つま先補修のパイオニア田島智樹
たたみや
第1話
俺の名前は
別にやりたくて始めたわけじゃないが、今となってはまあまあ満足している。
そんな俺は靴の補修に自信があるんだ。
特につま先が得意でね、そっくりそのまま元通りにすることも出来れば、時々大盤振る舞いしちまう時もある。
人はそれを『改造』と呼ぶらしいけどな。
おおっ、そうこうしているとお客さんだ。
まだ若い男性だな。
スーツに着られている印象を受ける。
ひょっとしたら就活生かもしれないな。
「いらっしゃいませー、いかがなさいましたか?」
「就活やってるんですけど、道で転んで靴を擦っちゃって……」
就活生が靴を見せてくれた。
つま先を中心に革の黒い部分が擦れてしまっている。
「なるほどなるほど。これならちょっと時間があれば直せるよ。うちでやってくかい?」
「いいんですか? ありがとうございます」
就活生が目を輝かせている。
照れるねえ、こういう初々しいのに弱いんだよなあ。
俺は就活生の靴を受け取り、早速革靴を直し始めた。
擦れたところを丁寧に補修していく。
だが、俺のサービスはこんなもんじゃない。
俺は丹精込めて直した革靴を就活生に見せた。
「お待たせ! これでどうだい?」
「何ですかこれ?」
就活生が驚いている。
余りにも就活生の彼の力になりたかったから、ついつい張り切ってしまった。
「君はガンダムSEE〇の劇場版を見ていないのか?」
「いやそういう問題じゃないです」
「インフィニットジャスティ〇弐式の脚部のビームブレイドかっこよかったろ?」
「いやそういう問題じゃないんですよ! こんなもの付けないで欲しいんですけど!」
俺の力説が通用していない。
彼は劇場に足を運んでいないということなのだろうか。
「何でだよー、かっこいいだろぉー!」
「こんなん身に着けてたら職質されますよ」
「インフィニットジャスティ〇弐式のコスプレですって言えばいいんだよー!」
「そもそも銃刀法違反になりませんか?」
就活生が靴についているブレードを気にしているようだ。
何がいけないというのだろうか。
こんなにもかっこいいのに。
「それに、警察の目をクリア出来たとして、この違和感引っさげてどうやって面接に向かえって言うんですか?」
「ジャスティス出る!」
「絶対ごまかせないですよ!」
せっかくかっこよくしたのに、就活生には不評だったようだ。
これ以上やってクレームになっちゃあ、商売あがったりだ。
俺は急いで革靴に取り付けたブレードを外した。
もし靴を直したい奴がいたら、俺のところに来てくれ!
いつでもカッコよく直してみせるから。
つま先補修のパイオニア田島智樹 たたみや @tatamiya77
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