第14話 サッカー部の皆

 「あ、誠一郎!!」


 誠一郎の存在に気づいた部員たちは一目散に誠一郎の元へとたどり着き、戻ってきた事に喜びを感じていた。


 「皆!心配かけてごめん。無事歩けるようになったよ!」


 皆との感動の再会。誠一郎は笑顔でいた。その様子を見ていたコーチは誠一郎の両親と話していた。


 「これが彼の歩みたかった人生だと私は思います。川野が率先して説得してくれたからこそ、今の彼がいる。これから先の道のりは貴方方が支えてあげてください。」


 「本当にありがとうございます。誠一郎がこの高校に入ってから私達は学びました。これからは昔の過ちを繰り返さないよう努め、誠一郎が成人してからも面倒を見ます。」


 誠一郎の両親はわが子が明るく、そして楽しく生きている事を再確認した。その様子を見て自然と涙が流れる。


 「そういえば誠一郎に彼女が出来たらしいぞ!」


 「あ、康太!お前!!」


 康太はわざと誠一郎に彼女がいる事を皆に言った。それに対し顔を赤く染めていた誠一郎だったが、最終的に純粋に喜んでいた。そして外出許可の時間が終わりを告げる時誠一郎は皆に挨拶し、病院に戻っていった。


・・・


 「小鈴!無事に歩けるように…って寝てるか。起きるまでそばにいよう。」


 サッカー部の皆の事を話したかった誠一郎はすぐに小鈴に駆け寄り話したかったが、小鈴が寝ているのを確認するとそばの椅子に座り一緒に寝た。いつまでも目を覚ますのを待っていた誠一郎。しかしこの日小鈴が起きる事はなかった。


───小鈴の夢の中───


 「あれ、私話せるし体も動く!!」


 小鈴は夢の中で自身の体が動かせる事に喜んでいた。すると目の前に誠一郎が出現する。


 「誠一郎!私、体治ったよ!!」


 小鈴は誠一郎に抱きつく。しかし誠一郎は微笑んだまま何も喋らなかった。


 「ど、どうしたの…?」


 小鈴は誠一郎の幻覚に疑問を問いかける。しかしそれでも誠一郎は反応しない。そして時が少しずつ進み始める。時計のチッチッという音が脳内を駆け巡る。なにか異常だと思った小鈴は辺りを見渡すがただ青空が広がっているだけだった。


 「というかここはどこ?」


 そう口にした瞬間青かった景色が急に色彩を失う。そして誠一郎が動いたと同時に辺りは完全に暗闇に変わった。


 「え…?ってちょっと誠一郎!!どこにいくの!!」


 白い光の方へ歩いていく誠一郎。小鈴は息を切らしながら、あとを追い続けたがその間はどんどん広がっていく。どんどん景色が暗くなっていく。ただその恐怖が小鈴にまとわりついていた。


 「待って!お願い!!戻ってきて誠一郎!!」


 手を伸ばす小鈴。しかし、誠一郎は白い光の中に消え、自身は暗闇に閉じ込められた。


 「あぁ…。」


 小鈴はまた体が動かなくなった。そして諦め、目を閉じる。


・・・


 「こすず……。こすず…。小鈴!!」


 誠一郎の大声で目を覚ます小鈴。すると周りには医師と櫻井さん、そして誠一郎が自身の顔を見ていた。


 「良かった、気がついたんだね。凄い汗をかいていたから心配したよ。」


 その空間はいつも通りの静寂を保っている病室だった。その時小鈴はさっきの出来事が夢だったのかと理解し、文字盤を見て文字を入力していった。


───私怖かった。誠一郎がどんどん離れていくんじゃないかって。でも今こうして会えて良かった。ありがとう。───


 「そんな訳ないだろ!絶対に離れない。これから先も一緒にいる!!だから泣かないで。」


 櫻井さんが小鈴の涙を拭きとり、誠一郎は落ち着きを取り戻す。いつのまにか外は凄く寒くなっていて12月の風が吹き荒れていた。

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