第8話 両親との再会

 誠一郎は落ち込んでいた。小鈴の病気の進行がはやまってしまったからなのではないからかと自身を卑下していたからだ。しかし前みたいに後悔を重ねる事は幸せになれないと学習した誠一郎は実の両親との面会に応じる事にした。


・・・


 「誠一郎、元気にしているかい?」


 面会室。両親は気まずさでいっぱいだった。もう半年以上まともに話していない状態の誠一郎と対面するのが怖かったからだ。しかし彼らの予想とは違い、誠一郎は微笑み落ち着いた様子でいた。


 「…どうしたの?」


 両親は誠一郎に対し訊く。すると誠一郎は「この病院で大切な人が出来た。」と言った。


 「なるほど、その話を聞かせてほしいな。」


 「分かった、話すね。」


 誠一郎はこの病院に来てから落ち込んでいたが、小鈴という同世代の女の子に惚れた事、そして彼女の歌に救われ前を向こうと決めた事を両親に話した。


 「でも昨日、お互いプロポーズをした瞬間小鈴はその場に倒れてしまったんだ。看護師さんから聞いた話だとただの夏風邪だと言っていたけど、それでも体調が悪いのに無理をさせてしまった事に気づけなかった事が許せなくて…。」


 その話を聞いた両親は口を閉じ、誠一郎の後悔している姿をじっと見ていた。そして数秒後口を開く。


 「誠一郎。今までは”私達の言う事が絶対だ”と洗脳させてしまっていた。本当にごめんなさい。第二希望に受かった時も心の底から喜んであげられなかった。これは私達の思考が子供じみていたから。でもサッカーを通じて仲間が出来、楽しく高校生活を送れていると大田さんから聞いた時、人生は自分自身で決めるものだと理解した。今まで、英才教育とか言って縛り続けてごめん。」


 「いやその事はもう気にしていないよ。今の高校だって偏差値でいえば60以上だし、中堅クラスの大学にも進学できるはず。その、留年してしまうけど…。」


 ぼそぼそ呟く誠一郎。すると突然父親が誠一郎の肩を掴んだ。


 「誠一郎。俺はお前を不幸にさせてきたから、これから先も憎み続けていい。でも小鈴さんだけは絶対に幸せにしてあげろ。誠一郎の人生観を変えてくれた子なんだろう?看護師の言葉で心に穴があいたと思う。それは小鈴さんのためを思って言った言葉だから。でも今こうして話している間も絶対会いたいと病室で思っているはずだ。だから気を落とすな。」


 誠一郎の父親は小鈴との恋愛を否定しなかった。誠一郎にとってその言葉は予想外であり、今までの愚行を許してはいなかったが、両親に対して誠実でいようと決めた。だからこそ真実を言う事にした。


 「その、小鈴の事なんだけど…。」


 「どうした。」


 「あと半年の命らしい。1か月前にとある患者さんから聞いて、今の時点で小鈴の入院期間が半年過ぎているから、もう半年も生きられないかもって。あんなに素敵な女性なのに、こんなのってないよ…。」


 誠一郎は大粒の涙を流し、その場で泣く。両親は衝撃を受けていた。そこでどんな病気なのか教えてほしいと誠一郎に聞く。誠一郎は筋肉がうまく動かなくなっていく病気だと伝えた。その言葉にハッとする父親。


 「もしかしてそれって…。ALSなんじゃないか?」


 「エーエルエス?」


 「ALS。筋萎縮性側索硬化症といって、治療も確立していない病気。最初は手足が動かなくなっていって、最後は声も出す事が出来なくなるっていうのを聞いた事がある。」


 その瞬間誠一郎の心は崩れ落ちた。そんな難病を抱えている彼女はそれを誰にも言わず、一人耐えてきたという事に。そんな辛い事も一切言わず、ただ微笑んであの屋上に立っている。それを父親の口から聞いてしまった誠一郎はパニックを起こす。まだ足が治っている訳でもないのに、松葉杖も使わず、血を垂らしながら彼女の元へと向かおうとする。父親が止めてもそれでも歩み続けようとする誠一郎は結局その日看護師達によって強制的に面会が打ち止めとなってしまった。


・・・

 

 その日の夜。誠一郎の両親は車に乗り込み、話をしていた。


 「貴方。誠一郎のあんな姿、見た事なかった。誰かのためにひたむきに頑張ろうと歩んでいく姿が何故今まで分からなかったんだろう。悔しいよ…。」


 「俺だってあんな絶望しながら彼女の元に進んでいく姿を見て辛かった。俺がその病気の事を言わなかった方が誠一郎にとって幸せだったんじゃないかと後悔している。本当に申し訳ない事を言ってしまったよ…。」


 誠一郎の両親はただ悔やみ、次会う時にどんな顔をすればいいのか分からなかった。

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