第7話 嬉しいよ

 「小鈴、夏祭り結局行けなかった。ごめん。」


 「大丈夫だよ、ってそのカメラはなに?」


 8月の昼頃。二人は空調のきいた広場で待ち合わせをしていた。その時誠一郎はビデオカメラを持っており、なにかわくわくしている。


 「実は友達に祭りの風景を撮ってきてほしいって頼んだら、承諾してくれたんだ。良かったら一緒に見ない?」


 「え!嬉しい!見よう、見よう!!」


 小鈴の言葉を聞いた誠一郎は、ビデオカメラの録画を見る。その映像はとても美しかった。沢山の屋台に着物姿の人々。楽しい会話をしながら歩いている姿は二人にとってとても新鮮なものであり、その場に行きたいと思っていた。


 「あ、これ懐かしい!私、昔射的やったなぁ。」


 「結果はどうだったの?」


 「惨敗。…なに笑っているの。」


 「いや、喜んでくれてよかったなと思ってさ。後このカメラは親の物なんだ。今こうして入院出来ているのは親が金を払ってくれているから。だから仲直りしたいと思った。ここで小鈴に会ってなかったら、この考えは生まれなかったと思う。」


 誠一郎は頬を赤く染めていて、その姿を見た小鈴は微笑む。この時小鈴は親と仲直り出来るといいねと思っていた。すると誠一郎がまた話しだす。


 「あと、小鈴の美しい歌声をこのカメラにおさめたいと思って。いいかな?」


 その瞬間小鈴は心がとても温かく、幸せな気持ちでいっぱいになった。そして誠一郎の言葉に「うん。」と一言返し、一緒に病院の屋上に行く事になった。


 ・・・


 「じゃあ歌うよ!ちゃんと撮ってね!!」


 「勿論!」


 誠一郎がグッドサインを出すと小鈴は歌いだした。


 ───私は君が好きです。この夏君はここに来て、迷いに迷ったと思う。でもね、今は幸せの花に囲まれている!とても美しい!この太陽がサンサンと輝く世界で惚れこんだ一人の少女。これは紛れもない真実です、付き合ってください!───


 その歌は小鈴からのプロポーズだった。今の小鈴は幸せの光に包まれ輝いていた。その歌を聴いた誠一郎は涙が溢れる。まさかこんな形でプロポーズされると思っていなかったからだ。そして誠一郎の言葉は決まっていた。


 「勿論!!俺も小鈴の事が好きです!!」


 大声で叫び、心の中にあった物を打ち明けた二人。この瞬間、二人の間に愛が芽生えた。


 「…!嬉しいよ、私今幸せ!!」


 小鈴も涙を流し、喜びの笑顔でいっぱいになった。


 しかし次の瞬間、小鈴はその場で倒れた。「えっ」と言葉を漏らす誠一郎。近づき小鈴の額を触ると熱を発症していた。まずいと思った誠一郎は大声で病院中に聞こえる程の助けを呼び、その声に気づいた看護師達は急いで医務室に小鈴を運んでいった。


 ・・・


 「櫻井さん!!小鈴は大丈夫なんですか!!」


 「田中君。彼女はただの夏風邪だった。でも無理させた田中君も悪い。今後は彼女に無理をさせないように。」


 櫻井さんに注意された誠一郎は罪悪感でいっぱいだった。命に関わるものだったら取り返しがつかない。そう思ってしまったからだ。


 「俺はもう彼女に会わない方がいいですか?」


 「…今回は見逃す。でもまた無理をさせるような事をしたら田中君は別の病院に移ってもらう。そうしないと彼女は幸せになれないから。」


 その言葉を聞いた誠一郎は絶望した。彼女に会う事すらままならなくなりそうだったからだ。


 「…分かりました。今後気をつけます。」


 そして病室の扉が閉じ、誠一郎は孤独に戻った。

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