第11話「異世界の科学者」

 着いた場所はキクコちゃんの村と同じような雰囲気がする村。

 遠くに山が見えて村の周りは田んぼや畑が……のどかな日本の田舎の風景だわ。


「ここってキクコの父さんやおれの父さんの従弟が住んでるとこだよ」

 ユウト君が村を指して言った。

「そうなんだ。しかしほんと親戚多いね」

 村にいた倍以上いるみたいだし。


「おれやキクコは一人っ子だけど、祖父ちゃんの兄弟姉妹は十人。ここにいるのは一番下の妹さんの子供なんだ」

「じっちゃとおばさんは親子くらい離れてるんで、おっとうの従弟って言ってもあたす達と歳が近いんだべさ」

 ユウト君とキクコちゃんが続けて言った。


「……うちの祖父ちゃんが聞いたら仰天するだろな。キクコちゃんのお祖父さんしか従兄弟がいないと思ってるだろし」

 風森のひいじいちゃんには兄弟がいなかったらしいからなあ。


「でも、今日はいらっしゃるの?」

 友里さんが誰にともなく言うと、

「ジョウ兄さは学者だから家に籠って研究してるべさ」

 キクコちゃんが答えた。って。

「あ、もしかして科学の研究?」

 そういえば親戚に科学者がいるとか言ってたな。


「そうだべ。持って帰ってきた本あげたら泣いて喜んでくれたべさ」

「そうだな、あの学者バカは」

 キクコちゃんとユウト君がそう言った時だった。


「誰がバカだこら」

 後ろから声がしたので振り向いてみると、そこいたのは白衣を着て眼鏡をかけた黒髪で、少し細い体つきの色白の男性だった。

 歳は俺と同じくらいかな?


「あ、ジョウ兄」

「兄さ、外出て大丈夫だべか?」

 あ、この人がか。


「大丈夫だよ。今日は曇ってるではないか」

 まあたしかにそうだが……この人日光浴びたらやばいのか?


「それより、そちらが勇者様かね?」

 ジョウさんが俺の方を向いて言った。

「そうだべ。この人が勇者の隼人さんで、そっちが……聖女の友里さんだべさ」

 キクコちゃんが俺と、少し間をおいて友里さんを指して言った。

「聖女様!? な、なんと、本当にいたのか!?」

 ジョウさんは心底驚いているようだった。


「んだ。詳しい事は家で話すべ」

「あ、ああ分かった。じゃあ行こうか」

 俺達はジョウさんの後に着いて行った。



「そういや勇者以上に伝説って言ってたけど、もしかして今までいなかったの?」

 道すがらユウト君に聞いた。

「うん、初代陛下の頃にはいたそうなんだけど、それ以降は現れなかったんだ」

「へえ。あ、もしかすると初代勇者は初代陛下で、聖女は初代皇后様?」

「違うよ。皇室の記録では勇者と聖女の助けもあって世界を統一できたとあるからね」

「そうなんだ」


 話しているうちにジョウさんの家に着いた。


「なんというか、異世界なのに日本ですね」

 友里さんが家を見ながら言う。

 ジョウさんの家はキクコちゃんの所よりは小さいけど、やはり日本家屋ってじだった。


「さ、どうぞどうぞ」

 中に入って通された部屋は、ジョウさんの研究室だそうだが。


「なんというか、ここはあれですね……」

 うん、流石科学者の家。

 本棚には本がぎっしりで、あちこちに実験道具やら何か古い感じではあるが機械類が転がってる。

 どこが異世界だと言われそうだ。


 そして部屋の真ん中にあったテーブルの前に座り、事情を話した。

「そうか。そんな事が……」

 ジョウさんは腕を組んで顔をしかめた。


「言っちゃダメだべ」

 キクコちゃんが言うと、

「分かってるさ。それより次は灯台なんだな?」

「んだ。急で悪いけんど今日は泊めてけろ。ここで支度整えてから行きてえし」

「いいとも。そうだ、どうせなら灯台まで送ってやろう」

 ジョウさんがそんな事を言った。


「あんれ? 兄さは魔法使えねえのにどうやって?」

 キクコちゃんが首を傾げた。

「忘れてるのかね? 僕は天才科学者だぞ。まあ百聞は一見に如かずだ、こっちへ来たまえ」


 ジョウさんに案内された場所は、外の倉庫みたいな小屋。

 中に入ると、そこにあったのは。


「え……? これ、自動車じゃないですか?」

 それは俺達の世界にある車と同じものだった。


「そうです。キクコが持って帰ってきてくれた本を元に作ったんですよ」


「ひゃあああ、ジョウ兄さすっげえべ!」

「え、これが話にあった自動車? かっけえ!」

 キクコちゃんとユウト君が目を輝かせて言うと、

「ふふん、どうだね?」

 ジョウさんは少し得意げになっていた。


「いやほんと凄いですよ、これ一から作ったんでしょ」

 本だけでって、与吾郎おじいさんかよ。

「いえ、一部の部品は魔法使いである村長さんに錬金魔法で作ってもらいました」

「村長さんも凄いですね」

「ええ。村長さんはボルス様のお弟子さんでもあって、昔は魔法学校の先生もしてたのですよ」

 

「そうだべ。あたすの兄弟子でもあるんだべさ」

 キクコちゃんが自分を指して言う。

「ボルス様は滅多に弟子を取らないんだよね。やっぱ凄い人だ」


「そうですよ。ただ村長さんは科学の勉強もしたかったけど、若い頃は風当たりが強かったそうでして。今は僕が隙間時間に教えてるんで、それもあって協力してくれるんですよ」

 なるほど、Win-Winってとこなんだな。


「うわ、ほんと凄いです」

 友里さんも感心していると、


「はは、勇者様と聖女様にも褒められるとは光栄ですよ」

 ジョウさんが頭を掻きながら言うが、

「あ、あの、その勇者ってのやめてもらえませんか? できれば名前で」


「ん? ああそうですか。では失礼して隼人さん、それと友里さんでしたね。いや本当にありがとうです」

 ジョウさんは満面の笑みを浮かべて言った。


「ほんと科学がお好きなんですね」

「ええ。祖父ヨゴロウが多くのものを作り出して人々に感謝されていたのを見て、自分も同じようになりたいと思い、それで科学の道を選んだのですよ」


「ジョウ兄はひいじいちゃんのそういうとこが一番似てるって言われてるよなあ」

「んだ。兄さはよくひいじっちゃやお師匠様にいろいろ教わってたべ」


 そうか、この人も与吾郎おじいさんの孫。

 ほんと皆さん、おじいさんの心を受け継いでいるんだな。


「ふふふ。さてキクコ、これを動かすには魔法力がいるからここに込めてくれ」

「あ、ガソリンではないんですね」

「そうですよ。こちらでは石油というものが見つかってませんのでね。それが発見されたらそっちの方も試してみたいものです」

「魔法力の方が空気汚さないからいいと思うのですけど」

「おやそうなのですか? うーん、まあそれは見つかったら考えましょう」


「兄さ、魔法力込めたべ」

 もうかよ、早いな。


「ありがとう。さて出発は明日にして今日はゆっくりしてください」

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