第9話「勾玉と聖女」
この声、どこからって……あ、まさか?
俺達が友里さんの手にある勾玉を見ると、
” うん。今話してるのは僕、勾玉の精霊だよ ”
「え? あの、神器って精霊が宿ってるのですか?」
思わず聞いてしまった。
” 宿ってるとは違うけど、それは追々としてなぜ僕がここにいるか話すよ ”
「あ、はい。どうそ」
” じゃあ。
あのね、神器がそれぞれの場所に行ったのは悪しき者から逃げる為だったんだ。
抵抗したら城が吹っ飛んで犠牲者が出るかもしれなかったからね ”
「え、悪しき者って?」
” 何かまでは見えないんだけど、とんでもない奴だってのは分かるよ。
あいつは僕達を利用してこの世界はおろか、もう一つのこの世界も支配しようとしているみたいなんだ ”
「もう一つの? ……あの、もしかして俺の世界とここは」
” うん。元は一つの世界で、三千年くらい前に枝分かれしたんだ ”
やはりそうだったんだ。
だから似ているものがなんだな。
「あ、それで皆さんを利用してってのは?」
” 僕達はね、この世界に生きる者達の力を集めていろんなことができるんだ。
だから悪しき者に使われたら、世界を破滅させることも…… ”
「え……じゃあ、そいつはもしかして」
” おそらくね。それとやり方次第で時空を超える力も手に入れられるから、それで向こうに侵攻するつもりなんだろね。
だから向こうも隼人や友里が呼ばれるのを受け入れて、縁者が二人の不在を不審に思わないように手を回したはずだよ ”
「あ、そうですよね。でなかったら大騒ぎになります」
” うん。だからそっちの心配はしないで。
あと、僕達は旅が終わるまで君達が持ってて。
その方が向こうも手を出せないだろし、所々で力を貸せるから ”
「はい、分かりました……って友里さん、どうしますか?」
「え? どうするって?」
友里さんが首を傾げる。
「いえ、危ないからここで待っているか、それとも」
「一緒に行きますよ」
即答された。
「え、あの、いいんですか?」
「はい、こうなったら開き直って異世界の旅します」
友里さんは胸を叩いて言った。
「そうだ、友里さんって回復系魔法使えるみたいだからさ、所々でキクコに教わったらどう?」
「んにゃ、あたすそこまで得意じゃないべ」
ユウト君とキクコちゃんが話していると、
「ああ、よければ拙僧がお教えしましょうか? これでも回復系の魔法使いで、指導者の資格も持ってますので」
ご住職が言ったが、その恰好でRPG魔法かよ。
「え、あ、はい」
友里さんはちょっと戸惑いながらも頷いた。
「では早速と言いたいところですが、病み上がりなので明日にしましょう。ささ、皆様も今日はゆっくりなさってください」
俺達は宿坊の空き部屋に通され、しばらく休んだ後で夕飯となった。
「へえ、お寺って肉料理が無いと思ってました」
出てきたのは肉野菜炒めと鯛みたいな味の身が入った味噌汁。
「本物は昔から禁止ですが、モドキ肉ならいいだろとなったのですよ。ささ、どうぞ」
ご住職がそう言って勧めてきた。
「ああなるほど。殺生してませんからね」
「今はモドキしか食えねえけどな。しっかし神官さんは肉食ってたのに、坊さんはってのがよく分かんねえけどなあ」
俺の後でユウト君が言うと、
「それもあってだったと聞いてます。『神に仕える身でありながら殺生するとは何事だ!』と陛下が激怒なさったとか」
「……陛下ってそんな理不尽な方に見えないんだけどなあ」
「何かお考えがあってだろうと思います」
「あら、具合でも悪いのですか?」
友里さんがキクコちゃんに話しかけていた。
「んにゃ、ちょっと食欲ないべ」
ん? たしかにあまり食べてないな。
いつもだったらもうおかわりしてるかなだし。
「そんじゃおれが食ってやろうか?」
「んだ。どうぞだべ」
キクコちゃんはユウト君に残ってた野菜炒めを差し出した。
「ねえ、どうしたの?」
心配になって声をかけたが、
「んにゃ……あたす、もう寝させてもらうべ」
頭を振って立ち上がった後、部屋から出て行った。
「ありゃなんか悩んでるな」
ユウト君が戸の方を見て言う。
「そう? 俺、聞いてくる」
「今はやめとけ。たいてい一晩寝たらけろっとしてるけど、もし明日になってもだったらそん時にな」
ユウト君が頭を振って言った。
「……うん、分かったよ。やっぱ小さい頃から知ってると違うね」
「うん。でも小さい頃からなもんで、やっぱ俺は兄貴分だよ」
「もしかして……?」
友里さんは何か気付いたのかな?
言えばよかったかな?
いや、そこまで手を出したらダメか。
うーん……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます