第14話「努力を怠るな」
ユウトとシンクローの戦いが始まった。
まず互いに剣を構え、向かい合う。
「怪我しても恨むなよ」
ユウトが言うと、
「そちらもな」
シンクローが睨みながら返した。
「ユウト君って強いと思うけど、どのくらいなんだ?」
隼人が誰にともなく言うと、
「剣や武術においてはこの世界で五番目ですよ」
ジョウがそれに答えた。
「え? めちゃくちゃ強いじゃないですか!?」
「そ、そんなにだったんですか?」
隼人と友里が驚きの表情を浮かべた。
「そうだべ、ユウト兄はもう戦士団長より強いんだべさ」
キクコがやや嬉しそうに言う。
「え、それじゃ上四人って誰? 二人はたぶんお父さんとお祖父さんだろうけど」
隼人が指折り数えながら言うと、
「あってるべさ。そんであと二人は上皇様親衛隊副隊長、そんで陛下だべさ」
「待って、陛下って剣も超一流?」
「剣だけじゃなくて武芸百般で、魔法を除けばどれも世界一だべさ」
じゃあ自分で神器を……はダメだな。万が一があったら。
と思う隼人だった。
「ほう? 帝はそれほど強いのか?」
シンクローが尋ねると、
「そうだよ。おれなんか一本も取れねえよ」
ユウトが答えた。
「そうか。あやつが『今のアンタじゃ勝てない』と言っていたのはデタラメでなかったという事か」
「だからそれ誰だよ?」
「それも勝てたら話してやろう。では行くぞ!」
シンクローが素早くユウトに斬りかかったが、
「はあっ!」
ユウトは難無くそれをかわし、シンクローの後ろに回り込んで斬りかかろうとしたが、
「そうはいくか!」
シンクローも体を横に滑らせ、間合いを取った。
「なかなかやるな」
「そっちもね」
「俺、どっちにも全く敵わないわ」
隼人がそう言うと、
「……えど、あの」
「無理しなくていいよ」
「んだ」
隼人よりユウトが強いのは分かっているが、この先はと言おうとしたキクコだった。
「シンクローという奴、どこで剣術習ったんだろうな? ユウトと互角の腕なんて我流ではおそらく無理。相当な方に師事しないとだと思うのだが?」
ジョウが首を傾げると、
「オレの剣術は先に話したご先祖、龍興様が編み出したものだ。それも代々伝わっていたんだよ」
シンクローが身構えながら言った。
「え、龍興様ってたしかに強い人だったってありますけど、ご自分で編み出したなんて記録は無いです」
友里が驚きの表情を浮かべた。
「歴史の表舞台から去った後でと伝わっているからな、知らなくて当然だ」
シンクローは律儀に答えた。
「表舞台……あ、刀根坂の戦いで戦死せずに越中に逃れたという話がありますけど」
「そうだ。そこで開拓に励み村を造った。そして皆を守るために武術の稽古は欠かさなかったとある」
「その際に編み出したのが、その剣術」
「ああ。ここへ来た我が祖先は龍興様の玄孫の一人。龍興様は皆に分け隔てなく剣術と心得を伝えていて、今に至るのだ」
「なあ、心得ってなんだよ?」
ユウトは気になったのか尋ねる。
「『何事も若いうちから始めよ、そして努力を怠るな』だ」
シンクローはまた律儀に答えた。
「ん? いやいい心得だと思うけど、もうちょっと難しいものかと思ったよ」
「まあそうだな。だがこれは龍興様が自分のようになるなと言いたかったと思っている」
「あ……」
友里が何か言おうとしたが、口を押さえた。
「そこの女性、友里さんだったか? オレは気にせんから遠慮せず言えばいい」
シンクローが友里の方を向いて言う。
「は、はい。龍興様って前半生は自堕落な暗君だったと伝わっていますが、後半は名将だったと。それは織田信長に国を追われた後、必死で努力したからとも伝わっています」
「そうだ。龍興様は国を出てからは自分を磨き、そして幾度も各勢力に身を寄せて織田信長に挑んだ……だが勝てなかった。そして最後に身を寄せた越前朝倉家が滅亡した時に共に死のうかと思われたが、ずっと付き従ってくれた家臣達を守る為、戦いを諦め武士をやめたとある」
「そうだったのですね。ほんと最初からだったら織田信長に勝てないにしても、同盟国として生き残ってたのではなんて思ったりします」
「そう思われていたのから心得を伝えたのかもな。そしてオレも皆もそれを忘れず己を磨き、その力を持って人々を」
「……あんたのご先祖様、立派な方だよ。そしてあんたもな」
ユウトは本心からそう言った。
「礼を言う。だが手は抜かぬぞ」
シンクローは少し笑みを浮かべて言った。
「そりゃそうだ。さてと、ちまちまやっても決着つかねえだろから、これで」
ユウトは剣を鞘に収め、抜刀術の構えを取った。
「ほう、ならばオレも」
シンクローも抜刀術の構えを取る。
そして、互いにそのか前のまま、機会を伺い続けた。
皆は声を出せず、ただ見守るだけだった。
どのくらいの時が過ぎたか……。
「……やああっ!」
ユウトが先に動いた。
「はあっ!」
シンクローも動き、
瞬く間に互いの位置が変わり……。
「……うっ?」
ユウトが片膝をついた。
「え、まさか?」
「ユウト兄?」
「ユウトさん?」
「……参った」
そう言ったのはシンクローだった。
「え、なんで?」
隼人が思わず言うと、
「……勇者よ、もう少し修行しろ」
そう言って静かに倒れた。
「や、やったべ、ユウト兄が勝ったべさー!」
「ええ!」
キクコと友里が手を取り合って喜び、
「ふう、やっと終わったか。もう少しで貧血で倒れるところだったよ」
ジョウがそんな事を言う。
「ってあの、大丈夫?」
隼人がユウトを気遣うと、
「いや、痛い!」
胸を押さえて言うユウトだった。
「友里さん、ユウト兄に回復魔法かけてあげてけろ」
「あ、はい。あとシンクローさんにもですね」
友里がそう言うと、
「ええ。あの人はただ皆の為にだったから」
――――――
「……かたじけない」
シンクローは小声で礼を言った後、黙り込んだ。
「なあ、まだ陛下を討とうとか思ってる?」
ユウト君がシンクローに尋ねる。
「……いや、返り討ちに遭うだけだと思い知った」
頭を振って言うシンクロー。
「じゃあ、直接陛下に苦情言えるよう取りつごうか?」
「何、そんな事が可能なのか?」
シンクローが驚きの表情を浮かべた。
「うん、陛下は常々多くの人の声を直に聴きたいって言ってるもん。ただ誰でもなんて危ないって皆で止めてるけどさ」
「……本当にいいのか?」
「さっきまでだったらアレだけど、今はなんというか憑き物が取れたような顔してるからね」
「……そうか。そんな顔つきになっていたか」
「それでもイケメンだったけど、今はもっとだよ」
「うん、腹立つくらいにね」
俺もそう言うと、
「んにゃ、隼人さんの方がかっこいいべ」
「あの、ユウトさんもって言ってあげれば?」
キクコちゃんと友里さんが続けて言った。
「そうか……すまぬが、お願いする」
シンクローが頭を下げて言った。
「うん。あ、そうだ。あんたに神器の事を教えたのって誰?」
ユウト君がそれを尋ねた。
「ああ、旅の魔法使いだとかいう黒づくめの者だった。だが今思うとかなり怪しい奴だった」
「もしかしてそれ、神器を狙っている敵じゃない? それでシンクローさんをちょっと操っていて持ってこさせようとかしたのかも」
俺が言うと、
「かもしれぬな……帝憎しだったとはいえ、不覚だ」
「皆、日も傾いてきたし今日は近くの村に泊まろうではないか。ああ、シンクローさんも一緒に来たまえ」
ジョウさんがそう言ってきた。
「ん? いやオレは」
「まあまあ、君にとっても悪い話ではないぞ。ささ」
ジョウさん、なんか考えでもあるのか?
俺達はジョウさんを先頭に灯台を出て、その村へ向かった。
勿論神器の剣は回収済みだ。
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