第12話「笑みを浮かべた」
客間でしばらく休んだ後、夕飯ができたと言われて居間へ行った。
そこにあった長ちゃぶ台の上には人数分のお刺身みたいなものと野菜の天ぷら、ぱっと見で具だくさんの汁物が入った鍋があった。
そして、
「兄さ、なんだべこれ?」
キクコちゃんがしかめっ面でそれを指差した。
「ん? キクコが持って帰ってきた本にあったものを作ったんだが」
「……こんなのもあったべか。あたすも全部見た訳じゃなかったけんど」
「いや、こんなのは無い」
「漫画ならあるかもですよ」
俺と友里さんが言うと、
「ジョウ兄、なんでこれ作ったんだ?」
ユウト君がそれを指して言った。
「いや男のロマンを感じたんでな。料理は全部彼が作ったんだ」
それは宇宙世紀の白い悪魔に似てるロボットだが、なぜかメイド服を着せられていた。アホですかあんたは。
どうせなら最新作ヒロインに似せとけ。
「隼人さん、なんか変な事考えてねえべか?」
キクコちゃんがこっちを睨んできた……。
「い、いや何も」
「まあまあ、それよりどうぞ」
ジョウさんが勧めてきたので皆席に着き、手を合わせた後で食べ始めた。
「あ、美味しい」
「美味いべさ」
この汁物、あつめ汁ってやつだよな。
いやほんと美味しいのもあるけど、あ。
「そうだろ、料理の腕はキクコのを元にしたんだよ」
ジョウさんが頷きながら言う。
「やはりそうだったんですね。なんか知ってる味だと思いました」
「おれもすぐ分かったけど、よく再現できたな」
俺とユウト君が言うと、
「ふふふ、この前飯作りに来てくれた時に記録しておいたんだ」
「へえ、そういうものを作られたのですか?」
「いえ、これにですよ」
ジョウさんは懐から赤い宝石みたいなのを取り出した。
「この魔法石は声や映像を記録できるものなのです」
「へ? 兄さ、そんなものどこにあったべ?」
キクコちゃんも知らないものなのか?
「おや、聞いた事ないのか? これはお祖父ちゃんが見つけたんだぞ」
「ふええええ!?」
「おれも知らなかったぞ!?」
キクコちゃんとユウト君が盛大に声を上げた。
「そうか。まあ記録できるようにするには魔法力で調整しないとダメらしいが、できるのはおそらくボルス様だけ。だから言わなかったのかな」
「あの、それってもしかして伝説のアイテムですか?」
気になって聞いてみたが、
「そんな伝説ありませんよ。ただ祖父が言うには、元の世界で石に記録をという昔話があったそうなんですが」
「そんなの聞いた事ないです。友里さんは?」
「知りません。もしかしたら地方ローカルで伝わってるお話なのかも」
そうかも。いや漫画とかならありそうだが。
「そうですか。まあその昔話では霊山に転がっている赤い宝石がだそうで、祖父が見つけた際にもしやとボルス様に見せたら、そうだったと」
「兄さ、なんでそれ広まってねえんだべ? あとなんで兄さが持ってるべさ?」
キクコちゃんも聞いた。
「ああ、僕が発明の道を選んだ時にお祖父ちゃんがくれたんだよ。覚える事たくさんあるだろから、これ使えって。あとこれは一個しかなかったみたいだよ」
「まあ、ジョウ兄が持ってるのが一番いいんじゃね? なんだかんだ言っても大天才だしさ」
ユウト君が言うと、ジョウさんはまた胸を張って笑みを浮かべた。
その後はジョウさんがこちらの世界の事を聞いてきたが、
「あ、そういえば他のご家族は?」
ご両親は健在って聞いたが?
「両親はここから近い山奥の村にいますよ。母が胸の病にかかっていて、山の空気がよく効くので療養してます」
「そうだったんですか。心配ですよね」
「ええ。ですがキクコのおかげで光明が見えました。医学の本も持って帰ってきてくれたので、それを元に医学者の親戚が研究してくれてるのです」
「あ、それなら」
「はい。原因が特定できそうだって。母も孫の顔見るまで死んでたまるかって」
「はは、そういえばジョウさんはおいくつなんですか?」
「隼人さんと同い年ですよ。こっちでは結婚が少し遅い方なんです」
「うちじゃ早い方ですよ。俺の歳だと大学卒業でやっと就職ってとこですね」
「そうなんですね。そっちの感覚だったら急かされないのになあ」
「まあ、ジョウさんならいい人と会えると思いますよ」
「ありがとうございます。じゃあ直射日光浴びたら倒れるのをなんとかしないと」
「……それも研究してもらったらどうですか?」
話が弾んで少し遅くなり、そろそろ寝ようとそれぞれの部屋に別れた。
俺はユウト君と同じ部屋。
「キクコ、ジョウ兄のおかげかちょっと元気になったな」
ユウト君がそんな事を言った。
「……もしかして、友里さんが聖女だってのを気にしてる?」
「そうだよ」
「そっか……」
そんな事関係ないだろ、とは言えないか。
「けどさ、おれこうも思ってんだ。友里さんはあくまでそっちの世界の聖女で、こっちの聖女はキクコじゃねえかって」
「え?」
「だとしたらこっちの勇者はおれかなあ、まあなんであっても好きな人とだよな」
「……本当にそうだと思うよ」
だって恋敵の俺すら励ましてるんだから。
「ん、まあ寝よ。明日はあの自動車に乗れるから楽しみだ」
「うん、おやすみ」
一方、女子二人の部屋では。
「友里さん、大丈夫だべか?」
キクコが友里を気遣って言うと、
「ええ。ちょっと怖いですけど、考えてみればこんな体験二度とないですもんね」
友里は笑みを浮かべて頷いた。
「よかったべ。しっかす回復魔法を一日でなんて、お師匠様でもできなかったそうだべ」
「そうなんですね……私って魔法使えたんだ。もっと早く知れていたら、お母さんも早く見つけられたかなあ」
「そすたら隼人さんとは最初に会ったっきりだったかもだべ」
「あ、そうですね……ねえ、キクコさん」
「なんだべ?」
「私、ちょっとだけ聖女だったらなんて思ったけど……やっぱり正々堂々とね。だからそれを気にして引かないで」
「……ありがとだべ」
キクコは少し笑みを浮かべた。
「いえいえ。さ、そろそろ寝ましょうか」
「んだ」
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