第37話「数年後」

 あれから数年後。

「所長、この件ですが」

「あの、依頼人さんがお礼にってお土産持ってきてくれました」

「これはこのまま進めて。それは」


 俺は竹中探偵事務所の二代目所長になった。

 調査員、事務員も増えたし責任重大だ。

 所長、いや道彦さんは俺の為もあってこの事務所を開いたらしい。

 自分は元の世界で探偵やるから、暖簾分けだよってさ。




 あれから二年が過ぎた頃。

「じゃあ、後は頼んだよ」

 引継ぎも終え、皆さんが元の世界に帰る日が来た。

「はい。あの、いろいろと……あり、がとうござい、ました」

 堪えきれずに泣いてしまった。

「うんうん……こっちこそありがとね」

 道彦さんも目を潤ませていた。


「隼人君、元気でね」

 伊代さんは一歳になる息子さん、健次郎けんじろう君を抱いていた。

「はい、伊代さんもお元気で」

「ええ」

「だー」

 健次郎君も分かっているかのように声を出してくれた。


「しかし本当の苗字が石見いわみなのは聞きましたけど、なぜ仮名にしてたのですか?」

 気になったので聞いたら、 

「いやね、竹中たけなかって父方祖母の旧姓なんだけどさ、祖母の実家はもう誰もいないんだ。だからせめてここにいる間はと思ってだったんだ」

 道彦さんが少し笑みを浮かべて答えた。

「そうだったんですね。けどせめてと言うなら、道彦さんが祭祀継承者になるというのは? いやうちも桐山家の祭祀を母の従兄弟の誰かが継いで残そうかって話が出てるんで、どうかなって」


「……なるほど、それいいかも」

「お祖母さんはいずれ墓じまいするって言ってたけど、そうしたら喜ぶかもね」

「うん。帰ったら話し合ってみるか。隼人君、言ってくれてありがとう」

 よかった、話してみて。




「名残惜しいけど、そろそろ行こうかい」

「そうだね。じゃあ、またいつか」

「はい、また」


――――――


「所長、物思いに耽ってないで手を動かして」

「あ、ああごめんなさい、副所長」

 そこにいたのは金色の髪で、すらっとして目が蒼くくっきりなスーツ姿の女性。


「ん、それじゃ私は猫探ししてきます」

 そう言って副所長は出て行った。



「所長はいいですねえ、あんな美人な奥さんいるんだから」

「取ったら怒るよ」

「取りませんってば、付け入るスキがどこにあるんですか」

「うん、それよりなんでここに入ったの、祐君」

 そこにいたのはムカつく程のイケメンだった。


「僕も探偵になりたかったからですよ。ご先祖様が隠密だったし勇者様のとこで働きたかったし」

「そう、しかし君ほんとご先祖様そっくりだね」

「いえいえ、あ、電話だ」


 彼はわんどりーむさんこと稲富一祐さんの子孫、早川祐君。

 聞けばお祖父さんがこっちに移住して結婚した際にお祖母さんの姓にしたそうで、一祐さんは彼の名前をそのまま名乗ったそうだ。

 あと一祐さんは彼が言った通りその昔は公儀隠密みたいな人だったそうで、奥さんとは大敵に立ち向かう際に出会ってだったって。


 わんどりーむさん達はともかく、ななしのさんももう帰ったそうだ。

 ななしのさんも子孫の名前を借りていて、その方は本当にあそこでお好み焼き屋さんやっているフォロワーのななしのさんだった。

 あの時だけ変わってもらったらしく、語ったエピソードは子孫の方のだったって。

 普段は子孫ななしのさんを通じて俺の様子を伺ってたそうだ。

 あとこの人は六十代らしいが写真見せてもらったら、流石に二十代には見えなかったが四十代と言われたら信じてしまう程だった……。

 美魔女一族めが。



「あ、友里さんからLIMEが……今晩ズームで話そうかって、いいですよ」

 友里さん達とはあれからずっと付き合いが続いている。

「さてと、僕も依頼人さんの所に行ってくるか」 


――――――


「えっと、この方を探せばいいんですね。じゃあ……東京タワーの近辺にいるみたいです」

「そうか。じゃあそこで似たような人を見つけたって言っておくよ」

 母さんのお札のおかげで探し人、探し物はほんとよく見つかる。


「はい。しかしいつまでいらっしゃるんですか?」

「うーん、守護神様が起きて来るまでだから、あと数十年かのう?」

「そうなんですか……」


 その人は信康様、いや三郎お爺さんと呼べって言うからそうする。

 三郎お爺さんも神様になってるらしいんだけど、


「自分で探せないのかなら、そこまでしてはいかんからだよ」

「あ、そういうもんなんですね」

「ああ。あの時はそんな事言ってる場合じゃなかったから手を出したが、本来は見守るしかできんのだよ」

 三郎お爺さんはほんと申し訳なさそうに行ったが、


「いえいえ。あの、これからも見守っててくださいね」

「おおとも。さ、依頼人さんが待ってるんだろ」

「はい、失礼します」


 手を出さないって、あの時友里さんが東京に来れるように図らったのは三郎お爺さんだったって聞いた。

 それと俺達が付喪神に襲われた時に竹刀を置いてくれたのも。


 守護神様は今は長い眠りについて休んでいるらしく、あと数十年は起きないらしい。

 本来は卑弥呼様が守護神様の代行らしいけど、予想以上に力が無くなっていったので三郎お爺さんが代わりに来たそうだ。

 お爺さんも実は卑弥呼様の遠い子孫らしいし。

 

 しかし守護神様ってどんな方だろな。今度聞いてみよう。


――――――


「守護神様は向こうの初代聖女と初代勇者で、二人で双方の世界を守っている。そしてそのお二人こそ隼人君の、諸星家のご先祖様で向こうのモロボシ家のご先祖様でもあると聞いたら驚くじゃろうなあ」


” そうですね。ところで……”


「はい。聞きましたが隼人君達が過去世界で戦った魔王が語った者の事ですね」


” ええ。それはもう一人の七海の事ではないはず。とすると他に考えられる者は…… ”


「あやつでしょうな。まあ、それも遠い未来に生まれる救世主に託すしかありませんな」


” ええ……いつかきっと、真の平和が訪れると信じましょう ”


「はい」

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