第15話「追い付いてると思いますよ」

 着いた先は港の近くにある漁村。

 だが、


「うわ、ほんと寂れてるな」

 ユウト君が村を見渡して言う。


「先程シンクローさんが言っていた通りだよ。補償が追い付いていないんだ」

 ジョウさんが言い、

「ああ。この村は昔からうちと付き合いが深くて、互いの収穫を交換しあったりしていたのだが、今はどちらも……」

 シンクローさんもそう言った。


「そうなんですね。あ、そういえばシンクローさんは村長さんなのですか?」

 友里さんが尋ねた。

「村長は父だが、今は臥せっているのでオレが代わりをしている」


「ではここの村長さんとも面識があるのかね?」

 ジョウさんが尋ねる。

「あるとも。父とここの村長は親友だからな」

「それは好都合だ。勇者である隼人さんの名を出そうと思っていたが、そちらの方がいいかもな」


「ジョウさん、いったい何をする気ですか?」

 気になって聞いたら、

「それは村長さんに会ってから話しますよ」


 その後、先に宿屋に入って一休みしてから村長さんの家に向かった。




「なんと、この方が勇者様……ようこそわが村へ」

 シンクローさんのおかげですぐに通された。


 しかし村長さん、歳聞いたらまだ四十八歳だって。

 見た目は六十代に見えるのは、やはり相当ご苦労されてるからだろうな……。


「村長、いやおじさん。この方が何か話があるそうなので聞いてくれないか?」

 シンクローさんはジョウさんを指して言った。

「はい、何か?」

「早速ですがこれを見てください」

 ジョウさんが持っていた鞄からコップと水筒と、何か小さな種っぽいのを取り出した。

 そしてコップに水とその種を入れると……。


「え、えええ!?」


 あっという間にコップの中が白い肉の塊みたいなので満たされた。


「これは実験用ですのでここまでですが、こちらに入っている種を海に入れて放っておけば一月程で大量のモドキ魚肉となりますよ。さ、どうぞ」

 ジョウさんはそう言って巾着袋を取り出して村長さんに渡した。

「あ、ありがとうございます! これで村は持ち直しますよ!」

 村長さんはやはり嬉しいのか、涙を流しながら礼を言った。


「兄さ、そげなもんどうやって作っただ?」

 キクコちゃんは気になったようで尋ねた。

「ああ、モドキ肉に細胞分裂機能をつけたんだよ。そうそう、シンクローさんにはこれを」

 ジョウさんがまた別の袋を取り出してシンクローさんに差し出した。

「これは?」

「牛肉と豚肉、鶏肉モドキの種だよ。これを適当な場所に植えれば芋と同じように育ってあっという間に増えていくはずだ。どうか使ってくれたまえ」

 ジョウさん、あんた天才すぎでしょ。


「か、かたじけない。これでわが村も、あ」

「どちらもあと数か所分あるのである程度増やした後、他の所に分けてもらえないか? 追って新たに種も作るよ」

「ああ、そうする……こんな事を言ってはあれだが、あそこであなた達に会えなかったらどうしていたかだ」

 シンクローさんも少し目を潤ませていた。


「ジョウ兄ってすげえな。こんなもんまで作れるなんて」

 ユウト君が感心して言う。

「ははは。これでお祖父ちゃんに少しは追い付けたかな」

 ジョウさんが笑みを浮かべて言うが、


「追い付けたどころじゃない気がしますが」

「ええ、与吾郎おじいさんが凄い方なのは聞いてますが、流石にその分野ではジョウさんが勝ってるのでは?」

 俺と友里さんが言った。


「ええ、ものづくり自体は勝ってると自負してますが、皆さんに喜んでもらえるようにとなるとまだまだですよ」

 ジョウさんが笑みを浮かべて言った。




 その後、村長さんにお礼にと言われて夕飯をごちそうになった。

 村中にも既に知られていて代わる代わる訪ねて来るが、俺よりジョウさんに皆話しかけていた。

 まあそうだろな。


 しかしジョウさん、そこももう追い付いていると思いますよ。




 翌朝。

「僕はここで帰るよ。研究の続きもあるしね」

 ジョウさんが

「兄さ、ありがとだべさ」

「ありがとうございました」


「ジョウ殿、この御恩は生涯忘れないぞ」

 シンクローさんも頭を下げて言った。


「いえいえ。それでどうするかね? 都へ行くなら僕の村へ行けば、村長さんが瞬間移動呪文で連れていってくれるが」

 あ、忘れてた。陛下に苦情言うって。


「それは一旦保留する。それより一刻も早く村へ帰ってこれを植えたい」

 シンクローさんが袋を手にして言った。

「そうか。ではまた」

「ああ」


 ジョウさんは車に乗って戻っていった。


「さて、オレもそろそろお暇するよ」

 シンクローさんが俺達の方を向いて言った。


「ええ。それではまた」

「ああ。武運を祈る」


 シンクローさんも去っていった。


「さてと……後は鏡だけど」


” その前に俺にも言わせてくれや ”


「え? あ」

 神器の剣が宙に浮かび、輝き出した。


” まずはありがとな。いやあいつをぶちのめす事だけはできんだけど、それじゃあいつが救われねえと思ってよ ”


 剣さんがそう言った。


「それで黙ってたと」

” そうだよ。しかし先代が逝ってから十年で新たな勇者が現れるとはなあ。しかももう一つのこの世界のって ”

  

「あの、この世界にも新たな勇者がいるんですよね?」

 きっとそうだろうけど聞いてみた。


” ん? ああいるさ。だが今はまだ覚醒してないんで、しばらくはあんただけとして頑張ってくれや ”

 

「はい。あとですね、残りの鏡のとこにも敵がいますか?」


 ん……いるけど、辿り着くのは容易じゃねえし敵も強そうだな。

 だから皆修行してから行け。

 こっから海を渡った先にある島に良い師がいるから、そいつに訳を話せば鍛えてくれるよ。


「分かりました。となると船でだけど」

「漁村なんだから誰か持ってるだろ。港行って聞いてみようよ」

 ユウト君の言う通りにとなり、港へ向かった。

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