第13話 最後の手術

 「田中君、最後の手術の日程が決まったよ。11月6日、月曜日。準備しておいてね。」


 「はい、頑張ります!!」


 誠一郎は小鈴に元気な姿を見せるために体力作りをしていた。ばれないように鉄アレイを使って筋トレしたり、松葉杖をつきながら病院中を歩き回ったり。やれる事はなんでもやった。そして10月終わり。小鈴の病室に着いた誠一郎は最後の手術の事について話す。すると小鈴は微笑もうとした。しかしこの時、小鈴の病状はどんどん悪化していき、顔の筋肉もまともに動かせなくなり、言葉も話せなくなっていた。


 「…絶対成功して、元気に走り回れるくらい回復するから!!だから待ってて!!」


 小鈴に背中を向けて気を引き締める誠一郎。それを横目に見ていた小鈴は頑張ってねと、応援していた。


・・・


 それから小鈴の病室には文字盤のあるモニターが設置され、目の運動を元に文字を入力する機械が置かれるようになった。それを使って二人は会話するようになった。


───そういえば、高校はどうするの?───


 「高校は中退して、通信の道を進むよ。そこで高卒認定を受けて、一流の大学に志願する!これは親の発言じゃなく、俺自身の考え。」


───そうか、頑張ってね。今誠一郎は未来に向けて頑張っている。だからその気持ち忘れないでね。応援しているから。───


 「もちろんだ!小鈴のために頑張る!!」


───嬉しい。───


 そして誠一郎は小鈴の動かない右手を掴む。その手はとても細く、弱弱しかった。

全身の筋肉が衰えた事で全身がやせ細り、言葉を発する事も出来なくなった小鈴は辛いだろう。だからこそ誠一郎は元気な姿を見せたいと思っていた。


 「あのさ、手術が終わったら外出許可がおりるからクリスマスのイルミネーションを撮ってきてあげるよ。だからさ…。」


 誠一郎は体が震えだす。この時誠一郎の心情は小鈴との別れよりも自身が退院した後、どう生きていけばいいのか分からないという気持ちを持っていた。すると小鈴がまたモニターに目をやり、文字を入力し始めた。


───誠一郎、大丈夫だよ。明確な目標を掲げるのはとても勇気のいる事。でも誠一郎はそれを達成した。だから呼吸を整えて、前を見続ける事。───


 「うん、うん…!」


 小鈴は前以上に優しくなった気がする。体の自由を失ったと同時に愛を得たのだろう。誠一郎という存在がいたからこそ、今の小鈴がいる。誠一郎は小鈴にとって特効薬よりも強力な助け船になっていた。


 「じゃあもう行くね。また来るからさ!」


───ありがとう。───


 立ち去る誠一郎を横目に見ていた小鈴はだれもいない病室の中一人で文字を入力していた。


───行かないで。───


・・・


 誠一郎は小鈴の病室を離れた後、公衆電話を通じて康太と話していた。


 『俺さ、小鈴と結婚したい。』


 『お前らしいじゃん!ただ彼女はあと寿命が僅かなんだろ?それでも大丈夫なのか?』


 『大丈夫って?』


 『お前が辛くないのかって意味。今は大丈夫だとしても彼女がいなくなった後辛くないか?』


 康太は誠一郎の心配をしていた。誠一郎は優しいがゆえになにかに固執してしまう癖があった。それを知っていたからこそ本音をぶつけたのだ。


 『…大丈夫。後悔していない。小鈴がそばで見守っているから。』


 その時ちょっとだけ言葉がこわばっているのに気づいた康太は悪い事を言ってしまったなと思い、無理矢理話題を変える。


 『あ、あのさ。今度のクリスマス俺もついていくよ!一人じゃ危ないだろ?足もまだ完全に動かせる状態じゃないだろうし!!』


 『ほんと!助かる!!』


 『いいって事よ!場所は楓公園の入り口で!!』


 『分かった!ありがとう!!』


 そして康太との電話は終わった。


 『最後の手術。この空間で過ごすのもあとわずか。でも頑張るぞ!』


・・・


 そして運命の日がやってきた。その日誠一郎はとても落ち着いており、麻酔が注入されている時も自然体そのものだった。そして意識が途絶える。


・・・


 「はっ!」


 誠一郎は起きると病室にいた。右足を見ると包帯で固定はされているが痛みなどもなく、頑張れば動かせそうだった。そしてストレッチをしていると櫻井さんが入ってきて微笑みながら言葉をかけた。


 「田中君。とりあえず手術はこれで終わりです。お疲れ様。どう、調子は。」


 「恐ろしいほど快調です。ついに終わったんだなって思いました。リハビリをはやくやりたいくらいです。」


 「そう。じゃあ医師に聞いてみるね。とりあえず今日は安静にして、明日頑張ろう!」


 「はい!!」


 最後の手術を無事に終えた誠一郎は心が落ち着き、そのまま寝た。そして次の日からのリハビリを始める事となる。


 「やっぱり右足の感覚が分からなくなっています…。」


 「仕方ないよ。約4か月ギブスをしていたからね。でも彼女に会いたいんでしょう?焦らず頑張ろう!」


 「はい!」


 それから毎日毎日リハビリを重ね、右足の感覚を取り戻していった誠一郎。そして約1か月のリハビリを経て、やっとまともに歩けるようになった。時は既に12月。康太に礼をしたいと思った誠一郎は外出許可を受け、両親と共に学校に行く事にした。

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