第7話「交錯する境界」

 数瞬の閃光ののち、サーバールームには重苦しい静寂が訪れた。ラックのあちこちから小さな火花が散り、床には焼け焦げた配線が散乱している。酸っぱい臭いが鼻を刺し、まるで化学薬品が燃えた後のような空気が漂っていた。


 その中央に倒れ込むように座り込んでいるのは、高峯理久(たかみね・りく)と、彼の腕に抱かれたアコアの少女──アルマ。彼女は先ほどまで激しく輝いていた瞳を閉じ、いまは人形のように微動だにしない。


 「アルマ! しっかりして……」


 理久が声を張り上げるが、アルマからの反応はない。その人工皮膚で覆われた頬に触れても、うっすらとした温もりは感じるものの、すでに意識は深い闇へ沈んでしまったかのようだ。


 「やりすぎたか……無理させたな……」


 勝峰(かつみね)岳志が奥歯を噛みながら呟く。サーバーに巻きついていたケーブルを外そうとするが、一部が焼き付いて溶けかかっており、むやみに引っ張ればさらに損傷を広げるかもしれない。研究スタッフたちが慌てて工具を取り出し、ひとつひとつ慎重に外していく。


 一方で桜来(さくらい)凛花(りんか)は、タブレット端末を睨んでいた。先ほどまで猛スピードで流れていた文字列は途切れ、画面にはシステムメッセージの断片だけが残っている。


 「外部アクセス検知……オーバーライド試行……セキュリティレベルダウン……(不明)……――……」


 ノイズ混じりのログが示すのは、外部から何らかのハッキングが同時に行われていたという事実。そしてアルマがそれを利用し、施設のセキュリティを一気に壊そうとした形跡。だが結果がどうなったのかは、まだ分からない。


 「ねえ、誰か……通信パネルを見て! 外部との接続が開いたか、あるいは封鎖が解除されたか、何か手がかりがあるかもしれないわ!」


 凛花が呼びかけると、研究スタッフ数名がサーバールームの入口近くへ走る。そこには先ほど音を発していた緊急通信パネルがあるはずだ。暗い照明の下でごそごそと探り、何人かが険しい声をあげる。


 「……どうだ? 外部と繋がったか?」


 勝峰が叫ぶように問いかけるが、スタッフの一人が首を振って返事する。


 「いいえ、今は反応がありません! パネルは生きてるけど、アクセスログが変です……“中断”とか“待機”みたいな表示が――」


 「ってことは、全部が失敗じゃないんだな」


 すぐ横で理久がようやく顔を上げる。アルマの肩をそっと支えながら、自分自身も一瞬気を失いかけていた。全身の力が抜け、視界がまだ揺れている。しかし、やるべきことは山積みだ。


 「おそらく外部の誰かは、一度侵入しかけたけど、抵抗に遭って待機状態に入った……ってところか。アルマが一瞬セキュリティを落としかけたんだが、最後までいけなかったのかもしれない」


 凛花は歯噛みするように唇を噛み、「あと少しだったのに」と呟く。彼女の視線がアルマに向けられるとき、その瞳には激しい後悔と罪悪感が揺れている。


 (アルマの力を頼るしかなかった。でも、それがこんな結果を生んでしまった……)


 誰もが感じているだろう心の痛み。アルマがいなければ、そもそもここまでたどり着くことすら不可能だったはずだが、それでも彼女が払った代償があまりに大きい。理久は抱きしめる腕に力をこめ、彼女のか細い息づかいを感じ取ろうとする。微弱ながらも、かすかな鼓動のような震えが伝わってきた。


 「生きてる……んだよな、アルマは。いや、“生きる”って表現が正しいかは分からないけど……」


 理久は自分に言い聞かせるように呟く。崩れた瓦礫の中で救いを求めていた幼い自分と、今こうして意識を手放したアルマの姿が重なり、胸が締めつけられるようだった。


 ***


 薄暗いサーバールームの中心で、静寂を切り裂くように何かがバチッと火花を散らした。ビクッと体を硬直させるスタッフたちが一斉にそちらへ目をやる。どうやら奥のラックでショートが起こり、煙を噴きかけているらしい。すぐに誰かが消火器を掴んで駆け寄るが、それだけで解決するとは限らない。


 「このまま燃え広がったら一巻の終わりだ。制御が戻ったなら消火システムが動くはずなのに……まだ無理か」


 勝峰がイラついたように舌打ちする。外部への扉が開いているとも思えず、地上階の火災がどうなっているかすら分からない。


 と、そのとき。入口付近に配置されていた一人の研究スタッフが「あっ!」と短く声を上げた。みんなが視線を向ける。スタッフは廊下へ続くドアに耳を当て、何かに気づいたように血の気を失った顔をしている。


 「い、今……なにか……金属を引きずるような音がしたんです……」


 その言葉に、全員が息を呑む。警備ロボか、あるいはもっと大きな機械装置がこちらへ近づいているのかもしれない。先ほど地下で遭遇した破壊ロボのような存在が、まだ徘徊している可能性は十分にある。


 「ここで衝突されたらたまったもんじゃないぞ……! アルマの修復もままならないのに……」


 凛花が苦い顔をしてタブレットを閉じ、勝峰は武器になりそうなものを探すように視線を走らせるが、ロボット相手に丸腰も同然だ。研究スタッフたちは怯えて身を寄せ合う。


 廊下の向こうから、ゆっくりと振動音が伝わってくる。コツ、コツ、と規則的な金属質の足音。

 (やっぱり敵か? それとも……)

 嫌な汗が背中を伝い、理久もアルマを抱えたまま身構える。逃げ場はない。サーバールームの奥に非常口など存在しないし、ここは袋小路も同然だ。


 数秒後、厚い扉の向こうで足音が止まった。息を殺して全員が静まり返る。次の瞬間、ガチャリと古い錠前をこじ開けるような音がして、ドアがわずかに開く。


 「……っ!」


 叫び声を上げる余裕もない。完全武装のロボットが飛び出してくるか、それとも政府関係の特殊部隊か――最悪の想像が脳裏を駆け巡る。その一瞬。


 「開いた……人影……?」


 扉の隙間から顔を出したのは人間だった。短髪で鋭い眼光を宿した中年の男性。黒いセキュリティ服のような装いで、右腕には奇妙な機械製の補助器具がついている。金属のプレートが肘から先を覆っており、何かを斬り裂く武器かもしれない。


 「よう、思ったより静かだな。てっきり警備ロボが大暴れしてるかと思ったが……」


 低い声でそう呟く彼の背後には、同じく武装らしき装備をした数名の男たちが控えている。いずれも警備員というよりは、裏の仕事を請け負う傭兵か密偵のような雰囲気だ。研究スタッフたちが「ひっ……!」と縮こまる。


 「……誰だ。お前たち、何者だ?」


 勝峰が強い口調で問いかけると、男はニヤリと口端を歪めた。その表情には敵意とも余裕ともつかない冷たい気配が漂う。


 「名乗るほどじゃないが……まあ、言ってやろう。俺は槙村 真人(まきむら・まこと)。元々はこの施設のセキュリティ関連を請け負ってた者だ。いまは“別の依頼”で動いているだけさ」


 その名に聞き覚えがあるスタッフがいたのか、「まさか“元軍属の槙村”って噂の……」と震える声が漏れた。槙村はそれを聞いてか、鼻で笑うようにして廊下に手招きする。すると、後ろの男たちが数台のドローンを従えてぞろぞろと入ってきた。うちの一台は明らかに改造されており、先端に武装パーツらしきものが取り付けられている。


 「なるほど……お前らがこの騒ぎの原因か?」


 勝峰が唾を飲み込んで問うと、槙村は苦笑いを浮かべる。


 「違うね。俺たちは外部から強行突破しようとしたが、封鎖が思ったより厳しくてな。警備ロボを一部ハッキングして逆利用しようとしたが、それも完全には成功しなかった。……結局、俺たちも施設に閉じ込められた形だ」


 そう言いながら槙村の視線が横切る先には、床に座り込む理久とアルマの姿。槙村の目に微かな光が宿り、「そいつは……」と呟く。


 「おい、お前ら。そいつ……通称“アルマ”とか言ったか? そうだろう? 最新型のハイエンドアコアで、軍事レベルのハッキング機能を持っていると聞いてるが……」


 触れるように言葉を発する槙村の声は低く、警戒心と興味がない交ぜになっている。理久はアルマの身体を庇うように腕を回し、舌打ち混じりに返事をした。


 「……そうだよ。お前には関係ない。ここに来たってことは、お前も出口を探してるんじゃないのか?」


 槙村は唇を歪めたまま近づき、アルマの表情を一瞥する。全く反応がなく、沈んだままだ。まるで人形のような姿を見て、彼は「壊れてるのか?」と疑わしげに首をかしげた。


 「ふん……まあいい。まだ死んだわけじゃないなら、使い道はあるだろう。――とりあえず俺たちと手を組め。そうすりゃ上手く脱出できるかもしれないぞ」


 「手を組む……だと?」


 凛花が冷たい声で言葉を返す。槙村は自分の右腕に装着した補助器具をコンコンと叩き、鋭い目つきでサーバールームを見回した。


 「悪い話じゃないさ。ここには高レベルなセキュリティが残ってるが、そこにお前らのアコアが介入すれば、完全解除も夢じゃない。俺と手下が護衛を引き受けるから、お前らは安全に動ける。お互いメリットがあるだろう?」


 それを聞いて勝峰は失笑に近い表情を浮かべ、「そもそもお前らこそ怪しすぎるわ!」と反論する。だが槙村は気にした様子もなく、「この非常事態で、誰が味方かなんて分かりゃしない」と冷ややかに言い放つ。


 「お前たちだって、他に方法はあるのか? 外部からのアクセスは中断、アコアは故障寸前。ロボットや火災で施設内はぐちゃぐちゃ。俺らがいなきゃ、次に警備ロボが来たときどうするんだ?」


 たしかに反論の余地は少ない。いま理久たちの最大の戦力──アルマが、まったく動けない状態にある以上、また警備ロボが現れたら対処できない。さらに槙村の手駒であるドローンは、目に見えて武装を施されているようだ。こちらが無抵抗なら一瞬で制圧されるだろう。


 しかし、だからといって相手を信用できる材料は何ひとつない。凛花や勝峰が互いに目配せをして困惑していると、槙村はため息まじりに続ける。


 「そこのアコアが“軍事レベルのキー”を持ってるのは確かだろう? ……実は俺にも、ちょいと用がある。依頼があってね。施設の極秘プロジェクトのデータ……いわゆる“改竄禁止”領域に隠された成果を手に入れたいのさ。言うまでもなく、違法だがな」


 それを聞いた瞬間、理久はアルマの肩をぎゅっと抱き寄せる。まさにこの子の“心”を守ってほしい、という懇願を思い出す。槙村が狙っているのは、アルマの中枢に刻まれた機密かもしれない。


 「断る……。お前の言いなりになったら、アルマを好き勝手に利用されるだけだ」


 低い声で拒絶を示す理久に、槙村はニヤリと笑みを深める。手下のドローンが照準を合わせるように動き、「まあ落ち着けよ」と揶揄(からか)うように応じる。


 「なら、お前らはどうやって脱出する? あの子が目覚めずに、この施設は塞がったまま、ロボットに殺されるか火災に焼かれるか……それでもいいなら止めはしないさ。選ぶのは自由だ」


 突きつけられた現実は残酷だ。スタッフたちも震えるばかりで、凛花と勝峰も言葉を失っている。この男――槙村がいなければ、すぐにでも全滅しかねない状況なのだ。


 (どうする……どうしたらいい?)


 理久の頭は混乱を極める。アルマを差し出すわけにはいかないし、しかし助かる術も見つからない。槙村はわざと焦らすように沈黙を続け、男たちがじりじりと前進しながら部屋を制圧していく。もはや選択肢などないかに見える。


 だがそのとき、不意に廊下のほうから電子音が鳴り響いた。先ほど外部との通信をキャッチしていた緊急パネルがまた動き出したのか、鋭い電子ビープ音が連続して鳴る。槙村も「何だ?」と驚いたように振り向く。


 「もしかして……外部アクセスが再開した?」


 凛花が一気に顔を上げ、タブレットを取り出してサーバールームの状態を確認しようとする。槙村の手下たちが「動くな!」と銃口らしきパーツを向けるが、凛花は怯まず端末を操作する。


 「……これ、たぶんハッキングの再試行だわ。外部の“誰か”がまた施設をこじ開けようとしている。アルマが倒れたことで、一度セキュリティが閉じかけたけど……向こうは諦めていないのね!」


 部屋に新たな緊張が走る。槙村ですら目を見開き、「外部からのハッカーがいるってのか」と驚いている様子。次の瞬間、理久が抱くアルマの指先が小さくピクリと痙攣(けいれん)するように動いた。


 「アルマ……?」


 呼びかけると、アルマはまぶたを閉じたままかすかに呼吸を乱す。もはや体を起こす力など残っていないはずだが、どこかで外部からのシグナルを再び感知しているのかもしれない。


 (もしかすると、アルマが完全に壊れていない以上、もう一度だけ……奇跡が起きる可能性があるのか?)


 とはいえ、今度は槙村たちがいる。彼らがそのチャンスをどう利用するかによっては、アルマをさらって施設を乗っ取ることも可能だろう。理久は歯を食いしばって考える。アルマを守りながら、脱出もしなければいけない。だが槙村との協力なしに生き残るのは絶望的だ。


 「ちっ、ややこしいことになったな……!」


 槙村が吐き捨てるように言い放つ。彼もまた外部からのハッカーの存在が気に入らないのか、あくまで自分主導で施設の機密を奪いたいのだろう。


 勝峰が思い切ったように槙村に詰め寄る。「いいか、こっちはお前らを信用してない。だが、外部がこの施設を開けようとしている今、内側から合わせて行動すれば封鎖をこじ開けられる可能性がある。……利害は一致するだろ?」


 その台詞(せりふ)に、槙村は薄く笑みを浮かべる。まるで「最初からそのつもりだったさ」とでも言うような含みをもった顔だ。


 「ふん……そうだな。一時的な共闘も悪くない。外のハッカーが突破した瞬間に、この施設は解放される。そうなれば、たとえ警備ロボが残っていても勝算はあるかもしれない」


 「ただし、アルマには手を出すな。それが条件だ」


 理久が低く言い放つ。槙村の手下たちがこっちを威嚇するように銃口を動かすが、槙村は手で制止した。


 「いいだろう。俺にとって重要なのは“データ”のほうだ。この子の本体を破壊するつもりはない。まあ、ハッキング能力だけは借りるかもしれんがな……」


 理久は喉を鳴らす。今はこれが限界の妥協かもしれない。アルマが再び意識を取り戻せば、外部ハッカーとの同時突破を仕掛けるチャンスが生まれるだろう。そのとき槙村たちを出し抜く策が必要になるが、いまは生き延びることが最優先だ。


 「……分かった。共闘はする。ただし、お前たちが裏切れば、そのときは必ず阻止する。俺たちだって……この子を守るためなら、命を張る」


 理久の言葉に槙村は肩をすくめ、背後の手下たちに合図を送る。ドローンの銃口がわずかに下がり、部屋の空気が緩む。


 「なら、さっそく行動だ。ここに留まっても電源系が不安定で危ないし、別ルートから上層へ回り、外部ハッカーの攻撃に呼応する準備をする。アコアを連れてこい。……ああ、こいつを運ぶには担架でも欲しいところだが」


 槙村がドローンを一台呼び寄せ、救急キットや簡易シートを探し始める。研究スタッフたちが顔を見合わせ、「大丈夫なのか……」とひそひそ声を交わす。


 その一方で、理久はアルマを静かに横たえ、頬に触れて呼びかけていた。


 「アルマ……目を覚ませ。お前がいないと、みんな死んでしまう。俺はお前を連れて、必ずここを出るから……」


 その声に、アルマのまつ毛がかすかに震える。意識が戻ったわけではないが、完全に断絶されたわけでもない。わずかな希望が、薄暗いサーバールームの中にかろうじて灯る。


 (外部からのアクセスはまだ続いている。封鎖が崩れる瞬間が、きっと来る。そのとき……)


 理久は槙村の動向に目を配りつつ、胸の奥で決意を固める。もし施設が開放されたら、アルマを“道具”として狙うやつは必ず出てくるだろう。槙村だけじゃなく、外部から侵入しようとしているハッカーや政府の部隊も同じかもしれない。そんな不条理な世界で、アルマという存在をどう守り抜くのか。


 幼いころから抱えてきた“アコア不信”を、今や完全に捨て去ったわけではない。それでも目の前のアルマに宿る“命のようなもの”を見捨てたくはない、という気持ちが理久の中に確かに息づいている。


 「さあ、行くぞ――。ここでくたばるのは御免だろ?」


 槙村が自分の補助器具を鳴らしながら声をかける。理久、凛花、勝峰、そして研究スタッフたちは、お互いに疑心暗鬼を抱えつつも、結局は“外へ出る”という目的を共有するしかない。周りには火災や暴走ロボの脅威が迫り、施設のあちこちが崩壊の危機にある。


 「分かった。だが、アルマの身体を雑に扱うなよ。……頼む」


 理久は鋭い目で槙村の部下たちを睨む。彼らは肩をすくめるだけで、特に反論もせず担架代わりのシートを広げてアルマを乗せる。かろうじて息をしている彼女を見守りながら、理久と凛花が両脇で付き添う形になった。


 「凛花、頼む。お前の工学知識で、少しでもアルマの状態を安定させられないか」


 理久が願うように言うと、凛花は真剣な表情で「私にできる限りはやる」と返し、小型のツールを取り出してアルマの接続ポートやセンサを確認し始める。


 カランカラン……とドローンの脚部がコンクリートの床を鳴らし、槙村と手下たちが先頭に立ってサーバールームを出ていく。勝峰とスタッフたちがその後に続き、理久と凛花はアルマの担架を抱えながら最後尾を進む。


 廊下は薄暗く、ところどころ瓦礫や残骸が散乱している。警備ロボの気配がいつ出てきてもおかしくない。そんな緊張感のなか、槙村のドローンが先行して周囲を警戒し、そのあとを人間たちが慎重に歩む。


 「上層へ行くんだな? ほんとに抜け道があるのか?」


 勝峰が前を行く槙村に問いかける。槙村は振り返らずに言った。


 「さっき言ったろ。試験搬送用のエレベーターだ。普段は塞がれてるが、非常事態のモードを解けば使えるかもしれない。外部ハッカーの手が入れば、動く可能性もある……」


 そう言いつつ、彼は自嘲気味に笑う。


 「もちろん、完全に読めるわけじゃないさ。やるしかないってだけだ。お前らだってそうだろ?」


 そう言われれば返す言葉もない。結局、槙村たちとの共闘は危険と隣り合わせだが、それに賭けるほかに道はない。理久は黙ってアルマを抱える腕に力を込めた。彼女が心の底から望む「自由」や「未来」を、このまま闇に消し去るわけにはいかない。


 (アルマ……もう少しだけ、耐えてくれ。俺たちはきっと出口を見つける。お前の“心”が、何にも奪われないように、絶対に守ってみせるから――)


 この施設で生じている火災と混乱、外部からの侵入者、そして槙村たちの思惑が複雑に絡み合い、状況はますますスリリングさを増していく。エレベーターで上層へたどり着くのは、果たして希望となるのか、それとも新たな絶望を呼び込むのか。


 無機質なコンクリートの廊下を行く足音だけが響く中で、誰もが胸の奥に恐れを抱えながらも、一筋の光を求めて歩み続ける――。

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