は潔く姿を現すことにした。
「……白雪さん」
「えっ!?西寺くん……」
「…………」俺は何も言うことができないでいた。
「…………」彼女も何も話すことはなかった。
そこから、俺たちは言葉を発することができず、しばらく沈黙が続いた。
そりゃそうだ、この状況で何か気の利いた事を言える人がいたら教えてほしいものである。
ただ、このままだとさすがに気まず過ぎるので、俺はどうにか言葉を絞り出す。
「あの、えーっと、今のって……」
「……やっぱり、見てたよね」
「……うん」
「……そっか……」
白雪さんは絶望に満ちた表情をしていた。
「だ、大丈夫だ!絶対誰にも言わないから!」
俺は、彼女を安心させようとそんなことを言った。
ちなみに当然だが、俺はこのことを誰かに言ってやろうなんて欠片も思っちゃいない。人の知られたくない事を他人に言いふらすほど腐った性格はしていない。
「本当?約束してくれる?」彼女は縋るように聞いてきた。
「ああ、もちろん!約束するよ」
「うん……信じるからね。絶対誰にも言わないでね」
「分かってるよ」
「……あのさ、急に話変わるんだけど、俺たちそろそろ下の名前で呼び合ってもいいんじゃないか」
「え、このタイミングでそんな話!?」
本当にそれはそうだ。あまりにも話題の切り替えが無理矢理すぎる。
「別にいいだろ。むしろ、気にしてない内に俺が忘れてしまう方がいいだろ」
「だからってそんなすぐに切り替えられるものなの!?」白雪さんはもっともすぎる疑問をぶつけてくる。
「ああ、ぶっちゃけこれぐらいのことなら、あんまり気にしない主義だからな」
「えぇ……西寺くんって、もしかして変な人?」
「ハハハ、かもしれない」俺は微笑しながら言った。
「俺の事は
「……怜一……くん」彼女は躊躇いながら俺の名前をよんだ。
「くん付けか……まあいいさ。それじゃあ、俺は
「それはいいけど……怜一くんって本当に変わってるね」
「かもしれねぇな」
そこからは当たり障りの無い会話をした後、俺は桃香と別れて帰路へと着くことにした。
図書室に向かうつもりだったが、いつの間にかそんな気は無くなっていた。
理由はもちろんさっきの出来事だ。
口では気にしていないと言ったが、本心を言えば、かなり気になっている。
いや……ここでいう気になっているというのは、普通の人が思うような意味ではないのかもしれないがな。
帰り道、俺は夕日に照らされた道を歩きながら思考していた……桃香の事について。
まず、明日以降、学校で顔を合わせたときどう接するべきか……と、そんなことを考えていた。
だがこれについては、すぐに考える必要もないという結論に至った。
経験上このタイプの悩みは、考えるだけ無駄だということを知っているからな。
まあ……適当にいつも通り接する、ぐらいに考えておけばいいだろう。
……俺が考えるべきなのは、もっと別の事だ。
そこから、俺はしばらくの間長考した。
――そして、俺はひとまずの結論を出す……。
……しばらくは、様子見といったところでいいか。
今ここで何かをするのは、所謂余計なお世話というものになってしまうだろうからな。
……何より、俺は既に一回痛い目に合ってるんだ。
そうだ怜一、少なくとも今は手を出すべきではない……と、俺は自身を戒めるように自分に言い聞かせた。
ただ、今言えるのは……俺と桃香は、似た者同士なのかもしれないということだけだ。
そんなことを考えながら歩くうちに、俺は家へと着いていた。
*
「よう、ただいま、母さん」出迎えてくれた母親に俺はそう言った。
「お帰り、怜一。あれ?今日はいつもより早いのね」
「ああ、早く帰りたい気分だったからな」
「別に、なんもねぇよ。それに、あっても多分話さないだろうからな」
親には頼りたくない年頃なんだよ。反抗期ってやつさ。
「本当に心配なことがあったら言ってよ」
「気持ちだけもらっとく」
多分、俺は本当に大変なことがあっても親に相談することはないんだろうなと思った。
母親と会話を交わした後、俺は自分の部屋へと向かった。
部屋に入った俺は、すぐさまカバンを置き制服を脱ぐと、布団の中に潜り込んだ。
そして、俺は布団の中で電子端末で動画投稿サイトを開いて見始める。
俺は、というか今の時代みんなそうなんだろうけど、曲を聞く時には動画で済ませてしまうことが多い。無料で便利だからな。
それにしても、この時間は素晴らしい。
疲れて帰ってきた後、何もせずに布団に潜ってダラダラする……おそらくこれほど贅沢な時間などこの世に存在しないのではないかと思えてくる。
ちなみに俺は今、有名な失恋ソングを聴いている。別れた恋人の忘れられない人に向けて作られたであろう歌だった。
曲を聴いているうちに、だんだんと眠気が俺を襲ってくる。
こういうとき、俺はいつも眠気に身を委ねることにしている。
夕暮れ時に長時間の昼寝を挟むことは健康的には良くないかもしれないが、そんなことがどうでもよくなってしまうくらい心地よいものだった。
――そして、俺の意識は眠りへと落ちていった。
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