第3話 初の手術

 誠一郎と小鈴が病院の屋上で座って話していると、櫻井さんが焦った表情をしながら屋上の扉を開けた。


 「田中君!ここにいたのね。病室にいなかったからびっくりした。先生から聞いていると思うけど、今から手術だからはやく病室に戻らないと!」


 「あ、忘れてました。小鈴、また明日話そう!」


 「うん!また明日。」


 櫻井さんの手を取り、ゆっくりと歩みを進める誠一郎。その姿を優しく見送る小鈴だった。


 「手術、頑張ってね。元気な姿になるのを楽しみにしているよ。」


・・・


 「柊さんと話していたのね。どう、少し落ち着いた?」


 「はい。昨日よりはましになった気がします。その、柊さんは高校に一度も行けていないって言っていたんですけど、体の調子が悪くて入院しているのですか?」


 誠一郎はあの時座っていた彼女の笑顔を見て、どこも悪くなさそうな感じに思っていた。しかし、彼女にはある重い病気を持っている事をこれから先の未来、知る事になる。


 「入院したのは今年の3月辺りね。ただ彼女のプライバシーに関わるから言えない。ごめんね、彼女の事もっと知りたいと思うのに。」


 「いや大丈夫です。…今回の手術はどういった事をするのですか?」


 診察室についた誠一郎は、医師の話を改めて聞く。


 「緊張しているだろう。ですが、ゆっくり深呼吸をして聞いてください。今回の手術では、整復処置を行います。簡単に言うとずれてしまった骨を元の位置に戻し、金属製のプレートを支えにする事を目的とした手術になります。」


 「…分かりました。それで足が少しでも回復するのなら受けます。」


 誠一郎の言葉を聞いた医師は手術室へと向かい、手術の準備を進める。その間櫻井さんは「麻酔がすぐに効くから安心して。」と誠一郎に対し声をかけ、出来るだけ緊張を与えないようにした。


 そして手術が始まった。


・・・


 それから半日が過ぎたところだろうか。誠一郎が目を覚ますといつの間にか外は夜になっていた。すると医師が気づいたのか、誠一郎の元へやってきて言葉をかける。


 「田中さん。今回の手術で骨の矯正、傷ついた皮膚の処置をしました。麻酔が切れると痛みが出てくるので、ナースコールをしてください。では、今日はゆっくりお休みください。」


 医師はその場から立ち去り、誠一郎はギブスに巻かれた右足を見る。体の感覚が少し重いがなんとか動かせそうだった。


 「はぁ、夜になっているって事は相当足の具合が悪かったんだな。まだ立てそうにないし、松葉杖ありきの生活か。」


 誠一郎は横になり、ゆっくりと眠りに入った。


・・・


 早朝。誠一郎が目を覚ますと、何故かとなりの椅子に小鈴が座って寝ていた。


 「わっ!びっくりした!!」


 「んぁ…?あ、起きた。」


 寝ぼけながら顔を洗いに行き、戻ってきた小鈴。どうやら朝4時頃に来たらしい。自身の病室ではなく、なぜ俺の元にやってきたのか訊くと、「心配だったから。」と答えた。


 「小鈴は優しいんだね。俺の両親とは正反対。手術の見舞いも来なかったし。まぁ酷い事言ったのもあるけど。」


 「誠一郎は親御さんと仲が悪いんだ。」


 「悪いなんてものじゃない。一緒に暮らすのもいやなレベルで嫌い。」


 それを聞いた小鈴は誠一郎の言葉に対し疑問を投げかけようとしたが、今は手術後で疲れているだろうと思い、聞かなかった。


 「なんか悪い事聞いちゃったね。また屋上の椅子で話そう。」


 「うん、ありがとう。」


 そして小鈴は部屋を出て行った。それと同時に朝食が運ばれ、目の前に来たと同時に誠一郎はパンを手に取り、食べ始めた。


 『ここで立ち止まっちゃだめだ。小鈴のように元気にならないと!』


 そう考えながら、朝食を完食した誠一郎は鎮痛剤を飲み、また病院内を歩く事にした。

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