最終話 君に贈る歌

 12月25日。小鈴が亡くなってから一夜明け、太陽の光が出てきた頃。その時皆泣いていて、誰も話そうとしなかった。医師の言葉を信じたくなかった。ただ静かに眠る小鈴の横で目覚めるのを待っていた皆はその場から離れようとしなかった。すると小鈴の父親が誠一郎に声をかける。


 「誠一郎君。最後まで小鈴のそばにいてくれてありがとう。小鈴は今幸せなはずだ。君がいてくれたから暗い世界から抜け出せた。本当にありがとう。」


 「最後なんて言わないでください。これからもずっと離れない。」


 誠一郎は現実を受け止めきれなかった。受け止めたくなかった。しかし次の瞬間、ビデオカメラのシャッフル再生が始まり、元気に歌う小鈴の動画の数々が流れ始めた。それはどれも誠一郎に向けられた歌であり、前を向いてこれからの人生を頑張って生き抜いてほしいという気持ちが込められていた。


 「小鈴…。」


 下を向いていた誠一郎は前を向く。すると編集された映像が映し出された。


   題名は「君に贈る歌」


 これは康太がこっそり編集した動画だった。そして歌が始まる。


───今君は泣いているかもしれない。跪いて落ち込んでいるかもしれない。でもね、私は君に出会えて幸せだった。君と一緒になれて嬉しかった。あの日見た雲を憶えている?まだ暑かったよね。それなのに私と君は笑いが止まらなかった。君が学校の話をしてくれた時も幸せそうに語っていてとても美しかった。だからさ、その美しい姿を今見せて欲しいな。沢山語りかけてほしいな。些細な事でもいい。これから先君がどう生きていくのか私は楽しみです。だから最後に私から一言。誠一郎、君を一生愛し続けます。───


 康太は小鈴と誠一郎が話している姿をこっそり撮影していた。これは小鈴からの頼みだった。編集して私の命が消えた時流してほしいと。そして今その願いが叶った。そのビデオカメラは思い出の写真が沢山込められていた。


美しい映像が終わった後、全員はまた泣き、小鈴に対し一人ずつ挨拶をしていった。そして最後、誠一郎の番になった。


 「小鈴。君の心は俺の中にずっといるよ。だから一つ、言わせてほしい。幸せにしてくれてありがとう。」


 そう伝え、小鈴にキスをした。


・・・


 葬式が終わり、遺灰を壺に納めた後。誠一郎は小鈴の両親に声をかけられた。


 「誠一郎君。君は素敵な人だ。これから先辛い出来事があっても前を向き続けられるはずだ。もし辛くなったら私達の元を訪ねてきなさい。小鈴の仏壇はそこにあるから。」


 「ありがとうございます。お二人もお体に気をつけてください。」


 誠一郎は小鈴の遺影を見る。その遺影は笑顔いっぱいで幸せな表情をしていた。歌を歌うのが好きな少女。その子は絶望に追い込まれていた彼を助け、これから先天から見守ってくれる存在となった。


・・・


 「小鈴。俺は今高校一年分の勉強を必死に頑張っているよ。今の高校を離れるのは寂しいけど、もう迷わない。君がいてくれたから今の俺がいる。沢山の幸せをくれてありがとう。天から見ていてね。」



 

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