第8話:眼前と目標
こんな日があってもいいじゃないか。
例外を作るのには最適な言葉だ。この言葉にどれだけ救われ、どれだけ惑わされたことだろう。全てを仕方ないというエンドに収束させてしまう心の弱さはいつからあるのだろう。希望を見ずに今だけを必死に生きる。別れたものは仕方がない。もう会えないのだから考える必要すらない。
友達がいない日があってもいいじゃないか。
「凄いなあ。ここに入らなきゃこんなもの絶対見れなかったよ。」
光など受け付けない。暗闇の中でも目が慣れたのか視界がはっきりしてきた頃だった。ちょうど上では見えるか見えないかの距離で鳥たちが遊び回っている。開けた視界などなくひたすら草を避けて進む。後ろからはライロックが少し息を切らしながらついてきている。前ではコンパスが懐中電灯を片手に臆すことを知らず進み続ける。
「この草だらけを見てすごいと感じたのは私だけじゃないみたいだね。ライロックはそうではないみたいだけど。」
「ああ、狭い場所は苦手なんだ。体力は十分のはずだが。」
「休めるところって言っても開けた場所がないとダメだね。こんなに暗くてはどんな場所でも安心して休めはできなさそうだけどね。」
「大森林には未知の生物とかもいっぱいいるんでしょ?」
「噂程度だけどね。本当にいるのなら捕獲してぜひ研究に使いたいところだね。」
「襲われたら軍施設にでも逃げ込めばいいしね。だから西の大森林を選んだんだから。」
「印はところどころにつけているから方角だけは安心しろ。」
軍施設を無事に抜けた後みんなで荷物の整理をした。その時にライロックがナイフを持っていたのでそれを使って木に印をつけていこうとなったのだ。後ろを見るとちょうどライロックが近場の木に大きめにバツ印をつけていた。
「それにしても暗いね。しゃべっていないと死にそうだよ。」
「そうかな?僕は楽しいよ。コンパスがそんなふうに言うなんて珍しいね。」
「仕方ないだろう。私はこれでも怖がりなんだよ。」
「えー?前は死ぬのも怖くないって言ってたのに。」
「死ぬのはいいけど生き地獄ほど苦しいものはないよ。あ、少し光が出てきたね。」
見ると木々の間から少しずつ光が漏れ出してきていた。最初は僕の髪の一本を照らすぐらいだったけど進むうちに僕の顔を覆うほどになっていた。
「あ!」
さっきまで暗闇に苦しめられていたコンパスからそんな声が聞こえた。視界を防ぐ草を押しのけてコンパスの後に続いた。そこは少し土地が低くなっていた。光が充分に照らされ地面が海のように輝き、草木はそれぞれ独立性を保ちなが海原を埋め尽くし、小動物たちが跳ね回っている、小さな町をつくれるほどの草原があった。
「すごいね。西の大森林は私の想像よりも素晴らしいところだね。」
「まさかこんなところがあったとは。綺麗だな。」
「うん!ここならたくさん休めるしいっぱい走れるね!」
トンカは傾斜を利用して急速に加速し、何にも導かれることなく不規則に動き回り草の上にダイブした。
「ここで休憩しようか。ライロックも大丈夫だよね?」
「大丈夫だ。しかし、まだ朝だったのか。」
「私たちは夜に出発したからね。あそこらへんにテントをたてよう。何がいるか分からないから1人は起きてよう。トンカは……寝ちゃってるかな?」
見るとトンカは草の上にうつ伏せになりお腹あたりを大きく動かしている。
「トンカはよくついてきたな。あんなに小さいのに。」
「そうだね。大丈夫だとは言ってるけど体は疲れてしまうものだからね。好奇心では体力は回復しないしね。」
「そういえばテントはどうするんだ?」
「大丈夫だよ。」
コンパスは自分が背負っているバッグから頭程の大きさの袋を出した。
「これで3人分のテントができるらしいよ。私はまだ広げたことないから分からないけど。」
袋から真っ黒なテントの外側とみられる布を取り出し説明書通りに組み立てた。
完成したのは3人が川の字で寝て少し余裕がある程の大きさのテント。黒く染められているので夜でも目立たなく、昼間は見つけやすくなっている。
「凄いな。あの大きさの袋からこんなものができるなんてね。」
「そうだな。」
「そろそろ休もう。でも1人は置いておかないといけないからジャンケンだ、ライロック。」
「分かった。ジャンケンは強い方だ。」
「よし、いくよー!最初はグッー!ジャンケン…」
太陽がそろそろ南中しようとし小動物たちの動きも活発になってきた頃、それに呼応するかのようにコンパスがテントから出てきた。
「一番風呂ならぬ一番睡眠は気持ちがいいね。」
「俺は少しぬるくなった風呂のほうが好きだ。」
「負け惜しみ?そういえば私がねてる間何やってたの?」
「この空間についてだ。なぜこれほど大きなギャップが生じたのかを調べていた。まあ草の成長具合をみれば大体の予想はつくけどな。」
「そうだね。草の丈もほとんど揃っているしね。」
「俺もそろそろ寝る。後は任せた。」
「うん。私もここだからこその研究をしよっか。」
ライロックがテントに戻り切るのを見るとコンパスはバッグから少しばかりの機械をだした。何かの測量計のものを3つ、データを入力するためのものを2つ取り出した。
「私がここに来た理由は石波を探すためだからね。」
コンパスはおそらく石波のための測量計を持ちブツブツと独り言を言いながら草原中を歩き回った。
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