第12話 小鈴の両親

 「誠一郎。会わせたい人がいるんだ。私の両親。」


 その言葉にハッとする誠一郎。そういえば今まで一度も会った事がない。小鈴は誠一郎の事を両親に話していたみたいだが、実際どんな人物なのか気になっていた。そのため固唾を飲み、来るのを待っていた。


 そして小鈴の病室で一緒に待っていると小鈴の両親がドアをノックし、入ってきた。それと同時に頭を下げる誠一郎。


 「初めまして、夏に小鈴に告白した田中誠一郎と言います!」


 「君が誠一郎君か。小鈴から聞いているよ。君のお陰で小鈴はより明るくなった。ただ、小鈴は先が短い。誠一郎君、小鈴の病状が重くなるにつれて辛くなると思う。それでもそばにいてくれないか?」


 この時誠一郎は怒りたかった。本人の目の前で言うのは非情だと。しかし言っている事は事実であり、実際に小鈴の体が弱まっていくのを知っていた。だから言い返せなかった。


 「…大丈夫です!俺は小鈴の事を心配かけたりしません。俺は小鈴に救われました。この先の暗い未来を明るく照らしてくれた。だから絶対に離れません。」


 その言葉を聞いた小鈴の両親は安心し、誠一郎に対し「一旦病室の外にいてほしい」と告げた。


・・・


 誠一郎は小鈴の病室の前で待っていた。


 「右足もだいぶ癒えてきたな。次で最後の手術。頑張ろう。」


 ぼそぼそと呟いていた誠一郎。すると声をかけてきた者がいた。それは誠一郎の両親だった。


 「誠一郎。康太君から聞いたよ。一人の少女のためにこれまで頑張ってきたという事に。それなのに私達はその時前に進めなかった。誠一郎の反応に怖けづいてしまったんだ。親であるのにごめんね。」


 康太からあの後の話を聞いた両親は以前とは全く違う存在になっていると確信した誠一郎。すると自然と口から本音が漏れていた。


 「第二希望の高校に受かった時、少しでも喜んでほしかった。サッカー部に入る時も止めないでほしかった。あと小鈴が元気な内に会ってほしかった。」


 誠一郎は自身でなにを言っているんだと驚きつつも吐露した。しかし次の瞬間両親は誠一郎の事を抱きしめ、「これから先、小鈴さんの事を支えてあげなさい。」と言った。その瞬間誠一郎は涙が溢れる。その言葉はシンプルだったが、深い意味を持っていた。


 「ほら、小鈴さんが待っているよ。行ってあげなさい。」


 「うん、うん…!」


 そして誠一郎が扉を開くと、小鈴とその両親は微笑みながら待っていた。


 「誠一郎君。今の話聞いていたよ。親御さんと仲直り出来たみたいで良かった。あとこれ、渡し忘れてたよ。カメラ。」


 「あ、そのカメラは俺の部屋にあったはず…。」


 「誠一郎君、これから先辛くなって泣きたくなる事がある。時には迷って進めなくなる時が来る。その時このビデオカメラを見てほしい。小鈴はそれを願っているから。」


 「ありがとうございます…!」


 誠一郎は幸せがつまったカメラを大事に持ち、小鈴の両親にお礼を何度も言った。すると小鈴が歌を歌いだした。


───君は今まっすぐな道を歩んでいる。その道から離れないでね。君がたとえ迷って立ち止まっても、私が空から見守っているよ。だから安心して、未来は輝いているから。───


 小鈴はかすれた声で歌い、歌い終わると同時に息切れを起こす。全身がほぼ動かなくない小鈴の姿を見た誠一郎はその場にうずくまり泣いた。


 『小鈴、君が一番辛いのに俺の心配をしてくれるなんて。本当にありがとう、ありがとう…!』


 いつの間にか二人の両親はいなくなっていて、二人の空間が包み込んでいた。誠一郎は涙を止めようとしても溢れ続け、涙が枯れるまで泣き続けた。


 

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