第15話 メリークリスマス
時はクリスマス。この日は皆にとって特別な時間だ。笑顔で溢れかえり、ある人はプレゼントを貰う。ある人は大切な人と一緒に過ごす。しかし誠一郎はそんな生易しいものではなかった。呼吸器が取り付けられた危篤状態の小鈴を見ながら毎日そばを離れなかった。櫻井さんが自室に戻ろうと言っても絶対に離れなかった。失いたくなかったのだ。
「小鈴。君に出会ってからもう5か月が過ぎたね。もう12月24日。クリスマスだよ。でも君は目を覚ましてくれない。苦しい、苦しいよ…。」
誠一郎は下を向き、ぼそぼそと呟いていた。すると息を切らしながら康太が病室に走ってきた。
「誠一郎!!楓公園にいなかったから驚いた、今日イルミネーションを撮りに行くって約束だ…。あっ…。」
その時誠一郎の目は暗く歪んでおり、康太はただ事ではないと直感する。
「彼女…。いや小鈴さん。いつからこんな状態に。」
「…2日前から。イルミネーションを撮りに行くって言った後、呼吸が荒くなって呼吸器が取りつけられたんだ。それから小鈴は危篤状態。俺、どうしたらいいのか分からなくて。小鈴の苦しみを貰いたい。でも小鈴の体にはなれない。辛いよ。」
小鈴は2日前から危篤状態に陥っていた。誠一郎の呼びかけにも応じず、目を覚まさない。それが誠一郎にとって辛い事であった。
「誠一郎。俺がイルミネーションを撮ってくる。だから、お前は小鈴さんのそばにいろ。すぐ戻ってくるから、泣くな。」
「ありがとう。」
そして康太はまた走り、大通りのイルミネーションを撮りにいった。
・・・
『なんであんな顔を見せるんだよ!小鈴さんが悲しむだろ!!』
康太は一秒でも小鈴と誠一郎にイルミネーションを見せてやりたかった。しかしあんなに絶望した誠一郎の顔を見た康太は自身も心が握りつぶされそうだった。そして走り始めて10分。目的地についた康太は急いでビデオカメラを回す。
「誠一郎、小鈴さん。綺麗だろ?こんなに美しい木を見た事ないか?これは一生君たちに残る大切な思い出だ。ほら…。ほら…。」
康太は言葉が出なくなった。いつの間にか康太自身も泣いていたのだ。何故涙が出てくると康太は自分自身を責めた。しかし涙は止まらない。
「二人共ごめん。なにも喋る事が出来なくて…。俺は喋らないからただ美しい景色を見てくれ。」
そして5分に及ぶ映像を撮影した康太はまた病院に走っていった。
・・・
康太が病院に着くと誠一郎は泣いていた。どうしたのか!とそばに駆け寄ると小鈴が目を開けていたのだ。そばには医師、誠一郎の両親、小鈴の両親、櫻井さんがいた。その瞬間康太は今しなければならない事を思い出し、近くに置いてあったテレビにビデオカメラを接続し、景色を映した。
「ほら…。綺麗だろ…。皆見てくれ。大通りのイルミネーションを。約束しただろ、約束…。」
康太は涙が出るのをこらえながら言った。これは励ましの言葉と言ってもいい。二人を幸せにしたかった。その気持ちが彼を突き動かしていた。
5分間に渡る映像はとても綺麗だった。様々な色のLED。人々の楽しそうな会話。そして、ビルのライト。それら全てが映像を彩り、病室を明るく照らした。それを見ていた誠一郎は自我を取り戻したのか小鈴に向かい綺麗だねと言い、小鈴も楽しそうに見ていた。そして5分間の長い時は一瞬にして終わった気がした。
「小鈴。これからも一緒に過ごそう。」
───うん。ありがとう。───
「これからも色んな会話をしよう。正月の話、冬の大会の話、新しい生活の始まり、体育祭、夏休み…。どれも楽しい話だよ。」
しかしそんな言葉を聞かず文字を入力する小鈴。どこを見ているの?と言った誠一郎だったが、小鈴は文字入力を止めなかった。
───あのさ、言いたい事があるんだ。───
「なんでも!なんでも言ってくれ!!」
───君の事を、誠一郎の事を愛してる。これからもずっと。───
「俺も愛している!!一生想い続ける!!」
その言葉を聞いた小鈴は安心したのか目を閉じる。
「え、ちょっと待って!まだ話したい事が沢山あるんだ!!目を覚ませ、目を覚ませよ…!!」
誠一郎は起きてくれと叫ぶ。しかし、小鈴は目を覚まさなかった。その直後、病室中にピーという音が包み込んでいた。
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