第10話「聖女とは」
翌日。
庭で友里さんが住職様に教わっている間、俺は少し離れた場所でユウト君に稽古つけてもらった。
「隼人さんって基本的な事はできてるよな」
一休みしている時にユウト君にそう言われた。
「うん。あれから毎日素振りしてたし、たまにうちの所長に教わってたんだ」
普通の剣道じゃなくて喧嘩殺法とか言って、蹴りや投げ技も……。
それでもユウト君には敵わないって当たり前か。
「おれは祖父ちゃんや父さんに教わってたよ。祖父ちゃんはもう引退してるけど元戦士団長で、父さんは上皇様の親衛隊長なんだ」
「二人共凄い人なんだね」
「うん。おれはまだまだだけど、いつかは追いついてやるよ」
「ユウト兄、おじさん上皇様のお供して悪人懲らしめてなかったべか?」
キクコちゃんがそんな事を、って前に言ってたな。
「たぶんそうだろけど、聞いてもはぐらかすしなあ……」
ユウト君が首を傾げる。
「なんかこっちにある漫遊記みたいだね。もしかしてお供は二人とか?」
「噂じゃそうだよ。父さんはスケサブロウなんでスケさんって呼ばれてて、一緒にお供してるだろう副隊長はカクベエなんでカクさんって呼ばれてるよ」
そのまんまじゃねえか!
「あ、えらく精霊が集まってるべ」
「へ?」
キクコちゃんの目線の先を見ると、友里さんの周りがなんかというか……。
蛍のような小さな光がいくつも浮いているように見えた、って。
「あの光が精霊?」
「そうだべ」
「えと、精霊って魔法使いじゃないと見えないんじゃ?」
「ああ、こういったお寺や神社、教会のような聖域でなら誰でも見えるんだよ」
ユウト君が答えてくれた。
「こっちの世界ではそういうもんなんだ……」
「そうそう、その調子ですぞ」
ご住職が笑みを浮かべて頷いた。
「はい……あ、これでいいんですか?」
友里さんはやはり戸惑っていた。
「はい。しかしたった数時間でここまで出来るとは、やはり聖女様なのかもですな」
「あの、その聖女ってなんですか? 勇者は物語とかで見てるから知ってるんですけど」
「ああ、聖女とは男性の勇者と対をなす存在で、勇者と生涯共にあってそれを支える者でもあるのですよ」
「え、そうなの?」
俺はキクコちゃんとユウト君の方を向いて聞いた。
「そうだよ。ちなみに勇者が女だった場合は男の聖者がだそうだけど、聖女様以上に伝説でしかないよ」
「そうなんだ、って……生涯って事は」
「そうだべ……あたすじゃないんだべ、友里さんだったべ」
キクコちゃんが項垂れた。
「あのな、それあくまで伝説だろ。たとえば仕事上のパートナーは友里さんで家ではとかかもだろ」
ユウト君がそう言ってキクコちゃんの頭を撫でた。
「そ、そうだべか?」
「ぐ、そうかもだよ。てかそれは今は置いとけよ」
ユウト君が顔をしかめて言った。
「……んだ。ありがとだべ」
キクコちゃんが顔を上げて礼を言った。
ほんとありがと……やっぱ君も与吾郎おじいさんのひ孫だよ。
というかさ、ユウト君こそ勇者じゃないのか?
「……諦めたつもりだったけど、それなら……ううん、でも」
友里がそう呟き、
「むう、これはまた複雑な関係なのですな」
住職は四人を見渡し、小声で言った。
翌日。
すっかり体調も戻った友里さんを加え、俺達は次の場所へ向かう事にした。
「あ、友里さん、その恰好」
「これ、回復系魔法使いの服だそうです」
友里さんは看護師さんの制服に似たような服を着ていて、マントを羽織っていた。
「それ、回復系魔法使いと認定された証だべ。あたすのこの服も魔法使いの証だべさ」
あ、そうだったんだ。
「ええ。友里殿は回復系や補助系の基本的な事が出来ますし、魔法力も拙僧以上ですから文句なしですよ」
ご住職がそう言った。
そうなのかよ……俺が一番足手まといな気がする。
「ほんとびっくりしました。自分がって」
「元の世界で介護をされているからでしょうか、精霊も喜んで集まってましたぞ」
ご住職が頷きながら言う。
「そうなんですね。あ、お世話になりました。また改めてお礼に伺います」
「いえいえ。皆様の無事をお祈りしますぞ」
俺達はご住職に見送られ、寺を後にした。
「さて、次はどこへ行く?」
俺が皆に聞くと、
「ここから近いのは灯台の方だけんど、あたすはそこに行った事ねえべ」
キクコちゃんが頭を振って言う。
「じゃあ近くまで移動してそこから歩こうぜ」
ユウト君がそう言うと、
「そっからだと一週間くらいかかるべさ。友里さんは大丈夫だべか?」
「ええ、鍛えてますから」
友里さんが笑みを浮かべて頷いた。
「それじゃあ行こうか。キクコちゃん、お願い」
「んだ」
俺達はキクコちゃんの瞬間移動呪文で目的地に飛んだ。
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