第13話「灯台にいたのは」

 翌日の早朝。

 準備を終えて皆が車に乗った後。


「さて、計算上は休憩を挟んでも八時間。日暮れ前には着きそうですね」

 運転席のジョウさんが地図を見ながら言った。

「あの、俺も運転しましょうか?」

 俺は助手席に座っていた。

「では後でお願いします。まずは自分でしたいので」


 そして出発したが……、


「きゃあああ!」

「ひゃあああ!」

 後部座席の友里さんとキクコちゃんが悲鳴を上げ、


「ちょ、スピード出し過ぎです!」

「ジョウ兄、もうちょい遅くしろ!」

 俺の後ろにいたユウト君も抗議したが、


「フハハハハ、僕は風となるのだー!」


 ギャアアー! こいつハンドル持ったら性格変わる奴だー!




 ……一時間程走った後。

 

「ふう。いい気分だからか、日光浴びてもなんともないな」

 ゴン!


「何をするんですか!」

「何ってあんたのせいで全員ダウンしとるだろが!」

 三人共口にするのはまずい状態になっていた。


「……すみません。しかし隼人さんは大丈夫のようですが」

 ジョウさんが頭を擦りながら言う。

「ああ、俺は何度か経験してるんで」

 伊代さんも倒れるまではハンドル持ったらアレだったからなあ……。

 所長もアレに関してだけは大声でキレてたし。


「じゃあ次は隼人さんが運転してください。それで感覚掴みますから」

「最初からそうすればよかったですね」



 しばらく休んだ後、今度は俺が運転した。

「ふう、なんとか落ち着いたってか、友里さんの回復魔法のおかげだよ」

「そうだべなあ、あたすじゃこんな短時間で治せねえべ」

「改めて異世界だなあ、自分が魔法使いになったんだなって思いました」



「なるほど、この速度ならか……隼人さんは運転が上手ですね」


「いえ、他の車がいないならなんとかです」

 俺、自分の車持ってないから慣れてないんだよな、いつか車買おう。



 

 そして何度か休憩し、運転を代わりながら走り続け。

 予定通りの時間で目的地に着いた。


「ふう、着いたべさ」

「途中に魔物いたけど驚いて逃げてったな」

 キクコちゃんとユウト君が来た道を見て言う。


「まあ、見た事もないものが走ってたんだから警戒するだろな」

 ジョウさんもそう言った。


「ちなみにあれ、もし戦ったら勝てた?」

 気になって聞いたら、

「楽にとはいかないけど勝てるよ」

「んだ」

 二人共頷いた。


「あの、あれって大きくて強そうでしたけど?」

 友里さんが目を丸くして言った。

 たしかに。特撮の怪獣みたいな奴だったし。

 俺だったら死んでたかも。



「さ、それよりここがかの灯台ですよ」

 ジョウさんがそこを指して言った。


 真っ白で結構高さがあり、正面に入り口がある灯台。


「ここには剣があるのが見えたけど、そういや勾玉さんはあれから話してくれないな」


” ああごめんね、敵に悟られないよう意識を閉ざしてたんだ ”

 勾玉さんが答えてくれた。


「あ、そうだったんですね。それでここに剣があるのは」


” 間違いないよ。灯台のてっぺんにいるけど、何か不穏な気配も感じる ”


「え、まさか敵が?」


” いや、たぶんその部下だろね。この程度なら今の君達でも倒せるよ。

 じゃあ、僕はまた意識を閉ざすね…… ”


 


「よし、おれが先頭に立つから皆は後に続いて」

 ユウト君が剣を抜いて言い、

「僕も行くよ。ちょうどいいから発明品の実験台になってもらうか……ククク」

 ジョウさん、あんたマッドサイエンティストか。




 そして中に入り、何事もなく最上階に着いた。

 そこには効いたら灯りの元である大きな白い球体があったが、


「ぐ、抜けぬ……」

 その手前に剣を抜こうともがいているのは、なんというか腹立つほどのイケメンだったが、なぜか武者って感じの鎧を着ていた。


「おい、それ返せ」

 ユウト君がイケメンを睨んで言う。


「ん? ああ、お前ら勇者一行だな。ちょうどいい、死んでもらおう」

 イケメンはそう言って多分神器の剣を置いて身構えた。


「そうはいくかって。皆、まずはおれだけでやらせてくれな」

 ユウト君も剣を抜いて構えた。


「いいけど、危なくなったら爆弾投げるからな」

「あたすも爆発魔法撃つべさ」

 

 ……まあ、それなら大丈夫かな。


「ほう、なかなかの使い手のようだな」

 イケメンがユウト君を見つめながら言う。


「それはどうも。それであんた誰? おれは陛下親衛隊の戦士ユウト」

 ユウト君が名乗ると、


「日本人の勇者なら分かるだろうから言うが、オレは斎藤龍興さいとうたつおきが子孫、シンクロ―だ」

 イケメンも名乗ったが……。


「え、誰それ? 知らん」

 なんか聞いた事ある気もするが、

「……そうか。我が祖先はあまり知られていないのか」

 なんか落ち込みやがった。


「いえ知られてますよ。斎藤龍興様は斎藤道三さいとうどうさん様の孫であり斎藤義龍さいとうよしたつ様の息子で、戦国時代の美濃国大名ですよね」

 友里さんがそう言ったが、殆ど分からん。

 斎藤道三もなんか聞いた事ある気がするけど。

 しかしよく知ってるな、もしかして歴女?


「細かい事を言ったらキリがないのでその認識でいい。ほっ、知られていてよかった」

 イケメンいやシンクローは顔を上げてちょっと笑みを浮かべた。


「えっと、てことはあんたも日本人?」

 気になって聞いたら、


「オレはこの世界で生まれ育ったが、ご先祖はそうだ」 

 シンクローがそう答えた。


「そうかよ、それでご先祖様はどうやって……あ、もしかしてあの扉通って?」

「どうやってかはご本人も分からなかったらしいが、おそらくお前が言った通りだろうな」

「そうか。それで、その剣で何しようとしてたんだ?」

「神器の剣の力で帝を倒し、天下を取るのだ」


「な、なんだって?」


「こら、それ完全に反逆罪だろが!」

 ユウト君が怒鳴ると、


「反逆、たしかにそうだろうな。だが民を苦しめる者を治天の君にしておいていいのか?」


「何言ってるんだべ! 陛下は国民を大事にしてるべさ!」

 キクコちゃんも声を上げるが、


「肉や魚を食す事を禁じておいてか? そのせいで多くの民が職を失っているのだぞ?」

「あ……」


「え、そうなんですか?」

 思わずジョウさんに聞いたら、

「ええ、間違ってませんね。国からの補償が追い付かず一部では不満の声も出ていますから」

 そうなのかよ……。


「そうだ。せめて万全を期してからにすればまだ納得もしたが」

 シンクローの顔には怒りが籠っていた。


「あ、あの、もしかしてあんたのとこも水産か畜産してたとか?」

 また気になって聞いたら、

「そうだ。ご先祖様は辿り着いた地で畜産を始めて財を成し、それで家族だけでなく村人達の生活も楽にした。それが代々続いていたのに……いやうちだけでなくこの近くの漁村や他のそういった町や村も大打撃を受け、人々が苦しんでいるのだ。思い余って一揆を起こそうという村もあったが、それはオレが止めた」

「犠牲者を出したくなかったからかね?」

 ジョウさんが言うと、

「そうだ。闇雲にしたところで無駄に命を落とすだけだとな。だが良い手が無いとなった時、とある者がこの剣の事を教えてくれたのだ」


「ほう、誰かねそれは?」

「それは言えん。それで勇者達よ、さっきは死んでもらうと言ったがオレもなるべくなら人を殺したくない。頼む、協力してくれとは言わんからせめて邪魔をしないでくれないか?」

 シンクローがそう言ってきた。

 こいつ悪人じゃなさそうだけど……。


「あのな、陛下を討とうとするのを黙って見てられるかよ。だから止めさせてもらうよ。あと神器返せ」

 ユウト君がちょっとイラつきながら言うと、


「そうか。ならばオレを倒すんだな」

 そう言ってシンクローは自分の刀を抜き、


「じゃあそうさせてもらうよ」

 ユウト君も剣を構え直した。

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